「妻のイライラする態度が嫌」“先輩パパ”の不満まとめた資料が批判殺到で配布中止に 専門家が考える“炎上”した3つの理由(1/3 ページ)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さんが解説。
広島県尾道市が配布した「先輩パパからあなたへ」と題する、妊婦向けの資料が7月末、SNS上で批判を浴びて配布中止となった(関連記事)。
資料は「産前産後のパパの気持ち」に焦点を当てたもの。父親たち100人のアンケート結果をもとに、妻に関する3つの設問への意見や感想をランキング形式でまとめていた。
例えば、「妻のこういう態度(言葉)が嫌だった」という設問では、「わけも分からずイライラしている/少しのことでイライラして当たられる」が1位、「赤ちゃんの世話で忙しく、家事ができていない」が2位だった。
また、「妻にしてもらってうれしかったこと」という項目では、1位が「家事」、2位「育児」、3位が「マッサージ」などと書かれていた。
資料は妊娠7カ月の妊婦を対象に2018年度から発行されていた。それをあるX(Twitter)ユーザーが文書の写真付きで投稿したことで、“炎上”したわけである。
なぜ資料は配布中止が決定されるほど“炎上”するにいたったのか。その背景を探ると、次の3つの視点が浮かび上がる。
- メッセージが妊婦にプレッシャーとなり得ること
- センシティブでそもそも“炎上”しやすい話題であること
- SNS上では情報は切り取られて拡散されること
理由1:メッセージが妊婦にプレッシャーとなり得ること
妊婦は育児や出産について不安やプレッシャーを感じており、身体的・精神的な変化が大きい時期とされる。そのような妊婦に対して、特に「わけも分からずイライラしている」などの選択肢を“先輩パパ”たちが支持していると伝えることは、プレッシャーや不安を増幅させる要因となり得るため、妊婦の気持ちや立場を無視したものと受け取られる。
実は、妊婦に向けた意見として「妻にしてもらいたいこと」では、「今のままでよい/十分やってくれている」という肯定的な内容も見られた。しかし、人はネガティブな情報のほうが印象に残りやすいとされ、そのような肯定的なメッセージが一部あったとしても、不安やプレッシャーを増幅させる可能性があることに変わりはない。
挙句の果てに、そのような内容をわざわざ妊婦向けに配布してしまった。これは、出産や育児に不安やプレッシャーを抱える可能性のある妊婦に対する理解やサポートの姿勢はもちろん、配慮も欠如していると言われても仕方ないだろう。
理由2:センシティブでそもそも“炎上”しやすい話題であること
このような出産・育児、さらに言えば男女の役割分担といったテーマは、非常に“燃えやすい”テーマだ。
同じく広島県が2021年に働く女性を応援するために作成した「働く女性応援よくばりハンドブック」が批判を集め、“炎上”したことがある(関連記事)。これは特に仕事と育児の両立に役立ててもらうことを目的とした冊子だが、そもそもタイトルで子育てをしながら働くことを「よくばり」と表現していることが批判された。
また、「ワーキングママの心構え 同僚・周囲への感謝と配慮を忘れずに!」と、母親にアドバイスをするページに、以下のような内容が掲載されていたことも批判を加速させ、知事が釈明する事態となった。
「短時間勤務と休日出勤免除を希望されたけど、その分子どものいない社員の負担が増しているみたい。休日出勤が増える他の社員や、会社の経営状況も理解してほしいな…」(上司)
「『私ばっかり家事と育児をしている』というけど、こっちだって仕事で疲れてるんだよね。夜泣きがうるさくても我慢してるし、多少は手伝っているんだから、勘弁してほしいな…」(パパ)
このような事例は枚挙にいとまがなく、約50年前の1975年にも、ハウス食品がインスタントラーメンのCMで「私作る人、僕食べる人」という表現を使っており、抗議を受けて放送中止となった。CM内で「私作る人」と言うのは女性と少女、「僕食べる人」と言うのは男性である。
配布中止になった資料も「赤ちゃんの世話で忙しく、家事ができていない」といった内容は、家事や育児は女性の役割という旧態依然とした考え方を示唆しており、ステレオタイプな男女の役割分担を助長している、という点でも批判の対象となった。
(編注)男女ですれ違いが生まれる理由の1つとして、「男女の脳の構造上の違い」があるとして、「男性は理論、女性は感性に基づいて行動する」といった記述も見られ、その後さらに批判の声が高まった
センシティブで批判を浴びやすい題材だからこそ、企業はもちろん、自治体が配布する資料などの作成には最大限の配慮が求められる。
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