実用性……はあるか分からないけど、楽しそうだからよし! 同人誌『30代男性の厨二病ポーズ集』:元司書みさきの同人誌レビューノート
来るべきときに備えて。
ハッピーメリークリスマス! 街はなんだか華やかで、にぎやかで。みんなで盛り上がるのも楽しいですが、自分は自分のわが道を行く……そんな強い思いを新たにしそうなのが今回の同人誌です。
今回紹介する同人誌
『30代男性の厨二病ポーズ集』A4 24ページ 表紙・本文カラー
著者:ちゃの
素性不明な男性の「厨二病」48ポーズ
「厨二病(または中二病)」とは、インターネットを中心に流布された言葉で「中学2年生の思春期にはまってしまいそうな考え方や、それに基づく行動」とされています。
このご本はお仕事をしていそうなスーツ姿や、激務の間の休日かのようなパーカ姿の大人の男性が、古そうな本や指出し手袋、眼帯や包帯を小道具にポーズをきめる姿が収められた写真集です。彼が何者なのか、何のために本を開きながら手を差し出しているのか、なぜ海を背景に包帯をたなびかせているのか、解説は全くありません。ただただ、彼の躍動感のある姿に「その瞳(バイブス)」などの急なふりがなや、「この刃は誰かを傷つけるためのもんじゃねぇ! 守るための刃だ!」というかっこいいけれど、どこかで聞いたことがありそうなせりふが添えられています。それが48種類、ひたすらにページにちりばめられています。
勢い重視! ただ楽しいがあふれる画面
そもそも何が「厨二病」なのか? それを判断する基準はありません。ご本では小道具やせりふ回しで「それっぽさ」を見せていきます。そして、そこに感じるのは勢いです。細やかに練った設定や、物語の奥行ではなく、「こんなポーズ、それっぽいんじゃない?」「どうどう? 厨二な感じに見えるんじゃない?」と勢いのあまりにこちらに回答をゆだねてきそうな、やってみた感がひしひしと押し寄せてきます。ページをめくりながら、さてはこれ、厨二なムードが好きで好きで作ったのですね? と聞き返したくなってきました。
凝ったせりふ回しも特徴的な小道具も、しかるべき確固たる世界観の上で使われると、しびれる程にかっこいい! しかしその確固たる世界観を築くのは大変なことです。だけど、そのかっこいいエッセンスだけを味わってしまおう、と大人としては二の足を踏んでしまいそうなところを、このご本では「ほらほらこんなに楽しいよ!」「かっこいいムードっていいよね!」と踏み切ったままに記録されています。そもそもこのモデルさんが本当に30代なのかすら明言されず、意味ありげだけど言及されないふわっとした、いわばツッコミ待ちを全ページに貫き通すところが、大人だけど大人じゃない「厨二病」を体現しているようではないですか。
いくつになっても勢いでいいんだよ! ポーズ集にしてポーズ集にあらず
タイトルはポーズ集となっていますが、限られた掲載の中でも似た構図があり、影が強めで服の皺などがやや判別されにくい点から、ポーズ集としての実用度はあまり高くありません。しかしここまで読んでくださった方はもうお気付きかと思いますが、「ポーズ集」という語も、このご本の「それっぽさ」を引き立てる一因にすぎないのです。いくつになっても楽しい! かっこいい雰囲気が好き! に向かって飛び出す、そんなご本です。
サークル情報
サークル名:きのこときみどり
Twitter:@dandorichan
Webサイト:http://dan-dori.jp/
入手できる場所:くだらないもの百貨店
次回参加イベント:文学フリマ東京(2023年5月21日)
今週の余談
今回、「判断」と書くところに(ジャッジ)とふりがなを付けたくなりました。カッコよさは伝染してきますね。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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イラストはかわいいけど中身はマジ。
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