映画『ゆるキャン△』インタビュー 監督・京極義昭が語るシリアスシーンを描く覚悟と恐怖(2/2 ページ)

» 2022年08月05日 18時00分 公開
[宮澤諒ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

『ゆるキャン△』らしからぬシリアスシーンを描く覚悟と恐怖

―― なでしこたちはそれぞれ職に就き、仕事も絡みながらキャンプ作りに勤しんでいくわけですが、これまでの『ゆるキャン△』らしい“ゆるさ”とのバランスはかなり難しかったのではないでしょうか。

京極監督 難しかったですね。働いているとストレスもかかるし、うまくいかないことも多い。そういう葛藤みたいなものをどこまで描くかというのは、かなり気を遣いました。生々しくやってしまえばいくらでもきつい描写はできるんですけど、それをやってしまうと見てる人もつらいだろうし、『ゆるキャン△』の世界観からも外れてしまう。

 『ゆるキャン△』って、嫌な人が出てこない作品なんです。特にまわりの大人は、なでしこやリンたちを過保護でも放任でもなく、ちょうどいい距離感で見守ってくれている。だから彼女たちが大人になって働きだしても、まわりにはそういう大人たちが多いんじゃないかと考えました。

映画「ゆるキャン△」 アウトドア用品店で働くなでしこと店長の小牧
映画「ゆるキャン△」 出版社で働くリンを陰ながら支える上司の刈谷

 映画としては当然、主人公の葛藤みたいものを描くために強いストレスをかけるのは定石なんですけど、やってみるとなんかしっくりこない。だから、やり過ぎないようにとバランスには気を付けました。ここは本当に難しかったです。

―― 物語の中盤では、原作やアニメシリーズでは見られないようなシリアスな展開もありました。よくあるシーンではありますけど、これを『ゆるキャン△』で描くのかと、見ていてとても衝撃を受けました。

京極監督 そうですよね。そこが本当にチャレンジでした。どこまで踏み込んだ見せ方をするべきか、悩みながら作ったんですけど、最終的にはすごくいいシーンになったと思っています。コンテと演出を担当していただいた浅野(景利)さんが、本当に良いものをあげてくださって。

 おっしゃる通り、テレビシリーズでは見られないシリアスなシーンですが、彼女たちが大人になり何かをやろうとしたときに起こりうることとしては自然なことだと思うので、逃げずに描写しようと思いました。作っていて、本当に怖かったですけどね(笑)。

映画「ゆるキャン△」

―― そのシーンは、音楽も印象的でした。

京極監督 立山(秋航)さんに悲しい音楽をお願いしたことがなかったので、これもチャレンジでした。テレビシリーズみたいな楽しい音楽は合わないし、かといって悲しすぎてもいけない。一番いい塩梅(あんばい)を、何度もやりとりしながら作っていただきました。

―― 過去のインタビューでは、『ゆるキャン△』はチャレンジしていく作品だと語られていました。先ほどからいくつかのチャレンジを語っていただきましたが、一番のチャレンジは何になるのでしょうか。

京極監督 やはり原作の未来を描くことですね。先ほども言ったように賛否両論が必ず起きる道ですけど、『ゆるキャン△』という作品を、もっとたくさんの方に長く楽しんでもらうためには、自分たちが今までに作ってきた作品の魅力や良さみたいなものに固執して、それだけを守るような姿勢ではいけないと思っています。「ファンムービー」を作ればこれまでのファンの方は喜んでくださるかもしれないですが、新しいファンの方に届くかどうかは分からない。深まるかもしれないけど、狭まってしまう気がするんです。

 もっとたくさんの人に作品を伝えていくのが、原作を預けていただいている僕らの役割だと思っています。なのであえて作品の枠組みを広げるチャレンジをして、新しい切り口で『ゆるキャン△』の魅力を提示したい。映画化に関してはそれぐらい確固とした意志を持ってやりました。僕らのやれる一番いい道を選んだと思っています。

―― 映画の尺を120分にした理由はありますか?

