世界的指揮者「私は、女性として、指揮者として、レズビアンとして、腹を立てています」 メンタル崩壊の女性指揮者を描いた「TAR/ター」に言及
トッド・フィールド監督16年ぶりの新作「TAR/ター」が、5月12日から公開です。
オーストラリア出身の俳優ケイトブラン・シェットが、天才的な才能を持った女性マエストロのリディア・ターを演じる映画「TAR/ター」が、5月12日から公開。アカデミー賞作品賞を含む6部門にノミネートされ、ヴェネツィア国際映画祭では主演女優賞を受賞した他、世界的指揮者マリン・オールソップがサンデー・タイムズ紙で「私は、女性として、指揮者として、レズビアンとして、腹を立てています」とコメントするなど、さまざまな角度から注目を集めています。
同作は、「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」のトッド・フィールド監督が16年ぶりに手掛けた長編作品。ドイツの有名オーケストラで、女性として初めて首席指揮者に任命されたターの苦悩が描かれます。
一方、オールソップはボルティモア交響楽団の音楽監督就任時、アメリカ初のメジャー・オーケストラ女性指揮者となりました。他国オーケストラの指揮や指導を行いながら、私生活では女性演奏家をパートナーとし、66歳の今も活躍しています。
また、ターにも同じく、ニーナ・ホス演じる女性演奏家のパートナーが存在。共通点の多いターを描いた物語についてオールソップは「そのような役割の女性を描く機会を得ながら、彼女をアビューザー(迫害者、加害者、権力の乱用者)とした、私にとっては心痛むことでした」とコメント。「アンチウーマン」であると非難しました。
この発言を受け、ブランシェットがBBCラジオ4で言及。オールソップと共通点の多いキャラクターながら「TAR/ター」という作品はフィクションであり、「権力の熟考、そして権力はジェンダーレス(性差がない)です」と発言しました。
ブランシェットの発言通り、ターは架空の人物であり、巻きこまれる事件も完全にフィクション。あるスキャンダルをきっかけに、ターは追い詰められ、転落していく姿が描かれ、ターを苦しめる物音、不可解な隣人、繰り返し現れる謎の迷路模様など、スリリングなサイコロジカル・ドラマでもあります。中でも、マーク・ストロング演じるターの財団を支援するエリオット・カプランをぶっ飛ばすシーンはインパクトがあります。一瞬、何が起こったのか分かりません。
ストロングは、映画前半から登場していますが、それほど話には関わってこない役柄で、なぜストロングが配役されたのか不明でしたが、このシーンで納得します。名は体を表す、心身ともに屈強そうな役柄も多いストロングが、ぶっ飛ばされるインパクトは強烈です。
ストロングに限らず、同作において物語の進行に男性はさほど大きな役割を果たしません。物語を動かしていくのは、「燃ゆる女の肖像」(2019)で大注目を浴びたノエミ・メルランが演じる付き人や、ターに目をかけられる新人演奏家など女性です。
新人演奏家を演じるソフィー・カウアーは、実際に幼少期から天才を発揮してきたロンドン生まれの演奏家で、同作が映画初出演、劇中音楽を集めたアルバムにも参加しています。
同作にはモバイル画面とおぼしき映像が度々出てきます、くつろぐター、教鞭をとるター、人々に取り囲まれるターを写し撮りながら、ネガティブ・コメントが打ちこまれていきます。果たしてターはアビューザーなのか、それともキャンセル・カルチャー時代の被害者なのでしょうか。大役を果たしたブランシェットは、英アカデミー賞(BAFTA)で主演女優賞を受賞しました。
現地時間2月19日に開催された英国アカデミー賞(BAFTA)受賞者会見では、自身をターになぞらえ、「彼女はアーティスティックなサイクルの終わりにさしかかっています。彼女は50歳になろうかというところですが、私は50歳を超えています」とコメントしたブランシェット。テレビ番組「ザ・サンデー・プロジェクト」では、「もう働きたくありません」と話し、波紋を呼んだのに重ねての、引退を匂わせる発言となりました。
気丈なリーダーでありながら繊細なアーティストでもあるター、さまざま要求されるであろう役柄を、ブランシェットは見事にやり遂げています。会見では「たぶん彼女の状況と深くつながれるところで、彼女は役柄以上のものです」とも述べていました。
(C) 2022 FOCUS FEATURES LLC.
配給:ギャガ
5月12日(金) TOHO シネマズ日比谷他全国ロードショー
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5月に金曜ロードショーで過去作一挙公開予定。
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