「マイナスゼロ」は一番素に近い 「空白ごっこ」セツコ、4年目の1stアルバムで“苦闘”明かす 「隠したいとか言っていられない」(1/2 ページ)
「今の自分がどんな武器や軸を持っているかを省みた」
ボーカルのセツコさん、コンポーザーの針原翼さんとkoyoriさんから成る3人組音楽ユニット「空白ごっこ」。2019年末に楽曲「なつ」を公開して鮮烈なデビューを飾った後、「雨」「ラストストロウ」「ゼッタイゼツメイ」などを次々とリリースし、2023年5月放送のドラマ「スイートモラトリアム」(TBS系)のエンディングテーマとして「ファジー」が採用されるなど、各方面の注目を集めています。
そんな3人が活動開始から約4年を経て1stフルアルバム「マイナスゼロ」を完成。11月8日にリリースされる本作は、コンセプトアルバムとしての面も持ち、“自身をさいなむ閉塞感”や“心の中を渦巻く葛藤”などといった今を生きる多くの人に眠っている感情を、ストレートに突き進んでいくロックから新鮮に響く音色が耳を奪うポップまで、多彩な全13曲で描ききっています。
“スタート地点を追いかけ続けるような状態”が「マイナスゼロ」だと語るセツコさん。初となるアルバムを一本貫いているテーマ、また作品を完成させるまでに空白ごっこに訪れた変化などをうかがいました。
タイトル「マイナスゼロ」に込めている意味
―― セツコさんは以前、アルバムについて「マイナスゼロの気持ちをかき集めた玉手箱です」と表現していました。グループにとって“マイナスゼロ”が何を意味しているかうかがえますか?
セツコ アルバム制作の際に行ったディスカッションで、コンポーザーのkoyoriさんがポロっと「ずっと自分の中に満たされないハングリー精神みたいなもの、追いかけても追いかけてもたどり着けない感覚というか、スタート地点にもゼロのラインにも立てない感覚が僕の中でずっとあるんです」と話してくれて。
メンバー全員、こうした気持ちに共感する部分が強くあったことから、スタートラインをまずゼロとして、「自分たちは今どこの地点にいるのか」って考えたときに、プラスではない、かといってゼロでもない、それなら“マイナスゼロ”だと評するのがいいんじゃないかって話になりました。
3人にとってスタート地点を追いかけ続けるような状態が、タイトルにもなった“マイナスゼロ”じゃないかな、って。
―― まだ見えない目的地を追い求める、そういう感覚なのでしょうか?
セツコ ボヤっとでも見えてはいるとは思うんですけど、なぜかたどり着けないといった感覚ですね。そういうところが3人ともあるとは思います。
―― 「マイナスゼロ」というタイトルを初めに聞いたとき、空白ごっこというグループのコンセプトになっている“何もないけど何かがある”に通じるものを感じました。マイナスゼロは「空白ごっこ」そのものを指している、いわばセルフタイトルに近いのかと。
セツコ まさにその通りではあると思います。
―― バンドのファーストアルバムに自分のバンド名を付ける、それと同じことなのかと考えていたのですが?
セツコ 最初から意識していたかといえば曖昧な部分もありますが、ファーストフルアルバムを作るとなった際に、このグループの軸をどこに置いていたのか1回振り返ろうって結構話し合ったんです。
空白ごっこって勢いに任せて結成された部分もあって、根幹となるものを考える時間ってあんまりちゃんと取ってきたことがなかった。そうした思いを抱えた上で出てきたタイトルなので、一種のセルフタイトルだというのはすごく合っている解釈じゃないかと。
―― アルバム名すごくカッコいいと思っていたんです。プラスがないのが逆にとてもいいと。
セツコ アルバム名から先に決まりましたね。
「隠したがるところがあった」作詞でぶち当たった“壁”
―― 制作にあたっては、1曲1曲のテーマを丁寧に決めていったとうかがいました。「ラストストロウ」を中盤に持ってきたこともあって、アルバム全体に一貫したテーマを感じたのですが、いかがでしょうか?
