“子ども時代に、大切なものを奪われてはいけない” 「屋根裏のラジャー」西村義明 1万4000字インタビュー(2/10 ページ)
例えば今はいろいろな方がネット上で漫画を発表するし、イラストを描くと思うのですが、そこに描かれるキャラクターたちは、描いた方の人生の一部が必ず出ていますよね。それは自分と似ていても異なっていても、人格や人生の表出であって、それはイマジナリーフレンドと近似します。本作で言えば、想像した人間側がこうであるからこそ、このイマジナリが生まれたのだという説得力を、少なくとも作り手側は強く持つ必要がありました。なぜ、ボーダーシャツなのか、なぜゴーグルをつけるのか。映画に出てくるイマジナリ分だけ、映画に出てこない人間の人生を強固に作り上げる必要があったということです。
人間と人外の者の交流という映画や物語は数多あるのですが、それらの物語は自己と他者に別れていて、それぞれが別人格です。他者との交流で自己が変わるという類のものですね。人間と宇宙人、人間と動物とか。ですが今回は、本来のイマジナリ―フレンドがそうであるように、別の人格でありながらも、その人格は主体である人間の無意識の影響を多分に受けている点が特異ですよね。
例えば、「ときどきはさ、たまにはさ」という口癖をラジャーが発したとすれば、それは、それを生んだアマンダの、あるいは近しい誰かの口癖でしょうし。あるいは、ラジャーが憤っていたとしたら、それはラジャー自身のいら立ちとして表出しますが、アマンダのもうひとつの心理を表現したものでなくてはならない。つまり、内面的な心理葛藤を外部化したものとして提示される必要があります。子どもが想像したものだから、子どもが知らない言葉遣いをイマジナリーフレンドがするわけもない。子どもが発しうる言動をもってして、イマジナリの物語に真実味を持たせることができるかどうかという難題が待ち構えている。
ただ、それだけではないのがこの映画の難しくも可能性を秘めた部分であって、外なる人格として登場するラジャーが主人公である点です。ラジャーが主人公たりうるための、彼自身の物語とは何かという点です。そこに思いをはせて、頭の中でラジャーと対話を続けるうちに、ふと彼が発した言葉が「ぼくは消えたことないけど、消えるのが怖い」というものでした。消滅というか、死への恐怖です。それは人類普遍のテーマでもある。つまり、この映画はラジャーというイマジナリーフレンドが、人間と同じようにつかの間の生に対峙する物語でもあった。そうでなければ、ラジャーの物語は、単なる自己犠牲の映画にしかならない。
イマジナリーフレンドとして生まれたラジャー側に立てば、彼は生まれたくて生まれたわけではないし、親も選べない。そして、消えたくて消えるわけではない。人間から分断されれば、無縁な存在となり、世界の誰も彼を見てはくれない。ラジャーを主人公に据えた原作の特徴を生かそうとすれば、現代のわれわれが直面する存在の希薄さという側面が必然的に浮かび上がってきます。さらに、ラジャーには、アマンダが失ってしまった彼女の大切な人の面影が重なる。この世から切り離されてしまった、もう一人の存在の言外の登場です。彼が言い残したかった言葉を運ぶために、ラジャーは行動していくかのように思えてくる。
ストーリーを組み立てるだけでも二重三重の難題があり、さらにそこに寓意を込めるというのは、度を過ぎれば理解不能なポエムにさえなりうる可能性もあります。まずはあらすじを4ページくらいでまとめようとしたんです。それが結果として40ページくらいになってしまった。せりふだけでなく、描かれる想像物や建物の構造も意味を持つ必要があります。結果として映画を頭の中で1本作ってから、文字起こしするような逆のアプローチになって。それを百瀬さんが面白がってくれて、そのまま脚本の形にしてみてと頼まれたという感じですね。
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