「マネスキン」とこれからのロックの話をしよう ネットの荒波を乗りこなす、Z世代No.1バンド2度目の来日を振り返ってみる(1/2 ページ)

3000人規模で1回限りの来日公演→1万5000人規模の会場で複数回へと急成長。

» 2023年12月23日 09時00分 公開
[小西菜穂ねとらぼ]

 「マネスキン」をご存じか。誰がいったか「ロックは死んだ」。この言葉もそろそろ聞き飽きた2020年代、今一番アツイロックバンドがイタリアはローマから世界へ着々と影響力を高めています。王道、だけど同時に異端でもあり、新しい。だけど古き良き音楽。いま知りたい、いまだから知るべきロックバンド「マネスキン」を紹介しながら、2度目の来日を振り返っていきます。

「マネスキン」Rushツアー来日公演 2度目の来日を果たした「マネスキン」(Fabio Germinario)

「マネスキン」って誰?

マネスキン 上段左からイーサン、トーマス、ダミアーノ、下段中央がヴィクトリア(Tommaso Ottomano)

 メンバー平均年齢は23歳とZ世代ど真ん中のマネスキン。ボーカルのダミアーノ、ギターのトーマス、ベースのヴィクトリア、ドラムのイーサンという4ピース構成は隙のない王道スタイルで、2015年に同級生3人が組んだバンドへイーサンが加わる形でスタートしました。

 下積みを続けたあと、かつてABBAを輩出したユーロヴィジョンコンテスト2021で優勝すると、「死に絶えたと思われていたロックミュージックがまさかイタリアで生きていたは」とまたたく間に世界的な注目の的に。イタリア音楽といえばオペラかクラシックかというイメージが強い中、2023年にはグラミー賞の新人賞にノミネート。

英米のアーティストが中心になりがちな音楽賞レースにも参加するように、こちらは2023年のMTV Video Music Awards

 日本でも知る人ぞ知る存在だった彼らは、2022年の初来日タイミングで知名度が急上昇します。初来日公演のチケットは即ソールドアウト、サマーソニック2022でも日本国内フェス初出演にして、メインステージのヘッドライナー前の大役を任されSNSでの話題をかっさらいました。

 満を持して開催した2023年の再来日公演は、3000人規模で1回こっきりだった前回から1万5000人規模の会場で複数回と圧倒的にスケールアップしたにもかかわらず、引き続きチケット完売。かなりしっかりしたファンベースを早くも築き上げています。

イタリア語の合唱って見たことある? 大盛り上がりだった来日公演

 記者は今回、12月3日開催の東京公演2日目に参加。のっけからまず何より驚いたのは、イタリア語の歌詞を大声で合唱する観客の多さです。日本語ではない、英語でもない、きっと話者の数はそこまで多くないはずの歌詞を流ちょうに歌い出すファンの多さときたら。全くの余談ですが、かつてイタリアマフィアが出てくる漫画にはまって、イタリア語をマスターしてしまった友人がいたことを思い出しました。愛はたやすく国境を越える。

全編イタリア語の楽曲「ジッティ・エ・ブオーニ」

 私が参加した回の客層は幅広く、本人たちと近い若い世代から30代の大人、さらに子連れ、またロックになじみ深い親世代も来場していて波及力の強さを感じました。一方でダミアーノが「自分たちは年長者にはウケがよくないから」としつつ、そんな大人たちへ贈る曲と前置きして扇情的な歌詞やパフォーマンスを含む「マンマミーア」を演奏しだす場面にはしびれました。めちゃくちゃかっこいい。

空気が読めないダミアーノがひたすらひどい目に遭うミュージックビデオ

 会場の大きさが変わってもライブならではのパフォーマンスは相変わらずで、客席に割って入ったりダイブしたりと自由に振る舞っていたマネスキン。個人的には2020年以降、すっかりライブハウスから足も遠のいていましたが、ステージに観客を招く曲もあり、思い思いの一張羅で好き勝手に暴れるファンとバンドの光景は、ようやくライブ音楽が帰ってきたのだと感慨深い瞬間でもありました。高低差のないアリーナ席だけに自席からは前方で何が起きているのかさっぱり分からないという事態もたびたびで、目の前にいるっぽいけど感じられるのは音だけという感覚も久々、懐かしいものでした。

「マネスキン」Rushツアー来日公演 ファンもステージで大暴れ(Fabio Germinario)
「マネスキン」Rushツアー来日公演「マネスキン」Rushツアー来日公演

 帰り際、豊洲の駅まで歩きながら、前回公演から見ていたと思しきファンがうれしそうに、寂しそうに「もっと大きくなっていくんだね」「このサイズの会場ではもう見られないだろうね」といった会話をしていたのが非常に心に残っています。

音楽だけじゃない、新世代のロックスター

 ロッカーらしくとがったエピソードも紹介しましたが、ダミアーノにはアニメ好きと親近感が湧く一面もあります。今回の来日中に出演した音楽番組「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)でも好きな作品に話がおよび、「進撃の巨人」の名前を挙げていました。ちなみに2022年のライブ中にはアカペラで主題歌を歌い出し、会場のファンが合唱する場面が拡散されていたことも。

 ファンの間でもすっかり浸透していて、ライブ中に「進撃」グッズが手渡されて巨人マスクをかぶったままパフォーマンスをしたり、空港のお迎えでも「チェンソーマン」に登場するポチタのかぶりものをプレゼントされたりと、もはや鉄板となっています。日本ならではのプロモーションにも生かされていて、アニメ化され海外人気も高い『BEASTARS』とのコラボ映像が作られた際には国内外で盛り上がりを見せていました。

『BEASTARS』とのコラボ映像、来日公演ではアコースティックverを披露

 トーマス、ヴィクトリア、イーサンはダミアーノほどアニメに関心はないようで、ライブ中観客から受け取ったアイテムで調査兵団になりきり心臓をささげるダミアーノをスルーして演奏に徹していました(気付いた瞬間、ヴィクトリアは爆笑していましたが)。1週間ほどの滞在中もゆるっと日本を楽しんでいた様子で、高級すし店ではなく居酒屋でサラリーマンと乾杯したり、ドン・キホーテで買い物を楽しんだり、渋谷・原宿・新宿あたりをぶらついたり、肩ひじ張らない角度から満喫していた様子です。運のいいファンは街中で遭遇できたようで、SNSでは喜びの報告が散見されました。

 なお来日中の様子をレーベルに問い合わせると、「とにかくファンに優しい。スタッフにも優しくておごることもなく仕事も丁寧。いつも楽しそうでありがたい」とのコメントが到着。「ファンの方も礼儀正しく接してくれるから」と近くで見ていた立場から、双方リスペクトを持った関係を教えてくれました。

 貴重なライブ終了後の姿について、「終演後、ステージから引き揚げてくるメンバーはいつも満足そうで笑顔でした。それだけ今回日本ツアーは充実していたのかと思います」と証言。一方でテレビ番組出演時、資料VTRに含まれていた結成時の自分たちの写真にはつい苦笑いしていたそうで、「みんなで笑いあっている姿が何ともほほ笑ましかったです」とのことでした。その場面めちゃくちゃ見たかった。

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