レビュー
» 2022年11月27日 12時00分 公開

「ゴジラ×メカゴジラ」の監督が語る2時間ドラマの歴史 同人誌『あなたの知らない2時間ドラマ制作の世界』司書みさきの同人誌レビューノート

貴重な記録。

[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 そろそろカレンダーの残り枚数も少なくなってきたころ、「一年の計は……」なんて振り返って話すのにはまだ早いでしょうか。今回は、長く映像制作のお仕事をされてきた方の活動にスポットを当て、当時の様子をいきいきとたどるインタビュー本です。

今回紹介する同人誌

『あなたの知らない2時間ドラマ制作の世界』B5 40ページ 表紙特殊紙、黒インク・本文モノクロ

著者:mayoko


同人誌『あなたの知らない2時間ドラマ制作の世界』 実物は深紅にきらきらとラメが入った紙が使われており、表紙からドラマチックさがあふれます

撮影前日に犯人役変更!? 制作現場のリアル

 この同人誌は、「ゴジラ×メカゴジラ」などで知られる映画監督の手塚昌明氏がインタビューに答えたご本です。監督助手として市川崑作品にも多数参加されています。作者さんは、そんな氏のインタビューをこれまでも同人誌としてまとめてこられました。しかしお話を聞くうち、映画の話だけでなくテレビの話題も「大変面白く、この話は埋もれさせてはいけない」との気持ちになり、今回はテレビの、しかも2時間ドラマに着目して制作されたのだそうです。

 2時間ドラマといえば、「●●殺人事件」や「××探偵シリーズ」のようなサスペンスものや刑事もののイメージです。けれど、初期からかかわる手塚氏の発言により、当初は名作や文芸作品もあったことなど、企画立ち上げの頃から、たくさんの人気作品が作られていく時代など、1970年代からの現場の様子が見えてきます。

 なかには地方ロケで明日の朝から撮影という差し迫ったタイミングで、監督から「犯人役を変えたい」との大変更が告げられた! というトンデモ現場のエピソードもあり、お茶の間で楽しんでいた2時間ドラマ制作にこんな秘話が、と驚きます。

同人誌『あなたの知らない2時間ドラマ制作の世界』 ここから!? と初期は意外なことがたくさん

問いと語りが織りなすインタビューの妙技

 撮影現場の慌ただしさや苦労は大変なものがあったと思いますが、当時を振り返る手塚氏の楽しげな口調で、決して重くならずに読み進められます。「あとは魔法のようなスケジュールを頼みますよ、手塚ちゃん」なんて言葉で任せられたのを、くさらず「『あーでもないこーでもない』となんとか場所をはめこんで作り上げました」といえる手塚氏の前向きさ、仕事をやりとげるためにさまざまに手を尽くす姿の、なんとひたむきなことでしょう。

 それに加え、インタビュアーである作者さんが、制作に会社がどう絡んでいたか、どこで撮影されたかなど、いろいろな視点からの問いを投げかけてくれることにより、2時間ドラマが企画され、世に出るまでに多様な要因が絡んで作り上げられていくのが感じられます。

 問いかけと語りのやりとりは、まるで音楽の掛け合いのようです。これまでもインタビューを重ねてこられ、深堀りができる間柄を築いてこられた双方とものお力が働いているのではないでしょうか。

同人誌『あなたの知らない2時間ドラマ制作の世界』 印象に残るトンデモ現場。多くの方々の思惑が行き交ってます

記憶をたどる、人をたどる面白さ

 このご本では手塚氏の語りが中心となっており、そこに2時間ドラマの放送時期の変遷や制作会社についてなど、要所要所に作者さんによる説明が入ります。

 実は個人の体験に基づく振り返りは、どこまでが主観で、どこまでが事実かの線引きが難しいところで、ご本で手塚氏も「もう何十年も前の事ですから、思い違いや記憶違いもあると思います」と触れられています。しかし、貴重な体験を思い出だけでしまっておくのは、いかにももったいないお話ではないですか! あれ? これって作者さんが当初に感じていた気持ちと同じでは……? 個人が主観で話すからこその面白みをメインに、当時の状況や傾向の客観的部分をさりげなく補うバランスの良さも光ります。

 経験を積み重ねてこられた語り手と、それを残そうと動いた聞き手のお気持ちが、しっかりと読み手にも伝わってきたご本でした。

同人誌『あなたの知らない2時間ドラマ制作の世界』 基礎知識などが読者をガイドしてくれます

サークル情報

サークル名:TMP

Twitter:@mivector

入手できる場所:TMPshop神保町シェア書店「猫の本棚」

Webサイト:ブログ「レトロ館」


今週の余談

 興味深いお話を記録に残すことが、その次の検証や確認のステップにもつながります。同人誌という形での記録、まだまだいろいろな可能性がありますね。さて、この連載も次回からちょっとだけ新展開の予感……?

