トム・クルーズ、初のオスカー獲得あるか アカデミー賞候補を徹底解説 変革した部分と変わらないもの:【第95回アカデミー賞】(1/3 ページ)
ノミネートの顔ぶれに見る今年の注目ポイント。
2022年に公開された映画を祝する第95回アカデミー賞のノミネーションが現地時間1月24日に発表となりました。ブロックバスター映画から外国語映画、快進撃を続けるインディ映画まで、近年まれに見る幅広い顔ぶれとなり、注目ポイントがいっぱいです。
ミニ特集連載 「第95回アカデミー賞」
作品賞候補はバラエティー豊か
作品部門で最多11ノミネーションとなったのは、アジア系移民の家族がマルチバースを飛び回り、家族の絆やアイデンディティに向き合う新感覚のSFアドベンチャー映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(3月3日公開)。続く9ノミネーションで並ぶのは、第一次世界大戦の凄惨(せいさん)な戦場を舞台に、若きドイツ兵の成長と壮絶な体験を追ったドイツ映画「西部戦線異状なし」と、アイルランド内戦を時代背景に小さな島の人間関係をえぐるダークコメディードラマ「イ二シェリン島の精霊」です。
パンデミック後の映画興行を救った2大ブロックバスター映画として、ジェームズ・キャメロン監督の意欲作「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」(1月末時点の世界興収21億ドル)、トム・クルーズ製作・主演作「トップガン マーヴェリック」(同約15憶ドル)も候補入り。「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督が手掛けたエルヴィス・プレスリーのミュージカル伝記映画「エルヴィス」、スティーブン・スピルバーグ監督の自伝的映画「フェイブルマンズ」(3月3日公開)も名を連ね、通好みのラインアップが「一般の映画ファンが知らない作品ばかり」と批判されてきた近年に比べ、興行収入や知名度の高いエンタメ作品が多く候補入りしました。
一方、ケイト・ブランシェット主演で威圧的な著名指揮者の盛衰を描くダークドラマ「TAR ター」、宗教的コミュニティーで抑圧に立ち向かう女性たちを描いた「ウーマン・トーキング 私たちの選択」、スウェーデン人監督リューベン・オストルンドが豪華客船の多様な乗客と乗務員のドラマを容赦なく風刺したカンヌ最高賞受賞作「逆転のトライアングル」(2月23日公開)もノミネート。作品規模からジャンル、テーマ、フィルムメイカーやキャストまで、あらゆる面で多様性にあふれる顔ぶれとなりました。
多部門でアジア勢が大健闘
多様性という点で2023年のオスカー最大のトピックが、アジア系作品やタレントの躍進です。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は、アジア系映画として、2020年のオスカーを席巻した「パラサイト 半地下の家族」と翌年の「ミナリ」の6ノミネーションを大きく上回る11ノミネーションを獲得。作品賞、監督賞、脚本賞などに加え、衣装デザイン賞にはシャーリー・クラタがノミネート。
俳優部門では、主演女優賞に母役のミシェル・ヨー(アジア人女性初の主演女優賞ノミネート)、助演男優賞に父役のキー・ホイ・クァン、助演女優賞に娘役のステファニー・スーと“家族”全員がノミネートされたのに加え、唯一アジア人以外の主要キャストとして国税庁監査官役を演じたジェイミー・リー・カーティスに64歳にしてキャリア初のオスカー・ノミネートをもたらしました。ちなみに同作は、インディペンデント映画としては大健闘の世界興収1億ドル以上を稼ぎ、商業的にも成功を収めています。
このほか、助演女優賞候補のタイ出身女優ホン・チャウ(「ザ・ホエール」)、長編アニメーション映画部門の監督ドミー・シー(「私ときどきレッサーパンダ」)、脚色部門のカズオ・イシグロ(「生きる-LIVING」)(3月31日公開)、インド映画「RRR」の劇中歌「ナートゥ ナートゥ」が歌曲賞候補となったM・M・キーラヴァーニ&チャンドラボースら、多くの部門でアジア勢がノミネートを果たしました。
#OscarsSoMale 監督部門に女性なし
一方で、多様性の面で後退したと指摘されているのが監督部門に女性監督がノミネートされなかったことです。俳優部門20枠を全て白人俳優が占めたことで「白すぎるオスカー(#OscarsSoWhite)」と批判された2016年になぞらえ、「男ばかりのオスカー(#OscarsSoMale)」という声も上がっています。
人種・性別・年齢などの多様化においてオスカーは少しずつ前進しており、監督部門では過去2年連続で女性監督がオスカーを獲得(「ノマドランド」のクロエ・ジャオと「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のジェーン・カンピオン)。今回も「ウーマン・トーキング 私たちの選択」(2023年初夏公開)のサラ・ポーリーや「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」のマリア・シュレイダーらが有力候補とされていましたが、ノミネートはかないませんでした。
もちろん、これは今回のノミネート監督たちに異議を唱えるものではなく、スティーブン・スピルバーグ(「フェイブルマンズ」)を筆頭に、リューベン・オストルンド(「逆転のトライアングル」)、トッド・フィールド(「TAR ター」)、マーティン・マクドナー(「イ二シェリン島の精霊」)、ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート(「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」)と多様な顔ぶれそろっています。
実際、「#OscarsSoMale」という批判の裏には、5枠しかないアカデミー賞監督部門を男性が占めたということよりも、2022年に興収上位100本の映画に起用された監督111人のうち、女性監督がわずか9%と前年比減となったことへの懸念があります(南カリフォルニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム学部リサーチによるデータ)。オスカーの舞台だけでなく、映画制作の現場における女性の機会増加は、引き続き、ハリウッドの大きな課題なのです。
クァン! フレイザー! 2023年はカムバックイヤー
再びポジティブなポイントとして、今回のオスカーには感情を揺さぶるカムバックストーリーがいくつか見られます。その筆頭はなんといっても、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で助演男優賞候補となったキー・ホイ・クァン。1980年代に「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」や「グーニーズ」の子役として活躍したものの、「エブリシング〜」の撮影と公開の間には俳優の仕事がひとつも取れず、収入不足で健康保険も失い、絶望していたことを米「ニューヨークタイムズ」紙のインタビューで語っています。同作の成功、賞レースを通じた映画仲間やファンのサポートは、クァンを再びカメラの前で祝することになりました。
一方、主演男優賞候補である「ザ・ホエール」(4月7日公開)のブレンダン・フレイザーは、ヒット作「ハムナプトラ 失われた砂漠の都」シリーズなどでスターダムに上り詰めながらも健康問題や個人的な事情により、キャリアが中断状態にありました。「ザ・ホエール」では、娘の幸せを願う肥満症の父親役を熱演し、圧巻のカムバックを遂げました。
2人の演技が素晴らしいことはもちろんですが、オスカー、そしてハリウッド自体が大のカムバックストーリー好きであることを考えると、2人とも各部門の最有力候補となりそうです。
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