読む人の“世界を変えてくれる存在”であれば―― DUSTCELLが小説『クロスの行方』& 『独白シネマ』に込めた切実な祈り(1/3 ページ)
「小説は日常に非日常を差し込んでくれる存在」。
ボーカルのEMAさん、コンポーザーのMisumiさんによる2人組音楽ユニット「DUSTCELL」。2019年10月の結成以来、YouTube再生回数660万回を突破したデビュー曲「CULT」を皮切りに、「Heaven and Hell」「DERO」「火焔」などの人気曲を次々に発表し、2022年8月末には1stミニアルバム「Hypnotize」リリース、11月にはワンマンライブ「PREPARATION」も予定しています。
快進撃を続けるユニットの楽曲を基にした「DUSTCELL×小説プロジェクト」もこのたびスタート。新人作家の中村紬さんが「CULT」や「izqnqi」など5曲を基にした小説集『クロスの行方』が7月22日に、「独白」MVを手掛けた映像作家の中絲悠さんが同曲を小説化した長編『独白シネマ』が8月26日に刊行されます。
感動的なものからサスペンスフルなものまでさまざまなタッチの作品を収めた『クロスの行方』、犯罪絡みのすさんだ日々を生きている大学生・想を巡る奇跡と再生を描き切った『独白シネマ』を通じ、DUSTCELLが持つ幅広い世界観の一端が明らかになります。EMAさんとMisumiさんのお2人に、自分たちの楽曲の小説化へ抱いた率直な思いや、自分たちの活動に与えた影響などを突っ込んで聞いてみました。
「初の作品とは思えない」称賛された小説
―― 今回刊行される『クロスの行方』『独白シネマ』は、「DUSTCELL×小説プロジェクト」を基にして生まれたものだとうかがいました。プロジェクトのきっかけを教えていただけますか?
「DUSTCELL」Misumi(以下、Misumi) まず2021年の頭に、中絲(悠)さんに「独白」のMVの制作をお願いしたとき、企画書がいきなり「小説」の形で上がってきて(笑)。
こちらが驚いて「今まで小説書いたことあるんですか?」と聞いたら、この作品が初めてだと。読んでみたら「初めて」というクオリティーじゃないなと思う出来で。
「DUSTCELL」EMA(以下、EMA) とにかく面白かったんです。
Misumi 「せっかくだから何か形にできないか」ってことで、小説プロジェクトが始まった形です。
―― 小説初執筆の中絲さんはもちろん、『クロスの行方』を担当した中村紬さんも新人作家ですね。2人を起用したきっかけは何だったのでしょう?
Misumi セカンドアルバム「自白」(2021年10月)のリリースを決めた際、「DUSTCELLの曲って物語と相性がいいんじゃないか?」と考えたんです。楽曲を短編小説にしたものをnoteを使って誰でも読める形にして、楽曲やMVの解釈をより広められたらいいなって。
そこで、プロジェクトに適任な人を探した結果、中村さんに出会って『クロスの行方』が誕生した、という次第です。
さっきお話しした中絲さんの小説も、そのタイミングで事務所の方が出版社の担当の方に中絲さんの話をして「独白」のMV企画書の小説を読んでもらったところ、「初めての作品とは思えない」という反応をいただいたそうで。
―― 私もあっという間に読了したのでその言葉は分かります!
EMA 今まで読んできた小説と比べて何の違和感もありませんでした。
Misumi もともとは企画書として書かれたものなので、最初はもっと少ない分量だったんです。ただ、「独白」のMVもあれだけ壮大な世界観で作られていたので、長編にトライしていただくことになりました。
曲の“解像度”が小説化で高くなりました
―― ただただ驚きです……。DUSTCELLの楽曲を小説化するにあたって、「命の行方」や「izqnqi」のように元の楽曲やMVの世界と比べて、作者独自の視線がかなり加わったケースもありました。こだわりの楽曲を他者の解釈に預けるのは一見怖いようにも思えますが?
Misumi お2人の書いた小説を読んですごくいいなって。だから不安はなかったですね。
EMA 人に委ねることへの恐怖心よりも、自分たちの作った曲が小説という形で広がっていくことへの興味関心の方が強くて。
「そんなことができるんだ……!」っていう驚きとか、今までやったことがないことに対する新鮮さがあったので、僕としては「ぜひ見たい、読みたい!」っていう思いでした。
―― 「新しい何かを見せてもらえる」ということに対するワクワク感がはるかに勝っていた、ということでしょうか?
EMA 確かにワクワク感の方が大きかったかもしれないです。
Misumi ただ、歌詞の正解はひとつにしたくない思いがあるので、今回の小説以外の解釈が全て間違っているとは思わないでほしいです。解釈のひとつとして小説を読んで、MVを見返して、楽曲の解像度が高くなる体験を楽しんでもらえたらなと。
河出書房新社 編集担当 Misumiさんが今お話しした“解像度”という言葉は、読んでくれた皆さんもYouTubeやTwitterで結構使われてましたね。編集した身としてはとってもうれしい反応でした。
EMA みんな同じことを感じていたんですね! MVがより鮮明に頭に入るというか。
―― とても興味深いお話です。小説は基本的には文字のみ、ひるがえって音楽は演奏やMVなどいくつかの要素から構成されるという違いがあります。2冊に接して、自分たちにはない面白さや興味深さを感じた点はありましたか?
Misumi 自分は曲を作るときにまずメロディーを考えて、次に言葉を当てはめていくやり方なんですけど。ある種、制限がすごくかかっているからこそ曲が作れる感覚もあって。
一方で小説って無限の選択肢がある分、曲作りと比べてとても自由だなって感じます。逆に自由すぎる分、自分にはできないなと。
EMA 僕は『クロスの行方』の「izqnqi」が一番好きなんですけど、MVと歌詞両方から青春サスペンス的なストーリーを作り上げていて。
―― 確かにそういう内容でしたね。
EMA 「あのMVの2人を見て、こんなお話が作れるの!?」みたいな。
なんだろう……。「MVと歌詞だけでこんなに物語の世界が広がるんだ」っていう驚き。そもそも、あのわずかな要素だけでひとつの物語を作るっていう行為自体にもう驚いてるし、本当に僕らにはできないことなので。
だから、作品ができたこと自体がもうすごいなって感じです。
Misumi 自分は「命の行方」と「PAIN」が特に好きで。
自分の曲のテーマとして“それでも生きていく”っていうのがかなり大きい気がしているんですが、小説の「命の行方」の中にも同じメッセージが強く込められていてビックリしたんです。
―― それは、中村さんの訴えたかったことと、Misumiさんが抱き続けていたテーマが意図せずしてリンクしたと?
Misumi そうです。自分が曲を通じて一番伝えたいことって、中村さんには確か話していなかった気がするんですよ。だから、小説という形で不意に伝わってきて、すごく面白かったっていうのがありました。
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