特急「わかしお」は50年前、房総の旅をどのように変えたのか?:鴨川「うにとさざえめし」(1200円)(2/3 ページ)
「わかしお」の窓が開かない! 南総軒は鴨川へ
―この年、南総軒は安房鴨川へ進出しました。その背景には、何があったんでしょうか?
越後貫:当時の南総軒は、勝浦駅の停車時間に、いわゆる立ち売りスタイルで、駅弁を販売していました。しかし、新しい特急「わかしお」は、急行列車と違って窓が開きません。途中駅となる勝浦では駅弁を売りにくくなることが予想されました。しかし、「わかしお」の始発駅なら、お客様にも駅弁をお求めいただけるのではないかと考えて、安房鴨川駅で駅弁の販売を始めたんです。
―いまの本社となる「鴨川店」は、翌1973年に建てられたそうですね。
越後貫:「わかしお」が走り始めた昭和47(1972)年の夏は、まだ高度経済成長時代で、本当に海水浴のお客様が多かったんです。当初は勝浦で作った弁当を鴨川まで運んでいましたが、(それでは追いつかないとなって)姉の高校の同級生の伝を辿って、安房鴨川駅の近くで空いている土地を紹介してもらいました。そしてこの場所に翌年2月27日、弁当の製造工場を建てて、勝浦と鴨川の2拠点で製造することになったんです。
「わかしお&シーワールド」で大盛況の鴨川!
―そんなに多くのお客さんが、鴨川に押し寄せたんですか?
越後貫:海水浴シーズンは、列車の改札が始まると、乗客がドッとホームに流れ込んで、自由席にズラッと列を作っていました。駅売りより車内販売のほうがよく売れましたので、昼前の最もよく売れる特急列車には、1本に約100個の幕の内を積み込んでいました。夏は増発されて、毎時1本の「わかしお」が発着するので、朝7時から夕方5時ごろまで積み込み駅弁の生産に追われました。
―50年前、鴨川にはもう1つ、大きな出来事があったそうですね?
越後貫:昭和47(1972)年10月、いまも人気の「鴨川シーワールド」がオープンしました。これによって、夏だけ賑わっていた鴨川に、通年でお客様がいらっしゃるようになりました。弊社でも当時、通常の幕の内弁当に「鴨川シーワールド」がデザインしてくれたオープン記念掛け紙を作って販売しました。さらに翌年は、千葉県で「若潮国体」が開催されて、勝浦と鴨川は一緒にラグビーの会場となりました。これで地域は大いに潤ったんです。
特急「わかしお」の運行開始で、東京方面からの所要時間が、1時間以上も短縮され、鴨川シーワールドのオープンで多くの観光客が訪れるようになった鴨川。鴨川の新鮮な海の幸を気軽に味わえるようになったことも、「わかしお」が生んだ変化かも知れません。そんな房総らしい南総軒の海の幸の駅弁と言えば、「うにとさざえめし」(1200円)です。現在は、原材料の調達が難しくなっているため、前日までの予約制で販売しています。
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