「今わりと危機的な状況」 ブリキ缶の老舗メーカー代表の“ぼやき”に注目集まる その思いと未来への取り組みを聞く(1/2 ページ)

側島製罐代表にX(Twitter)に投稿したワケ、未来への取り組みなどを聞きました。

» 2023年11月10日 11時00分 公開
[新谷翔ねとらぼ]

 缶を量産することができなくなる世界線はすぐそこまで来ている――お菓子などの贈答品に利用されるブリキ缶を製造する缶メーカー代表の「ぼやき」投稿がX(旧Twitter)で注目を集めています。

 話題となっているのは、愛知県大治町の創業117年の缶メーカー、側島製罐代表の石川貴也(@LWITBR1906)さんの投稿。「缶メーカーのぼやきみたいな話なのだけど」と始まる投稿には製缶業界の現状や未来への思いなどが綴られています。

 石川さんによると、お菓子缶の材料であるブリキ材の流通は「わりと危機的な状況にある」といいます。銀色の大きい缶が大量に使われなくなり、日本全体でのブリキ材の使用量も大幅に減少。

参考:経産省の生産動態統計調査によると、ブリキの国内生産は1990年にはおよそ171万トン、2020年にはおよそ76万トン

 「鉄鋼メーカーでは廃炉が検討されてたりもするらしい。鉄の生産量が減れば今度は鉄の価格自体が上がって、缶の価格もそれに引っ張られ、ますます缶は使われなくなってしまうという負のスパイラルになっていってしまう」(石川さん)

 「缶は包装資材の最高級品」で、他の容器と比べて割高なのはある程度仕方がないとしつつ、このまま何もしなければ安定的な材料調達がかなわなくなり、缶を量産できなくなると危機感を語る石川さん。「製造の出口に一番近い」缶メーカーとして、その潮流を変えるために、カラフルな缶の通販や、新聞に一面広告を出すなどの取り組みを行っていると述べています。「自分たちのプロダクトの価値を信じて歯を食いしばってやり続けるしかない」

側島製罐の新聞広告

 思いをつづった投稿には「今まさに可愛いお菓子缶を頂いてとっています」「母が鬼籍に入った後、身辺整理中に菓子缶の裁縫道具入れを見つけ、なつかしさを覚えていた」「チョコの缶を判子入れにしていたので、もっと増えてもいいと思います」など、缶を好きな人や、缶にまつわる人生の一場面を思い起こした人からコメントが寄せられました。

 この投稿に込めた想いや業界の現状について石川さんに聞きました。

――業界の現状についてXに投稿した理由を聞かせてください

石川代表 ブリキ缶を作る製缶メーカーとしての業界の現状を知ってもらいたくて投稿しました。

 冒頭にあるように本当に「ぼやき」みたいなものなのですが、ブリキ缶自体がだんだん使われなくなってきていて、業界としても危機感を感じています。投稿にもあるように缶は包装資材の最高級品です。業界の今を知ってもらいたくて製缶メーカーとしての正直な思いをつぶやきました。

側島製罐が投入したカラフルな缶

――昔みたいに銀色の大きい缶が大量に使われなくなってしまったのはなぜでしょうか?

石川代表 やはり、核家族化ですかね。家族が少なくなって、ブリキ缶で包装されたお菓子や煎餅なども贈り先のご家庭で大きな缶を必要としなくなった時代背景があります。一斗缶入りのおかきなどはもう今ではほとんど売れませんから。それと、お中元やお歳暮の文化の衰退も一因ですね。

 昔は電話台の下などに薬箱などとして二次利用されたお菓子の缶がどこの家庭にもあったと思うのですが、そういった光景も今では少なくなってきましたね。

――日本全体でのブリキ材の使用量も大幅に減ったとありますががどのくらい減ったのでしょうか?

石川代表 弊社の場合、一般缶と呼ばれる乾物やお菓子を入れる缶を製造し、長年安定した受注がありました。しかし、中国製品の台頭や紙包装への切り替えなどで売り上げは減っています。国内市場もバブル期に比べると4分の1ほどの生産量に減っています。弊社の売り上げの場合、ピーク時の2000年に比べると15億円ほどあった売り上げは2020年には5億円ほどに減ってしまいました。

 資材の高騰などもありますが、特に中国のメーカーは高価な金型を国内メーカーの何倍も持っているようで需要に柔軟に対応できている感もありますね。金型一つ作るのも数百万円かかります。それに、包装資材は価格転嫁がなかなか難しい事情もありまして、値上げのお話を切り出すと「それなら缶はやめるよ」という場面にも遭遇しました。

――側島製罐としてどんな取り組みをしていますか?

石川代表 このままでは我々も生き残っていけないと言う危機感から、単に鉄の上にスズのメッキだけではない、缶にデザイン性やプラスワンの価値を持たせたものの開発に取り組んでいます。

子どもの想い出を入れる専用の缶「Sotto」を2022年に発売。島根県江津市の子育て支援ギフトにも採用

 缶は「人の思いをつなぐもの」という付加価値があります。そこで、キャラクターやデザイナーと手を組んで缶を入れものとして単体で売るという取り組みもはじめました。

 下請け構造的なメーカーからの一種の挑戦ですね。売れ行きや評判は良く、缶の価値に気づいていただくきっかけになったというお声もよく聞かれます。

――Xでの反響についてどう思われましたか?

石川代表 投稿が多くの注目を集めたことはありがたく思っています。缶に思いを込める意味をいま一度感じていただくきっかけになったと思います。缶に大事なものを詰めて贈るという文化をこれからも提唱していきたいです。二次利用される際も缶には宝物が入っていることも多いと思います。

 ライフスタイルの変化や時代の流れに合わせたものをこれからも開発していきたいです。缶を通じた人と人のつながりを文化として残したいですね。

画像提供:側島製罐

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