「VR温泉に入ったらバーチャル湯冷めで風邪ひいた」 メタバースで現実の感覚を覚える 「ファントムセンス」はなぜ生じるのか【バーチャル美少女ねむの寄稿】(3/4 ページ)

» 2023年03月26日 19時00分 公開
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

強くなる感覚と弱くなる感覚

 ファントムセンスはプレイするほど強い感覚になっていくとは限りません。

 2021年に情報処理学会ヒューマンコンピュータインタラクション研究会で「2021年度学生奨励賞」を受賞して注目された、慶應義塾大学の國武悠人さんの研究「HMD利用経験の有無がVR空間における落下感覚知覚に与える影響」では、「継続的にHMD(VRゴーグル)を利用したことのない」グループと「継続的にHMDを利用している」グループに分けて、感じる「落下感覚」の強度を比較しました。結果、実はVRを利用したことのないグループの方がより「強い」感覚を感じることがわかりました。

 このように「落下感覚」は「触覚」などの事例と異なり、VR経験者の方が感覚が弱くなることが知られています。ソーシャルVRなどでは、現実より遥かに高いところからジャンプして飛び降りたり、ビルからビルへと飛び移ったりすることが日常茶飯事です。こうした経験の繰り返しにより、落下感覚がなくなるわけではないものの、ある程度非日常的な落下感覚に「慣れてしまう」といったことは原因として考えられます。

ファントムセンスを「生やす」方法

 アバターの身体で感じることのできる「ファントムセンス」、みなさんもぜひ感じてみたいと思ったのではないでしょうか。ファントムセンスはトレーニングや催眠術により後天的に感覚を強めることができることが経験的にわかっており、ソーシャルVRの原住民の間では俗に「VR感覚を生やす」などと呼ばれています。

 ファントムセンスを「生やす」トレーニング手法としては、5章でも解説した「スキンシップ」が最も知られています。ソーシャルVRなどでは、感じやすい頭や顔を中心に、友達に繰り返し手で撫でてもらったりすることで、触覚ファントムセンスを開発するトレーニングのような遊びがよく行われています。また、焚き火のワールドで温かさを感じるなど、「ワールド」を利用して一人でできるトレーニング方法もあります。

 「クロスモーダル現象」は経験によって生じる感覚です。「想像力」を駆使しながらこうしたトレーニングを行うことで、物理現実における感覚の記憶がメタバースにおけるアバターの感覚に徐々にリンクしていき、ファントムセンスが生じていくものと考えられます。

コラム:催眠セラピーによるファントムセンス開発

 催眠術を用いた専門家によるファントムセンス開発も行われています。VRヒプノセラピスト「Pyloricom(ぴろりこむ)」さんは催眠を使ってファントムセンスを開発する独自のセラピーを世界に先駆けて仮想空間内で多数行ってきました。「ヒプノセラピー」とは催眠を使って行うセラピー療法のことです。日本ではあまり知られていませんが、アメリカなどでは催眠療法は科学的見地から有効な治療法として広く認められています。

 Pylorycomさんは「アメリカ催眠士協会(NGH)」の認定ヒプノセラピストで、仮想空間で行う催眠療法「VRヒプノセラピー」を受け付けています。対人関係やストレスなどさまざまなセラピーを行っていますが、実は現在ほとんどの依頼はファントムセンスの開発で埋まってしまっているらしく、アバターの身体のまま実施できる仮想空間のメリットを生かして、日々多くの人にファントムセンスを生やしているそうです。

 Pylorycomさん曰く、必要な時間や獲得できる強度に差はあるものの、適切な催眠療法を行えば基本的には誰でもファントムセンスは獲得できるということでした。

メタバース進化論転載 Pylorycomさんのセラピールーム - VRChat

 これまで見てきたように、メタバースの原住民は「ファントムセンス」によって、アバターを通してさまざまな感覚を感じ取り、他の住人とコミュニケーションをしたり、メタバースの世界を感じ取っていることがわかりました。さらに、その感覚を開発したり強めたりする試みも行われています。もはやアバターは既に、私たちが世界を感じ取るための「感覚器官」であると言っていいのではないでしょうか。

 今私たちが感じている「ファントムセンス」はほんの始まりにすぎません。その感覚や活用はこれからますます広がっていくことでしょう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/25/news134.jpg 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  2. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  3. /nl/articles/2411/25/news135.jpg 大谷翔平&真美子さん、“まさかの姿”に!? 大谷・地元の空港がMVP祝福で湧く 「真美子夫人まで」「怖いぞ…」
  4. /nl/articles/2411/22/news145.jpg 大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
  5. /nl/articles/2411/21/news080.jpg ネットで大絶賛、ワークマンの服に“破損”報告…… 自主回収で「心よりお詫び」 監修インフルエンサーも謝罪
  6. /nl/articles/2411/25/news189.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  7. /nl/articles/2411/24/news038.jpg ワゴンに積まれていた“980円の激安デジカメ”→使ってみると…… まさかの仕上がりに「お得感がすごい」
  8. /nl/articles/2411/25/news175.jpg 「真美子さんに似てる」 大谷翔平、“そっくりさんコンテスト”に反響 「なんだこれw」「めっちゃ似てる」
  9. /nl/articles/2411/24/news005.jpg 25年も放置されていたマツダの名車が…… ピカピカに磨き上げられた初代RX-7に「とてもかっこいいクルマ」「素晴らしい仕事をしたね」
  10. /nl/articles/2411/25/news073.jpg 「上手いwww」 小学5年生、社会のテストで漢字をド忘れ→ひねり出した“天才的な回答”が240万表示「この子出世する」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた