「エルヴィスって誰?」 プレスリーを知らない若者にムーラン・ルージュ監督最新作が刺さる理由 バズ・ラーマン来日インタビュー(2/2 ページ)

» 2022年07月01日 18時00分 公開
[小西菜穂ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

「親戚のおじさんの裏の顔を知ったときのような」 “全米の父”トム・ハンクスが演じる初の悪役

 プレスリーの生涯を描きながら、同作を「伝記映画ではなく、50年代から70年代までのアメリカを描きたかった」と話すバズ。語り手としてストーリーの中心に添えたエルヴィスのマネージャーだったトム・パーカー大佐は黒いうわさの絶えない人物で、エルヴィスの稼ぎのうち5割が彼の取り分という事実が明るみに出て「搾取」として法的にも問題となり、“エルヴィス・プレスリーを殺した男”の悪評は現在まで付きまとっています。

トム・ハンクス演じるトム・パーカー大佐 5時間かかる特殊メイクでトム・パーカー大佐になりきったトム・ハンクス

―― 映画はエルヴィスではなく、彼のマネージャーだった“トム・パーカー”の視点で進んでいきます。彼にフォーカスした意図は?

バズ トム・ハンクスが演じるトム・パーカー大佐……実のところ彼はトムという名前でも、パーカーでも大佐でもないという偽りだらけの人物だったけれど、何かを売ることに関しては天才的で常にそれだけを考え、クリエイティブや魂の部分はアーティスト任せだった。マネジャーとアーティスト、両者の関係がうまく機能すればいいのだけれど、ひとたびマネージャーが搾取を始めればアーティストはとらわれたも同然で、悲劇的なエンディングを迎えかねない。

 いまや有名なマネジャーとアーティストのタッグはあちこちに存在するし、中には支配、搾取され窒息しそうなアーティストがいることをわれわれは理解している。それでもアイドルはたくさんお金を持っていて、ジェットで移動しいい生活をしているという幻想も同時に存在するんだ。

 エルヴィスは生前「作り上げられたイメージ通りに生きていくことは難しい」と言っていた。現代の多くの若いアイドルも同じだ。かなりのプレッシャーにさらされ、ときに負けてしまう姿が見て取れる。彼らがファンタジーの世界を生きているという夢をファンに見させ続け、人間的な面を隠し常に完璧でいることは不可能だ。そのことをさらして、エモーショナルでカラフルなミュージカル映画を作りたかった。

―― そのパーカー大佐役にはトム・ハンクスを抜てき。いわば“ハリウッドの良心”と長らく目されてきたオスカー常連俳優で、悪役を演じることがこれまでほぼありませんでしたが、キャスティングの意図は?

バズ 全ての俳優は、「自分はもっと幅広い役を演じられるんだ」と示したいものなんだ。トムが楽器だとしたら「もっと別の音程も出るんだぞ」と証明したがっていた。彼自身、ダークな役を演じることにワクワクしていたよ。

―― “いい人”というイメージがあるからこそ、スマイルが不気味に見えました……。

バズ キモいってことでしょ(笑)。何が面白いって、アメリカでトム・ハンクスといえば“全米の父”とでもいうべき存在。だからこそただの悪役というより、観客は不安な気持ちになったみたいだね。面白くていつもいい人の親戚のおじさんが、実はろくでなしだったと知ったときのような。トム・ハンクスに関してはみんなそういう気持ちになるみたい。

―― ところでトム・ハンクスといえば、代表作「フォレスト・ガンプ/一期一会」でエルヴィスにちょっとした縁が。エルヴィスに独特のムーブを思い付くヒントを与えたのは、幼少期の彼だというシーンがあるのですがご存じでしたか?

バズ トム・ハンクスともなれば、どんな事象にも過去の作品から結び付いちゃうものなんだよ。記者会見で誰かがメンフィスを話題にしたときにも、(同地に拠点を置く運送会社)FedExに話が及んだら「うーん、僕はFedExについてはちょっと詳しいんだよね。『キャスト・アウェイ』に出ていたからさ」と答えてくれた。あの映画でトムはFedExの従業員役を演じていたからね!

監督自ら役になりきることでスタートする バズ・ラーマン流映画製作

バズ・ラーマン とってもおしゃれ

―― ファッションのこだわりについて聞かせてください。今日もおしゃれなジャケットですね。

バズ ありがとう。これはパイソン(ヘビ皮)のジャケット。僕が殺したヘビじゃないからそこのところはよろしく(笑)。

 ミウッチャ・プラダと妻(キャサリン・マーティン)が今回の作品のファッションには大きく寄与してくれた。「ロミオ+ジュリエット」でディカプリオが最初に着ていたスーツは、ミウッチャが初めて手掛けたメンズウェア。「華麗なるギャツビー」でもミウッチャは非常に協力的だった。

―― エルヴィスの衣装だけでも90着を用意されたそうですね。撮影現場でも監督は毎日おしゃれだったとのスタッフ証言を拝見しましたが、スクリーン内外で着るものにこだわる理由は?

バズ 「ギャツビー」も映画製作にとりかかる4年前からその世界に身を置いていたんだ。キャラクターの衣装を自分で着ることで、その心情が理解できる。「エルヴィス」の衣装も早い段階から着ていたよ。妻が優れたデザイナーでね。現場でも衣装を着るのは同じ理由から。もうすぐエルヴィスの衣装からは卒業するんだけどね。

 今日の衣装はエルヴィスというより1970年代風。ネックレスは「Taking Care of Business(エルヴィスのモットー)」の略で、オーストラリアのパールを使っているんだ。「Paspaley」はシャネルも買い付けているブランドだよ。

バズ・ラーマン エルヴィス・プレスリーを演じるオースティン・バトラー バズ・ラーマン トム・ハンクス演じるトム・パーカー大佐 バズ・ラーマン

タイトル:『エルヴィス』

公開表記:7月1日(金)ROADSHOW

配給表記:ワーナー・ブラザース映画

監督:バズ・ラーマン『ムーラン・ルージュ』

出演:オースティン・バトラー(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/2度のアカデミー賞受賞俳優トム・ハンクス『フォレスト・ガンプ/一期一会』/オリヴィア・デヨング(『ヴィジット』)/コディ・スミット=マクフィー(アカデミー賞助演男優賞ノミネート 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)


(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」