京極監督 もともとは100分くらいの予定だったんですけど、コンテを描きだしたらどんどん長くなっちゃって。テレビシリーズのときからたいてい脚本よりも長くなってしまうんです。ロケハンを頻繁にやっていくと、魅力的な風景とか食事に出会って、これは出したいこれも大事と、いつもいっぱい盛り込もうとしちゃうんですよね。映画でも脚本上は確かに収まっているのに実際は全然収まらず、声を録ってもらったのに泣く泣くカットしたシーンもありました。申し訳ないと思っていますが、ギリギリ収めた結果の120分なんです。

映画「ゆるキャン△」 鳥羽先生をはじめ、おなじみのキャラクターたちも多数登場
映画「ゆるキャン△」 チビ犬子こと犬山あかりは美術大学に進学していました

―― アニメ映画を作りたくて監督という道へ進まれた京極監督にとっては、今回の映画で一つの夢がかなった形になると思います。映画の制作を終えた今、監督が取り組んでみたいことはありますか?

京極監督 テレビシリーズ、映画とやらせていただきましたけど、力不足を痛感する日々でした。もちろん自分たちにしかできない作品を作ってきたという自負もあるんですけど、もっと良い見せ方だとか作り方ができたんじゃないかという、反省点も多かったんです。そういった意味では、さらにでかい企画をやってやろうというよりは、もっと演出家として修行を積みたいという気持ちの方が強いです。

 『ゆるキャン△』では、優秀なスタッフたちに恵まれて、本当に助けてもらいました。でも、こんなに良いスタッフがうまくピースがはまるように集まることはそうそうないので、スタッフの力に甘えることなく良い作品を作れるよう、力をつけていきたいと思っています。偉そうにインタビューを受けていますけど、僕がやっていることなんて本当に大したことないんですよ。あの情報量を絵に落とし込むということを、スタッフがどれだけ大変な思いをしてやっているか。いつも本当に感謝しています。

 もっとたくさんのお客さんに『ゆるキャン△』の魅力を届けたいと思っていたので、映画をやらせてもらったのは本当にうれしかったです。見られなかった景色を見させてもらいました。この間の舞台挨拶でも、あれだけ多くのお客様が来てくれて本当に幸せでした。もちろん、あfろ先生の原作あってこそですけど、やってきてよかったなって。本当に感謝しています。

(C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/08/news015.jpg パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  2. /nl/articles/2502/09/news024.jpg 海釣り中、黒猫に「ちょっと来い」と呼び出された釣り人 → 付いて行くと…… 運命のような保護から2年、飼い主に話を聞いた
  3. /nl/articles/2502/06/news012.jpg 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  4. /nl/articles/2502/08/news091.jpg 北海道の“雪のヤバさ”が伝わる写真に460万表示の反響 衝撃的な光景に「何かの冗談でしょ?」「見たことない景色」
  5. /nl/articles/2502/09/news006.jpg 1歳赤ちゃん、大好きなおばあちゃんがサプライズ登場すると…… 涙が出そうになる反応に「ひいいい!ヤバい」「最後しゃべってない?」
  6. /nl/articles/2502/09/news052.jpg 理容師に「53歳?」と聞かれた30代男性、思い切ってイメチェンしたら…… 「おじいちゃんからパパに」「めっちゃハンサム」と大好評の16万いいね
  7. /nl/articles/2502/09/news026.jpg スーパーで売れ残った瀕死のケガニを水槽に入れたら……翌日、まさかの展開 胸を打つ光景に「鳥肌立った」「泣きそう」
  8. /nl/articles/2502/09/news037.jpg 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」 投稿者に話を聞いた
  9. /nl/articles/2502/08/news018.jpg 92歳じいちゃんに、生後3カ月の赤ちゃん柴犬を会わせたら…… 家族みんな涙を流して大爆笑の展開に「どっちも可愛い」「いいなーww」
  10. /nl/articles/2502/09/news025.jpg 92歳おばあちゃん、朝食とその後をのぞくと…… 「すごすぎる」「度肝を抜かれました」日課に驚きの声
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議