理学部生だったあの頃の自分に伝えたい 作者の後悔から生まれた同人誌『理学部生を手伝うイモリ』司書みさきの同人誌レビューノート

イラストはかわいいけど中身はマジ。

» 2019年04月14日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 春ですね。さまざまな新しいスタートを切った人、またその頃を懐かしく思う人……春は初々しい雰囲気にあふれています。当連載も「司書みさきの同人誌レビュー」としてリニューアルスタートです。

 そんな今回は理学部生さんの学生生活の開始にぴったりな同人誌『理学部生を手伝うイモリ』をレビューします。

今回紹介する同人誌

『理学部生を手伝うイモリ』A5 32ページ 表紙・本文カラー

作者:おすとらこーだ


同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ イモリ 理学部 このかわいいイモリさんが案内してくれます

学生時代に知っておけばよかった! 先人の知恵が詰め込まれた丁寧な理学部生ガイド本

 こちらの同人誌は、理学部出身の作者さんが「もっと早く知っていたら、効率よく進められた」というご自身の反省を踏まえ、「もし過去にもどって自分に出会うことができたらこれを教えたい!」という気持ちで書かれた、理学部とは何を学ぶところかを解説した同人誌です。

 学部の説明、講義を選択するといった大学生になってはじめて出会うことの説明から、論文を読んだり探したり、研究発表の心得まで。入学から卒業までが1冊にまとまっています。

同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ イモリ 理学部同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ イモリ 理学部 作者さんの後悔……そこからこんなご本ができました

実験レポートの書き方も液体窒素を運搬する方法も。垣間見える理学部生活にわくわく

 何かを学ぶとき、それぞれの分野には独特の方法があるものですが、それにしてもエレベーターを使って液体窒素を運搬する方法なんて、いままで考えたことなかったです! そんなことがさらっと載っていて、知らなかった理学部生さんの学生生活を垣間見ているような楽しさがあります。

 一方、実験レポート講義の選択の仕方などはどの学科の学生さんにも共通する出来事ですし、危険予測をしようとか、体調管理に気を付けるというのは、もう社会人をやっている人、誰にでも役立ちそうな項目も多いです。

 この専門性と普遍的お役立ち感のバランスの良さに加えて、登場してくる両生類のイラストが絶妙にのんびりした空気を醸し出しているんです。

 例えば、「研究室を選ぶ」という項目の先生紹介は、

  • 講義が面白いので学生に人気。面倒見はいいが金はないメキシコサラマンダー准教授
  • ハイレベルな教育 学科内の発言力が強い オオサンショウウオ教授
  • 完全放任主義 新しい機器がすき アメフクラガエル准教授

などなど、文章説明で「どの先生の研究室を選ぶかで、確かにいろいろ変わってきそう……」というリアルな悩ましさを感じつつ、メキシコサラマンダー准教授の個性的ないで立ち、オオサンショウウオ教授のどっしり安定ムードのイラストがあることで、なんだかほのぼのと「先生もいろいろな方がいらっしゃるよね!」と、ふふっと笑う、ちょっとした余裕が生まれた気がします。

同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ イモリ 理学部 「迷ったら気になる研究室の教員に早めに連絡をとって見学に行くといイモリ」などのアドバイスが役に立ちそう

ゆるくも優しい先輩目線。ありがとうイモリ先輩

 カラフルな色使いと、目の大きなイモリさんたちのイラストがたくさん添えられていて和むわーと、ぱらぱらとページをめくっていたのですが、通して読むと、はっと気付きました。このゆるさ……あらためて考えるとすごい! ガイド本ともなると、ついついあれもこれもと詰め込みたくなりますが、このご本は1項目につき長くても見開きで説明が終わっています。しかもイラストも多くて要所要所のコメントが短い。ゆるく見えるのに、なんでも知ってて的確なアドバイスをぽろりとこぼしてくれるイモリさんのすごさにあらためて気付きます。イモリ先輩! と呼びたくなるさりげない頼もしさが光ってますよ。

 大学のガイダンスで教えてくれるようなストレートな紹介と、経験者ならではのコツがそこかしこにちりばめられているのが、このご本のお役立ち度を押し上げています。右も左も分からない学生に寄り添ってくれるイモリさん。なんと心強いのでしょうか。

 新人のうちはとにかく目の前の道を走ることでいっぱいいっぱいですが、そこに投げかけられる経験者ならではのコツ。それが真正面からだけでなく、違う視点からのヒントを与えてくれる優しさ……新生活の始まりをイモリ先輩とともに踏み出したくなります。

同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ イモリ 理学部 書き込みページもあって実践的です

サークル情報

サークル名:あとりえ・おすとら

Twitter:@Dietrich_R

次回イベント参加予定:博物ふぇすてぃばる!(7月20日〜21日)



今週の余談

 連載リニューアルにあたり、しきしまさま(@shikishima)にバナーイラストを描き下ろしていただきました! 人工衛星を女の子にしてみることでものすごく人工衛星に興味と愛着がわく、しきしまさまの名著『萌衛星図鑑』から感じるままに、細やかでかわいらしい雰囲気のバナーになりました。ぜひ細部までよーく見てみてください。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


関連キーワード

同人誌 | 図書館 | 学生 | コミケ | イラスト | レビュー


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/05/news022.jpg 「クレオパトラみたい」と言われ傷ついた55歳女性→カット&パーマで大変身! 「本当にびっくり」「素敵なマダムに」
  2. /nl/articles/2410/05/news040.jpg 伝説の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」放送から41年、キャストの現在→75歳近影が「とても見えません」と話題
  3. /nl/articles/2410/02/news116.jpg 余りがちなクリアファイル、“じゃないほう”の使い方で食器棚がまさかのスッキリ 「目からウロコ」「思いつかなかった!」と反響
  4. /nl/articles/2410/05/news023.jpg 七五三で刀を持っていた少年→20年後には…… “まさかの進化”に「好きなもの突き進んでかっこいい!」
  5. /nl/articles/2410/05/news018.jpg 野良猫が窓越しに「保護してください」と圧をかけ続け…… ひしひし感じる強い意志と表情に「かわいすぎるw」「視線がすごい」
  6. /nl/articles/2410/05/news012.jpg 「あのお客さんに幸あれっ!」 小銭の出し方が完璧な“神客”にレジ店員感激 会計がスムーズになる配慮が参考になる
  7. /nl/articles/2410/04/news048.jpg 「こういうの好き」 割れたコップの破片を並べたら…… “まさかの発想”で息を飲むアート作品に 「すごいセンス良い」「前向きな考え」
  8. /nl/articles/2410/04/news040.jpg 50代女性「モンチッチみたいにしてほしい」→美容師がプロのワザを見せ…… 別人級の変身に「めっちゃお洒落」「すごい!」
  9. /nl/articles/2410/04/news025.jpg 「これが免許証の写真???」 コスプレイヤーが公開した“信じられない”免許証が話題 コスプレ姿との比較に「両方とも可愛いすぎる」
  10. /nl/articles/2410/05/news032.jpg 大型犬が18年間、ドアを開け続けた結果……そうはならんやろな驚きの末路に「どうしたらこんな風になるのよ」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声