「マネスキン」とこれからのロックの話をしよう ネットの荒波を乗りこなす、Z世代No.1バンド2度目の来日を振り返ってみる(2/2 ページ)
これからのロックの話をしよう
ロック復権の旗持ち役となったマネスキン。ブレイクのきっかけとなったユーロヴィジョンの優勝者パフォーマンスでは高らかに「ロックンロールは死なない!」宣言をして、往年のロックファンを喜ばせました。
ロック冬の時代において、もはや伝説となりかけているエピソードですが、ダミアーノは2022年のインタビューで自分たちがロック復権の立役者と思ったことはないと冷静にコメント。「死なない」宣言は自分たちへのメッセージだったと説明しています。
一方でEDMブームに代表されるように、電子楽器を使った音楽が当たり前となった今、生の楽器を使った音楽には一定以上のこだわりがあるとして、その重要性を強調。実際に来日公演はルーパーを含むエフェクターの使用こそあったものの、サポートメンバーがステージに立つこともなく基本的には彼らが演奏するギター、ベース、ドラムの音しか聞こえませんでした。AIの台頭で作曲や演奏のハードルが下がり、音楽が一般的になる中でのこうしたスタイルは、もしかしたら貴重な存在となり得るのかもしれません。
またかつてのロッカーのイメージと異なり、ダミアーノはクリエイティビティーとアルコール、ドラッグの結び付きを完全否定。陶酔型のパフォーマンスからそれこそユーロヴィジョンの大舞台ですらドラッグの影響下にあるのではとあらぬ疑いが掛けられたものの、直後に検査結果を公表して疑惑を否定。2021年のインタビューでは創造性は健康で鍛えられたマインドから生まれるとロックにつきものだったダーティーな固定観念を否定し、“自由”というメッセージを伝えるためにはドラッグ、アルコールの奴隷になっては意味がないとの考えを話しています。
マネスキンを中心とした議論が導く世界
メディアがマネスキンの話を取り上げると、高確率で言及されるのが彼らのセクシュアリティーです。4人のメンバー中、ヴィクトリアとイーサンがクィア(性的マイノリティー)を公言していて、特にヴィクトリアは女性の胸ばかりが性的な“コンテンツ”として扱われることへの抗議や疑問提起のため露出をいとわない場面も多く、時にバンドのアイコンやスポークスパーソンとしての役割を担っています。
LGBTQコミュニティーから受けるのも称賛ばかりはなく、クィアベイティング(あえて性的マイノリティーを装い、当事者からの支持を得ようとすること)を疑われ、メディアを通じて反論したこともあります。
パンデミックで人々がインターネットに費やす時間が増えたタイミングで頭角を現したこともあり、バンドを取り巻く周囲は常に騒がしいものでしたが、ネットの荒波も軽々と乗りこなし、一貫して彼らが訴え続けているのは“自由”。ストレート(マジョリティー)とクィア(マイノリティー)双方の視点を同じ比率で共有するバンドとしてどちらの立場からも発信できる貴重な存在としての独自のポジションを確立しています。
デンマーク語で“月光”の意味を持つバンド名の正しい発音や片仮名表記についても、いまだに日本ではどう呼ぶべきか定まらず意見が交わされています。きっと今後も絶えずマネスキンを中心にいろいろな議論が起きていくのでしょう。1999年から2001年に生まれたZ世代のマネスキンが21世紀の世界にどんな変化をもたらしていくのか、前世紀生まれのロックファンの1人として楽しみでなりません。
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