映画「バービー」キラキラ&ピンクの世界で起きた“ケン”の大暴走で描きたかったもの グレタ・ガーウィグ監督&プロデューサー来日インタビュー(2/2 ページ)

» 2023年08月10日 12時00分 公開
[小西菜穂ねとらぼ]
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「バービー」 いざバービーランドへ

―― ケンのイメージがあやふやな一方で、バービーは多様なイメージを持っています。キャスト・スタッフ間ではどうすり合わせていったのでしょうか?

ガーウィグ監督 そう、意識のすり合わせは最も大きな試練の1つでした。1959年に誕生してから現在まで64年の間、バービーは進化し変わり続けてきました。だから時代によって別のイメージを持つんです。ただでさえ人によってバービーとの関わり方は異なるのに、生まれた年代によって全く別のものになります。

 例えば私の母はバービー人形が好きではなくて、バービーのイメージに懐疑的な人でした。だから幼少期の私にとってバービー像は、「美しい、手に入れたい」と思っていた印象の他に、母を介して別のイメージもあるんです。

「バービー」 自身2児の母であるガーウィグ監督、第2子は2月に誕生したばかり

 そもそもこのプロジェクト自体、誰もがバービーに異なるイメージを持っていることが前提で、私にとってはできるだけパーソナルな物語にしたかった。だからタイトルロゴも1983年生まれの私が子ども時代に使われていたモコモコした字体のものを使用しています。それが私にとっては“自分のバービー”と感じられるから。

 女性だけでなく男性も、この映画に関わったみんなでバービーとはどんなものか、どうあるべきか、人形やおもちゃ、子ども時代全般について話し合いました。だから私は映画が好きなんです。小説を書くのは1人で取り組む仕事だけど、映画はみんなの視点を巻き込んで作れるでしょう。

「バービー」 撮影風景

ヘイマン 私個人には、バービー……というか人形と遊んだ経験がないんです。実体験の少なさからバービーへの先入観も特にありませんでした。

 グレタが伝えたかったのは、キャストとスタッフだけでなく観客それぞれにバービーとの関係やイメージがあり、いい面も批判的な面もあることです。一方的な視点ではなく、包括的に両サイドの視点を入れることが大切でした。そのおかげで「バービー」はよくできた映画になっている。批判的な意見を無視はしていませんが、基本的にはバービーへの愛情、思いを込めて作っています。

「バービー」

全キャスト・スタッフでオスカーノミネート計50回! 意外な場面にも伝説の受賞者が

―― 人間の世界へやってきてからのバービーは困難続き。そんな中で年老いた女性とバービーが言葉をかわす場面は心温まるものでした。あのシーンはどうした意図があってのものですか?

ガーウィグ監督 私にとって特別なシーンです。ベンチでマーゴットと会話する女性は、コスチュームデザイナーのアン・ロス※。衣装デザインの分野では伝説的な存在で、「真夜中のカウボーイ」(1969)や「シルクウッド」(1983)、ブロードウェイでもすばらしい功績を残しています。私にとっては友人で、ありがたいことにこれまで何度か一緒に仕事をした経験もあります。

※「イングリッシュ・ペイシェント」(1996)ではアカデミー衣装デザイン賞を受賞

 本来、年を重ねていけるのは幸運なこと。老いることはある種の特権とすら感じさせられる存在は誰かと考えたとき、アンが浮かびました。撮影時の彼女は90歳で、演技経験は一切なかったけどアン・ロスの顔が大好きで、「アンしかいない!」と。何度も断られましたが、「あなたが一緒にマティーニを飲んでくれるなら」と最終的には出演してくれた。

 私たちは生きていく上で、高齢者の存在を見落としがち。特に映画では顕著です。でも年を取るのが人生でしょう。だからそれを表現したかった。それが映画というものですから。

「バービー」 マーゴット・ロビーらキャストとガーウィグ監督

―― 撮影の裏側を写した映像を拝見すると、とても楽しそうな雰囲気でした。監督にとってこの映画はどんな現場でしたか?

ガーウィグ監督 この映画を作れるというだけで、撮影中はずっとハッピーでした。すばらしいキャストとクルーに恵まれ、ピンクだらけのセットも美しくてゴージャス。ダンサーもあちこちで最高のパフォーマンスを見せてくれて神々しいほど。毎日セットへ向かうのが楽しくて仕方なかったんです。

 現場によって個性は違うしどのプロジェクトにも懸念はつきもの。役者の求めはそれぞれバラバラで、放っておいてほしい人、静かな環境を好む人、テイクの合間に話したがる人、いろいろなタイプがいます。私が監督の仕事において好きで大切にしているのは、キャストみんなが「サポートされている」と感じながらベストを尽くせる環境作り。今回は最高の現場でした。

―― ヘイマンさんはプロデューサーとして、現場作りでどんなことを心掛けているのでしょうか?

ヘイマン まずマーゴット・ロビーとトム・アッカーリーがこのプロジェクトに着手して、グレタを監督として起用しようとすばらしいアイデアを思い付き、ノア(・バームバック)と一緒に脚本を書いてもらった。それからグレタは監督として、マーゴットはプロデューサーと主演として最高の環境を作ってくれたから、プロデューサーとして私の仕事はとても楽なものでしたよ、幸運なことにね(笑)。

 グレタとマーゴットは映画そのものと、映画制作を愛しています。彼女たちの愛情と情熱が撮影現場をすばらしいものにしていました。プロデューサーとして何より優先される仕事は監督をサポートすることで、そのためには各部門とのコミュニケーションを円滑にする必要があります。ただ今回はグレタが指揮を執ってくれるから、特に困難はありませんでした。

映画『バービー』 8月11日(金)全国ロードショー

「バービー」 映画『バービー』 8月11日(金)全国ロードショー

キャスト:マーゴット・ロビー「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」、ライアン・ゴズリング「ラ・ラ・ランド」、シム・リウ「シャン・チー/テン・リングスの伝説」、デュア・リパ、ヘレン・ミレン「クイーン」

監督・脚本:グレタ・ガーウィグ 「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

脚本:ノア・バームバック「マリッジ・ストーリー」

プロデューサー:デヴィッド・ヘイマン「ハリー・ポッター」シリーズ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

配給:ワーナー・ブラザース映画

STORY

どんな自分にでもなれる完璧で<夢>のような毎日が続く“バービーランド”で暮らすバービーとボーイフレンド(?)のケン。ある日突然身体に異変を感じたバービーは、原因を探るためケンと共に〈悩みのつきない〉人間の世界へ!そこでの出会いを通して気づいた、“完璧”より大切なものとは?そして、バービーの最後の選択とはー?


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