たった2分スパンのタイムループ映画「リバー、流れないでよ」レビュー ガチのリアルタイム制「時の牢獄」の面白さ(2/3 ページ)
前作「ドロステのはてで僕ら」もまた、カメラが登場人物を追い続け、かつ「2分間でやるべきことをやらないといけない」制限があるリアルタイム進行だからこそ、彼らに心から同調できる「体感型ムービー」としての面白さがあった。そちらが擬似的なワンカットであったのに対して、今回は2分間で必ずカットがかけられるとはいえ、その2分間の間でスタッフとキャストが一丸になっての緻密な計算と試行錯誤、はたまた気が遠くなるほどのリテイクをしなければ完成しなかった映画であることは明白だ。
実際、テイクが10秒オーバーや5秒ショートしてしまった場合は撮り直しになっていたこともあったといい、山口淳太監督は「時の牢獄の看守はこいつだ」と憎まれていたらしい。
計算が行き届いた勇気と希望がもらえる映画
計算が行き届いているのは、もちろん脚本もだ。何気ない伏線が見事に回収されるので気持ち良いし、同じ時間をほぼ同じ場所で繰り返しているばかりなのにバラエティ豊かなギミックが満載でまったく飽きることがない。仲居や料理人が旅館を知り尽くしているからこその“地の利”、貴船神社を含む立体的な構造があってこそのアイデアも秀逸だった。ちなみに、ロケ地になった旅館「ふじや」は主人公を演じた藤谷理子の実家だったりする。
それでいて漫才的なボケとツッコミの小気味良さにクスクス笑えて、時にはかなりダークかつホラー的な展開に戦慄できる(ここは賛否両論かも?)。登場人物それぞれが個性的で魅力たっぷりで、主人公のミコトの悩みにも共感でき、いつしか「みんな! がんばれ〜!」と心から応援したくなっていくアツさもある。さまざまなジャンルの面白さが混然一体となっており、「エンターテインメントとして、これ以上面白くできるだろうか!?」と思うほどだった。
それでいて、現実的にはあり得ないタイムループを描くことで、現実での時間を大切にしたいと思わせる、うれしい教訓まで持ち帰ることができる。「あー超面白かったー!」と見終えることができるだけでなく、「何かをちょっとがんばってみようかな」という、勇気と希望がもらえる映画でもあるのだ。
余談だが、本作は2023年1月の10年に1度と呼ばれる最強寒波直撃による豪雪で撮影中止に追い込まれるも、奇跡のリカバーで2月〜3月に追撮を行い、無事に完成したそうだ。詳細は実際に見てほしいので伏せておくが、本編ではその製作経緯というか撮影のトラブル(?)でさえも、とても面白いギミックになっていたので、ぜひ楽しみにしてほしい。
脚本家は実はマリオの映画にも関わっている
最後に、こんなにも面白い映画を届けてくれた劇団ヨーロッパ企画はもちろんのこと、山口淳太監督を筆頭としたスタッフ、藤谷理子をはじめとしたキャスト、そして原案・脚本を手掛けた上田誠の名前をぜひ覚えていただきたい。
上田誠が同じく脚本および原案を手掛け、2022年に劇場公開・Disney+で配信されたアニメ「四畳半タイムマシンブルース」は、Filmarksで4.2点のハイスコアを記録するなど、やはり絶賛を浴びている。こちらは元の舞台および実写映画「サマータイムマシン・ブルース」の面白さはそのままに、森見登美原作のアニメ「四畳半神話大系」の魅力的なキャラが見事に融合した快作だった。
他にも、上田誠は現在興行収入120億円を超える大ヒット街道を爆走中の「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の日本語吹替版脚本も手掛けている。そちらは良い意味でくだけた言葉使いが絶妙で、その会話のおかしみとギャグセンスは今回の「リバー、流れないでよ」でも大いに感じられたのだ。
また、今回の「リバー、流れないでよ」では乃木坂46の久保史緒里が友情出演をしているのだが、それがまた「上田誠作品らしさ」を打ち出したキャラクターだった。その具体的な理由は秘密。ぜひ劇場で「あー超面白かったー(勇気と希望がもらえた)!」な映画体験をしてほしい。
(ヒナタカ)
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