「VR温泉に入ったらバーチャル湯冷めで風邪ひいた」 メタバースで現実の感覚を覚える 「ファントムセンス」はなぜ生じるのか【バーチャル美少女ねむの寄稿】(2/4 ページ)
ファントムセンス実態調査
どんなファントムセンスを感じるか:触覚が45%
ソーシャルVR国勢調査で「ソーシャルVR体験中に以下のような感覚を感じたことはありますか?」と聞いたところ、数多くのメタバース原住民がさまざまなファントムセンスを感じてる実情が浮かび上がってきました。また、感覚の種類により、感じやすいものと感じづらいものの差が大きいことがわかりました。以下、「たまに感じる」「よく感じる」と答えた方の合計を比較します。
「落下感(高いところから落ちる時の落下感)」は75%と、やはり一番多くの方が感じていることがわかりました。次いで「吐息(耳元で囁かれた時の吐息)」は53%と、半数以上の方が感じていました。これら二つは先述した通り、VRでなくても日常的に感じる人の多いものですが、VRでもやはり多数の方が感じていることがわかりました。
これら以外では、「触覚(触られたくすぐったさなどの触覚)」が最も高く、なんと45%と半数近くが触覚を感じていることがわかりました。次いで「ワールドの風(うちわで仰がれた時などの風)」が28%、私が強く感じている「温度感覚(ワールドの熱さや寒さ)」は21%とやや少なく、「嗅覚(食べ物や相手の匂い)」は16%、「味覚(食べ物などの味)は8%」とかなりレアなことがわかりました。
さらに、これらファントムセンスの種類の間でそれぞれの相関関係を分析した所、全体として似ている感覚は同じ人が同時に感じやすいということがわかりました。例えば、同じ皮膚感覚である「吐息」と「触覚」(相関係数 r=0.57)、空気を通して感じる「風」と「温度」(相関係数 r=0.57)、化学物資に対する受容感覚である「味覚」と「嗅覚」(相関係数 r=0.66)などは、はっきりと「相関あり」と認められました。
ファントムセンスを感じる部位:頭・顔が90%
これらのファントムセンスの中でも、アバターの皮膚で感じるメタバースならではの「触覚ファントムセンス」について詳しく見て行きましょう。
半数近くの人が「触覚」を感じていましたが、実際にアバターの「どの部位」の触覚を感じているのでしょうか? 「触覚を感じた事がある方は部位を『全て』教えて下さい」と聞いたところ、VRChatの場合、もっとも高かったのが「顔・頭」で90%、次点が「指・手」で54%、「胸・腹」が43%、「足」は30%、さらに「物理現実で存在しない器官(尻尾や猫耳など)」が18%でした。
全体の傾向をみたところ、やはり視聴覚により想起される感覚であるため、視界に映りやすい部位ほど感じやすい傾向が見て取れます。「頭・顔」は自分の視覚に直接映るわけではありませんが、視界そのものなので一番認識しやすいと思われます。例えば、相手の頭を撫でるときなどは、頭の上の方を撫でると相手の視界に映らないため、敢えて手の一部が視界に映るように、顔の正面に近い部分を撫でるテクニックなどがあります。「足」は私は最も感じやすい部位なので、他と比べて低いのはとても意外でしたが、日常的にフルトラをしているかどうかなどが条件として作用しているかもしれません。
尻尾や猫耳などの「物理現実で存在しない器官」については、仮にこれを「クロスモーダル現象」が引き起こしていると考えると、物理現実では絶対に感じることのない触覚なので、一見すると難易度が高そうに思えます。そう考えると、18%はかなり高い数字だと言えるのではないでしょうか(先天性のものにしては数字が大きすぎるので、これが全て「共感覚」とは考えづらいです)。4章の「アバター種族」では、種族別でみると、こうしたファンタジー要素のある人間型「亜人間」が実はソーシャルVRでは人口比で一番多いことを示しました。日常的に猫耳や尻尾のあるアバターで生活している人の脳にとっては、それはもはや物理現実の身体と区別するほどのものではない、ということなのかもしれません。
次に、「ファントムセンスを感じる部位」をソーシャルVRのサービス別で比較したところ、「頭・顔」はどのサービスでも78%以上とサービスに関係なく感じやすいのに対して、それ以外の部位はサービスにより極端な差が生じました。
特にclusterは「頭・顔」以外の部位は全て17%と極端に低く、ほぼ「頭・顔」しか感じていないことがわかりました。clusterについては「イベント参加」が利用目的として大きいため、自分自身のアバターを視認する機会も比較的少なく、視界として見える「頭・顔」以外のアバターの身体の部位については、そもそも自分自身の身体であるという感覚が乏しいのではないでしょうか。
ファントムセンスとスキンシップ文化
「触覚ファントムセンス」を感じる割合をソーシャルVRのサービス別で比較したところ、感じる人の割合が「バーチャルキャスト」が50%、「VRChat」が46%と、この二つは高い値を示しました。一方で「cluster」は34%、「Neos VR」は31%とやや低い結果となりました。
バーチャルキャストとVRChatの二つが特に高い数字を示すのは、5章の「距離感」「スキンシップ」の傾向とよく似ています。これらにおいては、近い距離感でスキンシップをするカルチャーが特に強いため、それが一種のファントムセンスの訓練となり、感じる人が多くなっているのかもしれません。
一方で、clusterとNeos VRは、2章で見たようにクリエイティブ用途やイベント参加など、ユーザー同士でのコミュニケーション「以外」の目的で利用するユーザーも多くいます。結果に差がついた理由には、そうしたユーザーはあまりファントムセンスを感じるような局面が比較的少ないということも考えられます。
ファントムセンスの鍵は「想像力」?
さらに、「触覚ファントムセンス」を感じる割合とユーザーの「総プレイ時間」を比較しました。すると、プレイ時間が短いうちは時間が長くなるほどに感じる人の割合が増えていくのですが、500時間以上のユーザーでちょうど50%に達したのちは頭打ちになり、そこから先はプレイ時間が長くなっても大きく伸びることはありませんでした。5章で「恋に落ちた」や「恋人できた」が総プレイ時間とのはっきりとした相関を示していたのとは非常に対象的です。
つまり、一定時間のプレイで触覚ファントムセンスを獲得できるユーザーは半分だけというわけです。ただ漫然とプレイしていれば獲得できるというわけではなく、なにか時間以外にも必要な要素がありそうです。
触覚ファントムセンスを獲得するための条件はいったいなんなのでしょうか。さまざまな調査項目と相互に比較を行ったところ「触覚ファントムセンス」を感じる人の割合と相関関係が特に高かったのが「スキンシップ」(相関係数 r=0.35)と「恋に落ちた」(相関係数 r=0.33)の二つであることがわかりました。これら二つははっきりと「相関あり」を示していました。
これは完全に仮説ですが、キーワードは「想像力」ではないでしょうか。「スキンシップ」と「恋」に共通するのは、これらが相手が必要なアクションであるということです。そして、ファントムセンスの中でも「触覚」は他の感覚と比べ、アバターの身体感覚と特にはっきりと結びついた感覚です。つまり、触られる自分自身のアバター、そしてそれ以上に、それに触れる相手のアバター、それらを強く意識する「想像力」が必要な要素なのではないでしょうか。
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