日本一周は社会人になったらできないと思ってた? 実際にやってみた結果をまとめた同人誌『全市町村役場訪問RTA地図』:元司書みさきの同人誌レビューノート
壮大な計画を読み解いていきましょう。
もう10月も下旬ですって? ハロウィーンが過ぎたらクリスマス!? と日々の速さに目を見張りますが、今回は過ぎる日に驚くばかりでなく、長期的な視点で少し先を見るのが楽しくなりそうな計画の同人誌です。
今回紹介する同人誌
『全市町村役場訪問RTA地図』A1地図1枚 冊子A4 44ページ 地図カラー、本文モノクロ
著者:渋沢転助
地図と行程表を携え、日本全国の市町村役場を1年かけて訪問する旅へ
今回の同人誌は地図とご本がセットになっています。地図の方は日本地図の上にぽつぽつとした印がたくさん付けられ、それが線でつながれています。ご本を開けば、地名と時刻がどこまでも並んでいます。しるしと文字だらけのこれは、1年かけて日本全国の市町村の役場を巡ってみた人の結晶です。
作者さんは「社会人になる前に日本一周する大学生」を見て、「社会人になったら本当に日本一周できないのか?」と思い始め、さらにたまたま訪れた役場で気になる「定礎」に出会ったことから全国の市町村役場を巡ることを決意されたそうです。そこから半年の準備期間をかけて計画を立て、そして実行へ……! 目標の1年は過ぎてしまったそうですが、なんと訪問を完了。このご本はそんな体験をもとに、どのような行程をたどれば1年で日本全国の市町村役場を巡ることができるかを再構築し、2024年1月1日から1年間で実行できるルートを示した予定図なのです。
シンプルな予定に驚異の粘り強さを見る
まず気になったのが、本当にそんなことができるの? という点でした。この旅行は実行するのが社会人であるため、移動できる日程に限りがあるのが前提になっています。例えば、
- 休日は土日固定休み、祝日休み
- 年休を20日、お盆と年末は各2日使用
- 訪問時間は日の出〜日の入りを原則とする
と、巡る人の“できる範囲”が想定されています。その前提を踏まえつつ示される行程は、どの交通ルートを使い、いつ、どこを巡るのかを示すひたすらにシンプルなものです。
しかし読み解いていくと、週末ごとに各地に飛び、役場から役場を渡り歩くときは分刻みのスケジュール……やることてんこもりの大旅行の姿が見えてきます。これを着々とこなしていくとは、なんという根気でしょうか。地図に記された巡るべき役場と、ただただ時刻と場所が示された予定表……これを組み立てる準備、そして実行された粘り強さに驚きます。
文字と記号から見える旅の姿。各地を巡る意味を読み手にゆだねて
地図や小冊子は一年の旅行の行き方を示して情報は膨大なのですが、例えば土地の名産とか訪れた感想は載っていないですし、なぜこのタイミングでその土地を訪れるのか?と言った理由も一切書いてありません。
予定地はだいたい地方ごとにまとまっていますが、それでもなぜか、
- 6月1週目北海道
- 6月2週目北海道
- 6月3週目北海道
- 6月4週目宮崎・熊本
- 6月5週目北海道
という、北海道巡りに急に九州が差し挟まれるスケジュールが組まれています。この突然の南国行きは一体何が!? と気になりますが、誌面では理由に全く触れられていません。しかしこれが不思議なもので、決してつんけんとした冷たさには思えませんでした。先人の意図も、感想も分からないだけに、地図と行程表を照らし合わせて行き方、その土地での過ごし方を想像してみるわくわくに感じられてきたんです。
基本的に出発は羽田空港や東京駅であることや、関東地方の一部は平日朝に巡る想定であることなど特殊な要素もありますが、いつか実行する日が来るかも? と思って眺める時間が楽しい同人誌でした。
今週の余談
目的をもって1年を過ごすってすごいですね……! 人生の一大プロジェクトは社会人になっても組めるんだ! という勢いときらめきも感じます。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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イラストはかわいいけど中身はマジ。
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