サメ映画ばかり翻訳している謎の映画研究家インタビュー 好きが高じて未経験からプロのサメ映画バイヤーに(2/3 ページ)
サメ映画ルーキー 普通の配給会社の場合ですとまず映画祭に行って、映画祭と同時並行でバイヤーと権利者が商談するマーケットが開かれるんですね。そこで交渉するというのが普通のフローだと思います。でも、まあ僕が好きな作品って映画祭なんか出たりしないので。
――そうだと思います。
サメ映画ルーキー 「コマンドーシャーク」もそうですが、YouTubeやIMDbで海外作品のトレイラーを探して、おっと思ったら海外の配給会社なり権利元の監督にメールを送って……というケースが多いです。でも最近は監督の方から「こんなの撮ったんだけどどう? 買わない?」のような連絡が来ることが増えました。「今回サメじゃなくて恐竜なんだけど自信あるんだ!」みたいに。
――海の向こうで謎のバイヤーとして認知されていそうですね。ちょっと前の知識になるんですが、例えば日本でも人気の「シャークネード」シリーズはアメリカのケーブルテレビ「SyFy」※で放映されていて、2018年まで毎年「シャークネード・ウィーク」と銘打ったサメ映画特番を流したりもしていましたが。ルーキーさんが買い付けるような作品はアメリカではどう受容されてるんでしょうか?
※NBC Universal傘下のケーブル局。アサイラム配給による「シャークネード」シリーズや「ダブルヘッドジョーズ」などの作品を次々世界最速放送、世界中のサメ好きを騒然とさせた。
サメ映画ルーキー アメリカでも日本みたいな好事家はやっぱりいて、サメであればとにかく見るみたいな人たちは一定数います。あまりそこは日本と変わらないような気がしますね。ただ「シャークネード」とかはもう製作費の桁が1つ2つ違って、大作邦画くらいの予算を使ってやってるまさに上澄みの上澄み、エリート作品です。
そして僕が関わっている作品はもっと地下の……この「シン・感染恐竜」とかもですね。ケーブルテレビでは絶対流れないです。VODのような配信がメインだと思います。
――これまたすさまじいインパクトですね。この手の映画ジャケットやキャッチといえば「スティング」や「少女生贄」などがよく話題になりますが、これらはどのようにして作られるのでしょうか?
サメ映画ルーキー コンマビジョン作品のジャケットに関しては、主にヨロコヴ(@yorokovu0721)さんというフリーランスでデザインをやってくださっている方がいまして。『シャーケンシュタイン』や『必殺!恐竜神父』など、コンマ配給のサメ映画やZ級映画はほとんど彼のデザインです。コピーに関してはサメンテーターの中野ダンキチさんを招いてチーム体制で考えています。例えば『エイリアンVSジョーズ』の「もう結果だけ教えろ!」はダンキチさんの案ですね。
ただ、この『シン・感染恐竜』は海外版のジャケットをほぼそのまま流用しています。デザインをお願いするほどの予算をかけることすら憚られる、凄い……本当に凄い作品でですね。面白そうなジャケットに仕立てて棚に並べるのはさすがに僕にも良心があるので胸が痛みます。
――他にもこのようなキャッチコピーで印象に残っているものはありますか?
サメ映画ルーキー キャッチコピーではないですが「サメデター」ですね。「感染恐竜」と同じ監督です。この映画ほとんどサメが出ないうえに人々が無言で歩いてるシーンがほとんどなのですが、さらに露骨な尺稼ぎとして、夕日が沈むところを延々と長回しで流すだけのシーンがあります。しかも2回。というわけで、「風光明媚なカリフォルニアの海も見所」と書いておきました。
――ひととなりを聞きたいというお話だったのですが、やはりどんどん話がサメに寄ってきてしまいますね。例えば趣味ですとか、サメ映画以外で好きなものとかハマってるものはありますか?
