“お江戸のコミック”を現代語訳 同人誌『黄表紙のぞき』が江戸文化の扉を開く:司書みさきの同人誌レビューノート
難易度の高かった「くずし字」を読みやすく。
風薫る季節。連休には各地で同人誌即売会も開かれ、にぎわっていました。気候が良いと会場をもうひと巡りしてみようかな、なんて余力も生まれます。いろんな同人誌がある中で、今回は江戸時代の本にスポットを当てた同人誌です。
今回紹介する同人誌
『黄表紙のぞき』A5 146ページ 表紙カラー・本文モノクロ
作者:大和愛
江戸時代の面白本『黄表紙』を読む
黄表紙は、江戸時代に流行した絵入りの物語本です。画面いっぱいにどーんと絵があり、文章が添えられています。見開き1ページで1画面なのでどんな場面を描いているのかは読みとりやすいのですが、文章はうねうねしたくずし字でさすがに分かりにくい! そこをカバーするのが、このご本。もともとのページのレイアウトをそのままに、文章を現代風に訳したものと一緒に掲載されています。
実際の紙面になるべく近い位置に文字が入りつつも、読みやすい今どきの語句で物語が進み、しかも欄外にちょっとした解説がついているので、「江戸時代の物語を読む」というハードルがものすごく下がっていて、さらっと黄表紙の世界に入っていけます。そうすると、がぜん面白く感じるのが、物語そのものの突拍子のなさや、クラシックな中にも味のある絵の魅力です。当時のエンタメ本だけあって、夢オチ、恋愛、ビジネスネタもなんでもあり! な黄表紙ワールドが幕を開けます。
桃太郎のその後は、鬼を巻き込んだ恋愛すったもんだストーリー!? 二次創作、お笑い、セクシー路線の多彩さ
このご本では、黄表紙の代表作や傑作5作が掲載されています。どれもユーモラスで時々捻った表現もある、笑える大人向けです。
例えば鬼退治をした桃太郎一行はその後……という出だしで始まる『桃太郎後日噺』は、鬼が島から連れてきた鬼が意外に色男でモテた結果、三角関係のトラブルに発展してしまう、どたばたストーリー。終盤では鬼のかつての許嫁(いいなずけ)も突然やってきて、四角関係で壮絶にもめるエンタメっぷり。もうこの頃から「○○の続きを考えてみた!」という創作を楽しんでいたのですね。めでたしめでたしで終わったはずの元祖桃太郎と、どろどろ恋愛を垣間見てしまうギャップを、当時の人たちが大人っぽく面白がっていたのが伺えます。
また、当時の出版業界の裏側を書いた『的中地本問屋』も見逃せません。作者は十返舎一九先生。教科書に載ってたお名前です。
売れる本を作りたいと、作者のアイデア出しからはじまり、本作りの職人さんから卸の現場まで一通りの出版の流れを追いますが、売れる秘策として使われるのが謎の薬。怪しい材料で作られた謎の薬やお酒を、勤務者にこっそり飲ませることで職人さんたちはめきめき力を発揮。超速で仕上げさせてベストセラーを狙うという、ビジネス的には夢のストーリー!? 超人的な速さで紙を二つ折りにしてとじていくさまは、なんだか現代の私たちがイベント前夜にコピー本を作る様子を連想させますが、現代の印刷と大きく違うのは原稿が仕上がったら版画で刷るため、まず職人さんたちが版木を彫るところでしょうか。なんでも妙なお守りや謎の薬でパワーアップさせるおかしみと同時に当時の出版のバックヤード拝見もののような楽しさがあります。十返舎一九先生って面白いお話をお書きになってる……!
「私が訳してみたかったから!」それが江戸時代への架け橋
掲載されているお話は黄表紙として有名な作品もあり、訳本や解説本はすでに世の中にあります。それでも作者さんがこの本を出したのは「何より私が訳してみたかった」からだそうです。わあー、それすごくいいですね! 自分が面白いなって感じた世界を、「ねえねえ、こんなのって面白いよ」って自分なりに伝えられると、聞く方も「へぇー、それでそれで?」って興味がわきます。「もう世の中にこんな情報あふれているし……」と立ち止まるのではなく、楽しい! やりたい! で軽やかに駆けだされたのってとてもすてきですね。しかも、欄外の解説や、文章の言い回しのリズムに気を付けたりと、好きだからこその丁寧さと細やかな心配りに、本づくりへの愛を感じます。
そしてこちらは、国立国会図書館のデジタルコレクションで公開されているデータを底本にされています。著作権の切れた江戸時代のお話のデータを、こうして一人の人がデジタルを通じて面白さをよみがえらせる、現代ならではの活用の妙もうれしく思いました。
サークル情報
サークル名:大和堂
Twitter:@pororon_s
Webサイト:https://daiwadou.jimdo.com/
入手できる場所:アリスブックス
次回イベント参加予定:「文学フリマ大阪」に出店予定(9月8日)
今週の余談
今年は同人誌即売会のはしご、なんてぜいたくなこともしてみました。同人誌即売会ごとに、集っている作品、人に特色がありますね。小学生の方が作られた同人誌も、何度かお見かけしました。いろんな年齢の方が楽しんでらっしゃいますねー。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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