戸惑うほどの日本好き “サウジ”で日本アニメが急上昇しているワケ(3/3 ページ)
アニメだけにとどまらない中東での日本人気
ジェッダに取材した際、プライベートでブラジリアン柔術の道場を訪ねて稽古に参加させていただいた。
「ジェッダで育ち、ロンドンで学び、柔術を知って帰国。道場を開設した」という道場主のマレク氏は「日本というだけで、僕らは興味を持ちます。そこに学びがあると感じるし、アニメコンテンツには子どもから大人に至るまで、ずっと楽しい思い出しかありません」と話した。
アニメビレッジを訪れていた25歳の女性は「8歳のころから日本のアニメを観ていました。他の日本のキャラクターも大好きです。サンリオグッズを集め、アニメを観ながら育ち憧れ、19歳の夏休みに初めて日本に行ったんです」と話した。現在は短縮されているそうだが、当時のサウジでは夏休みが3カ月もあり、その期間、ずっと日本に滞在。大学生時代は毎年、日本に滞在していたという。
流ちょうな日本語を話す彼女が日本語を覚えたのは、最新のアニメを楽しむためだ。インターネット配信が行われるようになった昨今、最新アニメを観るために日本語を覚えるファンは多いという。彼女はイントネーションを含め、違和感がないほどの会話力だった。
アニメだけではなく、音楽なども日本人アーティストへの親しみがあるという。ジェッダ・シーズンの音楽イベントでは、miwa、Miyaviといったアーティストが単独コンサートのために招聘(しょうへい)され、いずれもチケットは完売。大人気を誇ったという。
サウジから日本カルチャーへのラブコールがある一方で、日本のエンタメ企業からサウジへの注目度はこれまで低かった。アニメ制作会社から見て、どのような国なのか分からないサウジが“遠い存在”に思えるのは致し方ないところだろう。何しろ、この国には2019年まで、エンタメ産業はほぼ存在していなかったのだから。
しかし、今回のジェッダ・シーズンにおける成功は、アニメを中心にさまざまな日本カルチャーが中東市場での足場を固めるきっかけになるかもしれない。
エンタメ市場を共創できることが最大の魅力
アニメヴィレッジでは、通常なら同じエリアにパビリオンが並ぶことがなさそうな、多様な権利保有者が並んでいることにアニメ業界の方は驚くかもしれない。もちろん、それぞれの権利者を個別に説得したから実現したことだが、それをセラが行えたわけではない。
このプロジェクトをまとめたのは、アジア地区で日本文化に根ざすエンタメ事業を手掛けてきたエイベックス・アジアだ。同社はセラからの依頼で各人気アニメの権利を持つ知財オーナーと交渉し、短期間でパビリオンの内容をまとめ、現地での印刷物やブース設営、等身大フィギュア制作などの制作管理までを行なったという。広告代理店ではなく、エンターテインメントイベントを手掛ける同社が、具体的なビレッジ建設に必要なコンテンツまでをイメージして作ったからこそ可能だったのかもしれない。
実はエイベックス・アジアは花火と音楽を融合したエンターテインメントショー「STAR ISLAND」を企画/制作し、幾つかの国でイベントを成功させてきた実績がある。このショーはサウジでも2019年の同国の建国記念日を祝い祭典で開催され、日本のカルチャー・音楽をフィーチャーした催しとして大好評を得た。この成功により、サウジの政府系組織や政府とつながりの深いセラとの信頼関係を築いたことが、今回のアニメビレッジ建設への協力依頼へとつながったという。
“日本アニメの輸出”といってもさまざまな形があり、また日本アニメの権利保有者も数が多い。まして商習慣について見知らぬ中東の国々と取引となると、そこには多数のハードルがあることが想像できるだろう。まだサンリオやアニメイトでの具体的な売上集計などは出ていないが、かなり好調に推移していたようだ。
アニメを中心とした日本のコンテンツへのアクセスも、海外向けにコミックと動画のストリーミングサービスを提供しているCrunchyrollが中東向けにもサービスを展開している。サウジだけの集計はないが、その会員数が大きく伸びているとのことだ。サウジだけではなく、中東の若年層は英語力が高く英語サービスがあれば、コンテンツを積極的に楽しめるそうだ。
また、5月19日から中東8カ国(バーレーン、エジプト、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)で公開されていた「劇場版 呪術廻戦 0」も、ハリウッド映画並みの人気の作品となってロング公演が続いている。
まだ始まったばかりの中東市場開拓だが、まだ入り口に立ったばかりだ。何より国を挙げての取り組みの中、国民全体が歓迎する空気があるだけに、さらなる発展の可能性は大きいだろう。
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