サメ映画ルーキー そうですね、最近特撮をかなり見るようになりました。サメ映画好きと話す機会が多いんですが、その中でみなさんどういう経路をたどってるのかな? というのを追っていくと、「ジョーズ」から「ジュラシックパーク」、モンスターパニック、怪獣ものとか。そういう特撮ジャンルが好きな方と最近仲良くさせていただいていて。その影響で最近ではぶっちぎりで「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」が面白かったですね。あれはすごい。
戦隊モノってこうだよね、というフォーマットを全部逆手に取ってくると言いますか。最終回も最高でした。あとは「キラーカブトガニ」※、良かったですね。あんな顔面に張り付くのに最適な形状の生物がいるのに、なぜ今まで誰もやらなかったのか? 本当に不思議です。
※2023年1月の上映開始から異例のロングヒットとなっているピアース・ベロルゼイマー監督によるホラー映画。「何で誰もカブトガニのホラー映画を撮ってないんだ?」との疑問から製作された。劇中に登場する二足歩行カブトガニの元ネタはポケモンの「カブトプス」。
――タイトルが出たので。クリティカルなお話かもしれませんが、「ジョーズ」※、お好きですか?
※まさかサメ映画がこんなことになるとは思わなかったであろう、スティーブン・スピルバーグ監督による1975年公開のレジェンド作品。全てのサメ映画はここから始まったと言っても過言ではない。サメ映画に限らず「グリズリー」などの模倣作品が大量にあるものの、スピルバーグとしては「ジョーズの模倣作品としては『ピラニア』が最高」とのこと。
サメ映画ルーキー これは本当に悩ましいです。うん、もちろん面白いと思うんですけど。リスペクトはもちろんしてる。けど、そんなに何度も見たいほど好きか? って言ったら、そうではないんですよね。ものすごく出来がいいのは確かで、尊敬すべき作品ではあるんですけど、僕が求めてる面白さはもっと別のところにあるんだなと。
もちろんハリウッドの話題作も邦画の大作も見ないわけじゃないですし、それらを見るのも本当に楽しいです。ただ自分が字幕を手掛けた作品をことあるごとに見返すんですが、そのたびにそれこそ「自分が求める面白さ」について考えてしまいますね。
――2023年はアメリカで「MEG ザ・モンスターズ2」の公開、そして日本では4月に「妖獣奇譚 ニンジャ VS シャーク」の公開が控えています。現在のサメ映画を取り巻く状況についてお話しいただければと思います。
サメ映画ルーキー 「妖獣奇譚」は驚きました。まさかこの令和の時代、日本がサメ映画にお金を出すとは思っていなかったです。絶対にサメは売れないって邦画の人たちは思っているはずなんですが、クレジットを見るとかなり勝負をかけている作品だと見受けられます。昔と違ってサメに対する日本人の目も変わってきてますし、サメグッズなんかも本当にいろいろなところで見るようになりました。成功してほしいと思います。
あとは業界全体の話になってしまうんですが、お遊びの作品が少なくなったな、と思っていて。例えば有名なところでいえば「恐怖!キノコ男」※みたいなZ級作品があるわけですが、こういうものを昔は配給会社さんがお遊びでリリースしてたんですね。
※ゼイリブによる2005年配給の低予算ホラー映画。出演者を含むスタッフのほぼ全員が監督の家族であるという点では実質「ウィジャ・シャーク2」。キノコ男による関節技が見どころ。
サメ映画ルーキー ただ今、やっぱり景気とか。そういうのを考えると売れ線の作品だけに絞ろうって流れになってきちゃってる。そんな中で僕たちは幸いにもそういう作品でやっていけています。
他の配給会社さんも、もうちょっとこっちに戻ってきてくれたらうれしいな、と思います。みんなで自作のフライヤーを作って配ったり、監督のアクリルスタンドを売ったりできたら面白いですね。
個人的に行なっている日本サメ映画学会、というイベントもその一環といいますか、こういうお遊びの場をなくしたくなくて続けています。その結果声優の戸松遥さんが入会したり、Adoさんにアカウントをフォローされたり(一瞬でフォロー外されましたが)、いろいろな番組に出演したりと、5年前には考えもしなかったようなことが起きてます。
仕事としては、例えば今は予算の関係で付けるのが難しい吹替のディレクションをやってみたいとかいろいろあるんですけど、結局は自分がやっていて楽しいことをこれからも続けていきたいですね。
(取材・構成:将来の終わり)
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2023年1月20日公開。
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