セツコ 制作にあたって意識したのは、1曲目から13曲目まで順に聞いて、ストーリー性が見えてくる配置にしたいという点です。
アルバムの最初を「序章」として、この作品はどういうものかをしっかり説明し、5〜6曲目に移って落ち着いてきたところで、7〜9曲目あたりではちょっと暗さを醸し出すような部分、人間の底にあるどす黒い部分などもちゃんと出せる。そんなストーリーにしたいって考えたとき、「ラストストロウ」が指摘のあった箇所にピッタリだったんじゃないかって。
―― 確かに8曲目の「ラストストロウ」からの流れには、今説明いただいた要素を感じます。
セツコ 他の曲についても、「こういった形の満たされない気持ちを歌った曲はこの箇所に合ってるんじゃないか」「こういう曲調ならこういう雰囲気の歌詞がいいんじゃないか」というやりとりをかなり細かく重ねた上で決めていっています。
―― ディスカッションを通じて、歌詞の部分がブラッシュアップされた、発展していったこともありますか?
セツコ 今回のアルバムでは、歌詞の書き方を意識的に今までとは変えてみようっていう気持ちもありました。
今までの歌詞ってどちらかというと、作曲者からもらったメロディが先にあって、そこにハマる言葉を次々ひも付けていくという、結構パズルっぽい感じで書いていた部分もあって。
でも自分の歌詞を省みたとき、書かれた内容が具体的じゃない、場面がわかりづらいって感じて。なるべく直接的かつ具体的な方がいいんじゃないかなと。
そういった面でのブラッシュアップはメンバーともかなり話し合いました。koyoriさんの曲は全部ご自身で歌詞を書いているんですけど、言葉遊びがすごい巧みというか、遊びながらごまかすようなテイストを残しつつ、なるべく直接的になるようにって意識されていたみたいです。
―― アルバムの収録曲を発表順に並び替えてみたところ、中盤あたりから歌詞の世界観が非常に具体的というか、クリアになってきたなとは思いました。
セツコ ご指摘の通りです。
―― 具体的には2023年2月発表の「ゼッタイゼツメイ」のころから、今回はこうした感情が主題になっているのかなとか、こんな情景が眼前に浮かんでくるなとか、ハッキリ分かるようになってきました。ご自身の歌詞で、とりわけ会心のできだと感じるものは?
セツコ はりー(針原翼)さんの新しい曲だと、2曲目の「ゴウスト」と5曲目の「色鯉」、7曲目の「羽化」の歌詞を書いているんですが、リード曲の「ゴウスト」はかなり強い印象を与えるものにしないといけない思いがあったので、具体的にするっていうテーマを持ちつつ、なるべく一つ一つのワードを立たせるように心がけました。
自分の思うところを文章化するというよりは、どちらかというとワードの強さを並べて文章の形へと落とし込む形で歌詞を書いていて、どの言葉をメロディーに乗せたとき一番立って聞こえるかは意識しましたね。
逆に「色鯉」「羽化」はより小説的というか、情景が浮かびやすいという点を重視していて。「色鯉」は少し物語チックに、「羽化」は日記のような感じで自分の思いの丈をなるべくちゃかさずに書くことを心がけています。
―― アルバムを聞き進める中で、そこにある世界が成長しているような気がして非常に面白かったです。
セツコ 良かったです、うれしいです。
―― ひとりの人間の歴史みたいでした。
セツコ (笑)。でも、そうかもしれない。
今まで歌詞を書くときって、自分の周りのことを参考にしつつどこかフィクションチックというか、自分のこととして書きつつウソも結構織り交ぜて、何が何だか分からなくしていたし、自分の中にも隠したがるところがあったんです。
なるべく自分のことだって悟られたくないと考えてきたんですけど、私は同時にボーカルでもあるので、そうした姿勢だとどうしても言葉の重みが薄れていく、ステージに立ったり人前で歌ったりするときにうまく自分のものとして落とし込めないという感じは若干ありました。
そんな体験もあって、隠したいとか言っていられないなと踏ん切りが付いて、なるべくごまかさずに書くようにしています。
―― 古めの楽曲ほど、歌詞がぼかした調子で書いてあったので、今お話されたことがスーッと入ってきました!
セツコ よかった(笑)。
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