テーマは「仮想空間」の大阪万博 妄想をイラスト化した同人誌『EXPO’70夢想 mini』 司書みさきの同人誌レビューノート

過去に戻れないなら、未来を想像すればいいじゃない。

» 2022年06月26日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 50年前って何をしていましたか? 懐かしく思い出される方もいれば、覚えてないな、生まれてないよ、という方ももう多いのではないでしょうか。過ぎた時代の中で、華やかに浮かび上がってくるあのとき……今回のご本は1970年に開催された大阪万博(日本万国博覧会)が、開催から50年以上を経過したいま大好きになった作者さんによる同人誌です。

今回紹介する同人誌

『EXPO’70夢想 mini』A5 16ページ 表紙・本文カラー

著者:目路楼


同人誌の表紙 やわらかで明るい線と色が表紙を彩ります

 作者さんは1970年開催の大阪万博に行ったことなく、その跡地である万博記念公園内の施設、「EXPO’70パビリオン」を訪れたことで、この催しのことが大好きになったのだそうです。しかしどんなに行ってみたくても、会期は50年以上前に終わっています……。行先を失ったエネルギーを、作者さんは「行ったつもりになって夢想・妄想する」という手段で発散することにします。

案内役は当時のホステスさんと未来のガイド役がそろい踏み

50年以上前の万博がもしも仮想空間でよみがえったら? なイラストが明るくきらめく

 ご本は「1970年の万博がもしも仮想空間でも開催されることになったら?」をテーマにしたイラストと解説がメインです。当時の建物や、案内役の制服などをベースに、「こんな新しい要素が追加されたら楽しいかも!」な部分が想像で足されています。

 実はこのご本の製作期間は1週間ほどだそうで、取り上げられている施設は3館、まだまだこれから描きたい部分があるとのこと。しかし、フルカラーのイラストはカラフルで華やか、イラストを挟んで前後にある説明のマンガもかわいらしく、短い製作期間での勢いと、見せたいところをきちんと両立して提示されています。わくわくするポイントが「注目した部分はここ」「こんな展開だったりして」とページのなかに織り込まれ、イラストでも、文章でも伝わってきます。大好きの表現の仕方として過去に浸っただけでなく、もう一歩自分なりに踏み出して構築したところに、かわいらしい画風が相まって、やわらかな明るさを感じました。

こちらは、制服からイメージしたタカラ・グループのパビリオン

過去の記録から未来へ進む。イベントが残したものの受け取り

 勢いのもとになったのは、作者さんご自身の中にインプットされた情報量の多さだったようです。公園で魅力を知ったのをきっかけに、書籍などから情報を得たとのことですが、過去に盛大に盛り上がったものでも、全く記録がなければ、50年後にふりかえるのは困難だったことでしょう。今に残るものをたどることで次の発展にアウトプットできたもとには、豊富な記録があったとも言えると思うのです。

 それでもご本の中では「当時の様子が掴み切れない」という部分が何度も出てきます。これがもし、詳細な記録に自由にアクセスできたら、もっともっと夢見る力は大きくなるのではないか……と、未来の会場を、仮想空間という情報が集合する場に設定されたイラストを見ながら思うのです。

 作者さんの「行ってみたい」という夢に読み手も一緒に乗せてもらうことで、ページの中でわくわくする新しい会場を共有できました。シンボリックな部分をとっかかりに、過去と未来を一画面で見せることで、“今”にも思いをはせる、そんなことが自然と楽しめるご本でした。

今後描きたいところもいろいろあるそうです!

サークル情報

サークル名:目路楼閣

Twitter:@yumekijiiro

Pixiv:目路楼

入手できる場所:BOOTHメロンブックス


今週の余談

 1970年の大阪万博の開催期間は3月15日〜9月13日だったそうです。私も当時のことを知りたくなって、当時のお天気を調べてみました。気象庁のサイトで公開されている情報によると、1970年6月26日の大阪は最高気温23.9度、最低気温19.2度の曇りの日だったようで、少し肌寒いくらいの過ごしやすい日だったのかしらと想像します。しかし前日は大雨で、2日後は最高気温30度まで上がっているみたい……! 今も昔も、初夏を迎える前の天気の慌ただしい変動を感じます。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」