ドキュメンタリー映画「The Other Fellow」が描く“007”のインパクト 現実の“ジェームズ・ボンド”たち
間もなくイギリスで公開される気になる映画をご紹介。
「ジェームズ・ボンド」といえば、英国人作家イアン・フレミングのスパイ小説に登場する、世界的に有名なエージェント。そんな彼と同じ名前の人々を主人公としたドキュメンタリー映画「The Other Fellow(ジ・アザー・フェロウ)」(監督:マシュー・バウアー)が、イギリスで5月19日(現地時間)から劇場と配信で公開されます。
2022年は6月にニュージーランドのドック・エッジ映画祭でお披露目されて以来、オーストラリア、フランス、アメリカの映画祭で上映され、バウアー監督の母国であるオーストラリア、続いてイスラエルで公開されました。2023年に入ってスウェーデンを皮切りに、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ各国で公開が続いています。
映画の始まりは、1952年のジャマイカ。別荘で執筆中だったイアン・フレミングは、自作小説の主人公の名前を持っていた本から勝手に拝借します。バードウォッチャーだったフレミング。手元にあった鳥類の本、そこに書かれていた鳥類学者の名前こそ、ジェームズ・ボンドでした。
その名が、小説の主人公を超え広く知れ渡ったのは、ご存じの通り。映画化されたスマートで強く女性にもてる英国スパイ“007”ジェームズ・ボンドは、かっこいい男完全体みたいなキャラクターとして生き続けています。フレミングがジャマイカで創造してから70年を超えた今も、次のボンド役は誰になるのかと大きな話題を呼びます。
「The Other Fellow」というタイトルは「女王陛下の007」中のせりふから。この作品でボンド役になったジョージ・レーゼンビーが、前作までのボンド役だった、初代ボンドとして忘れ難いショーン・コネリーを指して放った一言。女性につれなくされたボンド(レーゼンビー)の「This never happened to the other fellow(これ、別のやつには、なかった)」が元ネタとなっています。
あまりにも有名な“別のやつ”と常に比較される。この状態こそ、「The Other Fellow」に登場するリアル・ジェームズ・ボンドたちが直面している問題です。
それに対して文句を言う最も正当な権利があるのは、フレミングに名前を使われた、元祖ともいうべき鳥類学者のジェームズ・ボンドでしょう。フレミングも学者ボンドも、今はもう亡き人ですが、2人の間に何があったかが記録映像と再現フィルムで描かれます。
映画には、たくさんのジェームズ・ボンドが登場します。名前に不平を漏らしながら「名前を変えたら?」といわれると返事に詰まる人から、ノリノリで“007”ジェームズ・ボンドをまねて暮らす人、殺人事件の容疑者となってしまった人、実際にジェームズ・ボンドから別の名前に変えた元ボンドまで。
例えばスウェーデンのグンナー・シェーファー(冒頭写真、右)は、“007”ジェームズ・ボンドが好きすぎて、グンナー・ジェームズ・ボンド・シェーファーに改名。007博物館で働き、私生活でもボンドをまねながら暮らしています。一方、イギリスの元ジェームズ・ボンド(冒頭写真、左)は、その名前が嫌で、今は妻の名字になりジェームズ・ハートとして生きています。
国籍も肌の色も違う世界各国のボンドたち。警官から名前を聞かれて答えたところ、銃口を向けられ車から降ろされたものの、本名と判明し「クール・ネーム」の一言で済まされたという白人男性がいれば、長期に渡って身柄を拘束されたという黒人男性の話も。映画で描かれるのは、笑い話から、笑い事ではない理不尽な経験までさまざまです。
007シリーズの主人公として世界中で知られた名前と同姓同名、それがからかいの対象になるであろうことは容易に想像がつきます。映画を見る前は、軽めのエピソードがちりばめられたドキュメンタリーを予想していましたが、ふたを開けてみれば、人種差別や家庭内暴力など、身近にある幅広いテーマを扱った考えさせられる映画となっていました。
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自身が演じるエンバーに共感する部分もあったとのこと。
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