花より団子ならぬ“旅先で団子” 5人の書き手たちがつづるアンソロジー同人誌『団子絵道中双六』元司書みさきの同人誌レビューノート

エッセイ、短歌、小説。さまざまな形で書かれた団子愛。

» 2023年04月02日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 今年は桜がびっくりするほど早くから咲き始めました。そしてそれに続くように、あちこちでいろんな花が一斉に開き始めたようです。満開の中、またひらひらと花びらの降る中……すてきなお花見がもっと充実するお供と言えば、そう、お団子ではないでしょうか。今回の同人誌はお団子をテーマにしたご本です。

今回紹介する同人誌

『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』文庫版 38ページ 表紙カラー・本文モノクロ

著者:橋本野菊、正岡紗季、ミド、すと世界、庭鳥


同人誌『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』 三色団子と、やわらかな色味が文章の世界へ誘います

エッセイ、短歌、小説……団子をテーマにした掌編アンソロジー

 ご本には5人の書き手さんが参加しておられます。エッセイ、短歌、小説と、表現形態はさまざまですが、共通しているのは“旅先で食べる団子”がテーマになっていることです。地元の郷土菓子である団子、遠征して出会った団子、海を見ながら団子を食べる青春の一場面……時に団子を真正面から取り上げ、時に気になる名脇役として、どの文章にも団子の存在感がたっぷりです。

 けれど、それらはみんな短い文章で、1ページに収まる分量でコンパクトに一区切りがつけられているんです。そうそう、ご本の大きさもてのひらに乗る文庫版サイズ。考えてみれば、両手に持たないと食べられないようなお団子ってなかなか出会えなさそうですし、短編をつなげていく構成、装丁と、このテーマはぴったりですね。

同人誌『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』同人誌『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』 表現形式は違えどどの作品もお団子という共通点でつながっているのは、タイトル通りすごろくが続いていくイメージがあります

文字だけでのどが鳴る? 団子をいかに描写するか

 本文ページは基本的に文章だけが掲載されたシンプルなものです。目次やあとがきにはかわいいイラストが添えられていますが、本文はさっぱりと文字のみの潔さ。しかし、文字だけで勝負する方々だけあって、団子の取り上げ方はバリエーション豊富です。「少し平べったく焼きたてで包み紙から香ばしい匂いが漂ってくる」と書かれれば、手に持ったほんわりとした温かさを思いますし、お団子屋さんの新商品開発のショートストーリーには「わんこ三兄弟」ってどんな形かな? と想像してしまいます。「くっきりと焦げ目のついた」「こってりと濃い色のたれ」ときたら、思わずのどが鳴ってしまいそう……そんな団子の姿が、短く軽やかに、ご本の中に多彩に収められています。

同人誌『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』 地元でも旅先でも、気付けばそこに団子の姿が

日常の安らぎを創作の一風景にして

 甘くて、しょっぱくて、やわらかい。食べたことのない遠方のお団子も、文字を追って、頭の中でその姿を描いてみます。そうして思い浮かべると、そのものの形状と相まってか、お団子のある様子はどこか“ほっこり”がそばにいるように思えてきました。

 アンソロジーの中には殺人事件の絡む連作サスペンス風の小説もあります。緊迫した傍らにひと皿の団子が……シリアスな場面にお団子の存在があることでぐぐっとギャップが生まれ、その違和感に気をひかれました。

 このアンソロジーは東日本と西日本の食文化の違いについて話していたのがきっかけとなったそうです。旅という非日常と、日常と生活に親しんだやすらぎの一品がともに創作に入ることで、また一つの柔らかな風景が生まれていくのを、気軽にしみじみと味わった気分です。

同人誌『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』同人誌『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』 団子からはじまる青春、そしてサスペンスも……?

サークル情報

サークル名:庭鳥草子

Twitter:@niwatoring

入手できる場所:BOOTH

次回参加イベント:文学フリマ東京36(2023年5月21日)

連絡先:niwatoring☆yahoo.co.jp(☆→@)


今週の余談

 今回のご本は、レビューし終わったらお団子が食べたい! と強く思いました! あんこのお団子にしようか、あまじょっぱいみたらしもいいかな? くるみのお団子も出てきていたし……と、いまとてもわくわくしています。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/16/news016.jpg 結婚式で乾杯音頭をとる3歳息子、口癖になるほど練習して…… 大好きなおじのために頑張る姿が580万再生「天才!」「可愛い過ぎて涙出ました」
  2. /nl/articles/2404/15/news025.jpg 悪さばかりする猫に小型カメラを装着→映像を確認してみたら…… 衝撃の光景に「ヤバい最高」「こういうの見たかった」
  3. /nl/articles/2404/16/news014.jpg 築54年団地の狭いキッチン、洗った食器はどこに置く? プチプラ&すっきり片付くアイデアに「私の理想!」「そのセンスが欲しい」
  4. /nl/articles/2404/16/news015.jpg 8歳娘が描いた“志村けん”に「うますぎてびっっっっくり」「間違いなく天才」と絶賛の嵐 才能あふれるペンさばきが128万再生
  5. /nl/articles/2404/16/news006.jpg 元野良猫たちの家の庭に野良猫が現れた→ガラスを隔てた熱い攻防戦が…… それぞれの反応と予想外のオチに爆笑
  6. /nl/articles/2404/15/news081.jpg 【今日の計算】「13+8×2−11」を計算せよ
  7. /nl/articles/2404/15/news156.jpg 豊田章男会長、マクドナルド「ハッピーセット」のおもちゃに大喜び→「天下のトヨタ会長がハッピーセットって」「ほんとお茶目で好き」と話題
  8. /nl/articles/2404/16/news033.jpg 小麦粉を変えてクッキーを作ってみたら…… 5種類の焼き比べが100万表示「こんなに変わるのねぇ〜〜〜」「みんな違ってみんな良い!」
  9. /nl/articles/2404/15/news132.jpg 「仮面ライダーゼロワン」出演俳優、脳梗塞の後遺症続き活動休止 「右半身の麻痺が回復せずこの度の決断に」
  10. /nl/articles/2404/03/news161.jpg 橋爪淳、大河ドラマ出演終了で「大腸に5センチ程のガン」公表 “病院嫌い”だったと明かし「命を繋いで頂きました」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」