80歳のおじいさんが人生初コスプレ 孫娘との「SPY×FAMILY」併せがほほえましくも泣ける理由とは(2/4 ページ)
撮影にかけた思いとは
―― お父さんがコスプレをするに至った経緯をあらためて教えてください
雷 もともと、実家にはネット環境もなく、父は私たちの活動をよく知らなかったんです。それが2023年9月、ガラケーからスマホに変えたときにYouTubeの使い方を教えて以来、父は毎日何時間もあそびわーるどの動画を見て、そのたびに「あのアーニャのまあさはかわいいねぇ、すごいねぇ」と、LINEで逐一動画の感想を伝えてくれるようになりました。
そして数カ月後、年末にSPY×FAMILYの映画が公開されるとなったとき、父が「見に行かないかん!」「ジィジもまあさとコスプレやってみたいな、ジィジにやれるキャラあるかな?」と張り切り出しました。そこで「お父さんアーニャの担任の先生にピッタリやない?」と言ってあげたら、「これ踊ろうかな」とまあさのダンス動画を楽しそうにマネしていて――「これはお父さんの生きがいになるかもしれない……!」と、私はうれしくなりました。
コスプレの世界には「年齢からにじみ出るものがあってこそなりきれるキャラ」というものがあるので、ヘンダーソン先生は絶対に似合うと思いました。父も「本当? 俺にもできるキャラあるかな?」と乗り気だったので、テレビアニメ版のDVDを渡してみたところすぐに完走し、会うたびに「エレガ〜ント!」と言ってきます。その意気込みを感じて、「燕尾服のジャケットを用意するから寸法を教えてね」と伝え、衣装を作り始めた次第です。
―― 準備期間はいかほどでしたか
雷 燕尾服とベストとズボンのセットはオーダーメイドで中国へ発注し、3週間程かけて取り寄せました。
ウィッグは通常のコスプレだと3時間程で完成できるのですが、ヘンダーソン先生の場合は3倍ぐらい時間を費やし、3日がかりで作り上げています。
また、ジャケットは最初の仕上がりが想定よりもグレー寄りだったので、原作通り燕尾服のみブラックになるよう、衣類用の染め粉で2日間に渡り染色しました。
―― 企画してから、雷さんはどういう心持ちで撮影当日を迎えたのでしょうか
雷 企画を立ててから冬を越え、2月の終わりに父がかぜをこじらせて肺炎で入院したときは、死も覚悟する程でしたし、退院できないかもしれないと母から聞かされ、計画を先送りにしたことを本当に悔やみました。
そして入院から3週間後、退院できるような状態ではなかったのですが、父の懇願により酸素チューブとボンベを常備しながらの自宅療養に移行しました。退院して間がないころはトイレに行くだけでも、布団に戻ってくるときには唇を真っ青にしてゼェゼェと苦しそうでした。日に日にやせ細っていく姿を見て、もうコスプレどころか明日を生きるのも無理なぐらいだと思い、毎日父を思っては涙が出て仕方なく、「あの衣装は使わないままになるかもしれない」と覚悟していました。
それでも、Xでいろいろなかたからリプライを頂き、「今が最善だと思って行動すべき」という自分の言葉に従って、翌日には父のウィッグをセットしに行きました。寝たままでも良いから、コスプレでの撮影を必ず残そうと決意しました。
―― そんななか、撮影には相当心を砕かれたかと思いますが、当日の状況はいかがでしたか
雷 父の体調をうかがいながら日取りを検討していたところ、5月5日なら撮影しても大丈夫そうだとなりました。カメラマンを買って出てくれた知人のマサ(@Masa_404)さんに、準備段階も撮影してほしいとお願いしてコスプレの準備を進め、本番の撮影を始めたのは14時ごろ。絵画のような壁紙をカーペットの上に敷いて父と娘を寝かせ、三脚の上から撮ってもらっています。
―― 撮影の際、お父さんやお子さんの反応はいかがでしたか?
雷 本人は抗がん剤の副作用で髪が抜けたと言っていますが、実は元からありませんでしたから、ロン毛になれたことをかなり喜び、何度も鏡を見てチェックしていました。子どもたちは「ジィジがヘンダーソン先生するよ!」と聞いたときから「絶対似合う!」と喜んでいました。
―― 作品で注目してほしい点などあれば教えてください
雷 赤ちゃんの“お昼寝アート”風に撮ったところですね。これは寝たままでも撮りたいと考えていたとき、たまたま「赤ちゃんと同じように寝かせた状態で撮るのはどうでしょうか?」とリプライを頂き、私もそれだ! と思いました。しかも、寝た方が髪にも動きが付いて躍動感も出ますし、走ってるようなポージングも軽やかに見えてとても面白い撮影方法だなと感じました。コスプレとしてはなかなか類のない撮影になったと思います。
―― クリックすると、サムネイルでは見えなかったシーンが出てくる演出も見事でした
雷 あれは、タップすると絵本のように物語が流れる仕組みにしたかったんです。1枚目は紅茶をエレガントに1人で注ぎ、2枚目はまあさと2人で紅茶を楽しみ、3枚目には伝承や継承、引き継ぎの意味合いを込め……と、写真の順番もかなり考えました。最後の4枚目は、上部を「作品世界の再現」、下部を「作品とは全く関係ないリアルの2人の信頼関係」と対照的に構成し、締めとしています。めくるごとに、見る人それぞれの心の中で会話の内容が浮かび、ストーリーが見える趣向です。
―― 作品には大きな反響がありましたが、印象に残っているリプライなどありますか
雷 たくさんのコメントを読むたびに泣きました。皆さんが私たち家族のために涙を流してくださっているのが幸せすぎて、こちらも癒やされました。特に、「コスプレってこんなに素晴らしいものなんだ」「コスプレってすごい、人を幸せにする力がある」などなど、界隈(かいわい)の外からも理解し受け入れてくださるコメントが多いのもうれしかったです。
コスプレは誇れる日本文化なのに、まだ少し「オタクの世界」といった偏見にさらされることもあります。私はコスプレのすばらしさを広めたく、「よかeco面隊(@yokaecomentai)」というボランティアチームを立ち上げて、コスプレでごみ拾いをするなど活動してきました。今回父と娘の写真を通じて、そんな願いが伝わったのはうれしいです。
おじいさんはなおも闘病中ですが、テレビアニメ版「マッシュル-MASHLE-」の主題歌「Bling-Bang-Bang-Born」で踊りたいと、次の目標を立てているとのこと。雷さんも「マッシュのじいちゃんが適役過ぎる」と、夢をかなえるべく衣装を準備しているそうです。
協力・画像提供:雷(ライ)さん(@asobiworld)
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