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2311/27/news041.jpg 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. /nl/articles/2311/28/news172.jpg バイクでケーキを持って帰ったら…… ミュージカル俳優、思わぬ形になったケーキに「見たことないほどズタボロ」
  3. /nl/articles/2311/25/news015.jpg 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  4. /nl/articles/2311/27/news095.jpg 『ちいかわ』通称“島編”が最終話へ 絶望色が強すぎて阿鼻叫喚 想像に任せるオチに“存在しない劇場版”を幻視する読者が続出
  5. /nl/articles/2311/27/news024.jpg 葛藤の末、野良の黒猫親子を保護して1カ月後…… 幸せを見つけた家族の光景に「本当に良かった」「癒やされます」
  6. /nl/articles/2311/28/news037.jpg 愛犬の大切なおもちゃを洗濯したら→「お友達が……!」 悲しい鳴き声をあげる姿に「家の子も一緒だ」「健気で癒されます」
  7. /nl/articles/2311/27/news076.jpg ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  8. /nl/articles/2311/27/news093.jpg 『キン肉マン』ゆでたまご・嶋田、ヘルプマーク使用を報告も…… 「正義はないのかこの日本」理解の低さに苦言
  9. /nl/articles/2311/28/news032.jpg 物理学を理解しているハムスター、回し車で遊びたい姉妹へのかわいいイジワルが「強い意志を感じる…」と話題に
  10. /nl/articles/2311/27/news106.jpg エド・はるみ、連日ハードな研究で生活も激変 “18種類おかずの手作り弁当”に影響「数と彩りも無くなり」「忙しく時間がなさすぎて」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」
  3. 愛犬と外出中「飼いきれなくなったのがいて、それと同じ犬なんだ。タダで持ってきなよ」と言われ…… 飼育放棄された超大型犬の保護に「涙止まりません」
  4. ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  5. 永野芽郁、初マイバイクで憧れ続けたハーレーをゲット 「みんな見ろ私を!」とテンション全開で聖地ツーリング
  6. 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  7. 柴犬が先生に抱っこしてほしくて見せた“奥の手”に爆笑&もん絶! キュンキュンするアピールに「あざとすぎて笑っちゃった」
  8. 病名不明で入院の渡邊渚アナ、1カ月ぶりの“生存報告”で「私の26年はいくらになる?」 入院直後の直筆日記は荒い字で「手の力も入らない」
  9. 小泉純一郎元首相、進次郎&滝クリの第2子“孫抱っこ”でデレデレ笑顔 幸せじいじ姿に「顔が優しすぎ」「お孫さんにメロメロ」
  10. デヴィ夫人、16歳愛孫・キランさんが仏社交界デビュー 母抜かした凛々しい高身長姿に「大人っぽくなりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 病名不明で入院の渡邊渚、3カ月ぶりSNS更新で「表情に違和感」「そこまで酷い状況とは」 ベッド上で「人生をやり直すこともできません」
  2. 動かないイモムシを助けて1年後のある日、窓の外がありえない光景に 感動サプライズが「アゲハ蝶の恩返し」と話題
  3. 「スカートはないわ」「常識無視の番組でびっくり」 山下リオ、登山中の服装批判巡って反論「私が叩かれているようですが」
  4. 「千鳥」大悟、大物美人俳優にバッグハグされた表情に注目集まる 「マジ照れのお顔ですね」「でれでれやん」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 神田愛花アナ、拡散された女子中学生時代ショットにスタジオ騒然「ヤバい」→“アネゴ感”でSNSもざわつく
  7. 「生きててよかった」 熊谷真実、美麗な初“袋とじ”グラビアで63歳の色気全開 真っ赤なドレス着こなす姿に「すごいプロポーション」
  8. 尻尾がちぎれた小さな子猫をサーキット場で保護→1年後“ムキムキ最強生物”に 驚異の成長ビフォーアフターに注目集まる
  9. 双子モデル・吉川ちえ、美容整形後のひたいが“コブダイ”状態へ 多額の費用要した修正手術で後悔も「傷がこんなに残りました…」
  10. 「犬ぐらい大きくなれよ」と願い育てた保護子猫が「まさか本当に犬ぐらいになるとは」 驚異の成長ビフォーアフターが192万表示!