「マッドマックス」45年の歴史と早逝した“相棒”の存在 名監督の現パートナーが語るヒットの法則 「マッドマックス:フュリオサ」プロデューサーインタビュー(2/2 ページ)

» 2024年05月31日 12時00分 公開
[小西菜穂ねとらぼ]
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ヒトラーにカルト 終末世界を駆ける悪役が示すリアリティー

 新作の話をするときに、まず触れておきたいのが前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。シャーリーズ・セロンが演じるフュリオサ大隊長が初めて登場した作品は、ダグいわく「砂漠で3日か4日にわたって繰り広げられる大型車両の追走劇」です。フュリオサの視点から見れば「ワイブス(妻たち)を連れた将軍からの逃走劇」。一方でイモータン・ジョーの視点では、「フュリオサによって妻たちをさらわれたことになる」と、敵対する両者の視点から表現します。

 ジョーの目的は妻たちに健康な子を産ませること。圧倒的に物資が不足し、水が何より希少で価値を持つ世界で、岩場に作られたシタデル(要塞)には完璧な階層社会が築かれています。生きるだけでもやっとのこの世界観や価値観を「異常」で「男性主導の、残忍で残忍な世界」とし、女性のフュリオサが生き残るには、戦士になって、“ナルシシストな悪役”に立ち向かう能力を持つ必要があったといいます。

「マッドマックス:フュリオサ」 クリス・ヘムズワースが演じるDr.ディメンタスと仲間たち

ダグ 「『フュリオサ』の物語、それも誘拐から始まります。“緑の地”と呼ばれる終末世界に存在する豊かで小さなオアシスで育った13歳の少女から、『怒りのデス・ロード』の大隊長になるまで。それが『フュリオサ』で描き出す物語です。

ダグ 「故郷から連れ去られたフュリオサは、非常に残忍な世界で、できる限りのことをして生き延びることを強いられます。立ちはだかるのはバイカー軍団を引き連れたディメンタス将軍。この映画はフュリオサが家へ帰るための旅であり、同時にその途中で受けた残虐行為に彼女が復讐を遂げる物語でもあるのです」

「マッドマックス:フュリオサ」 次々と困難に襲われるフュリオサ

 「怒りのデスロード」でヒュー・キース・バーンが演じたイモータン・ジョーは、ラッキー・ヒュームが演じる若き日のバージョンで「フュリオサ」にも登場。前作で視聴者を魅了した圧倒的な残虐さはその強烈なビジュアルとともに健在で、狂信的にジョーを支持し、ためらいなく命を捨てるウォーボーイズのいかれっぷりも引き続き堪能できます。

 新キャラのディメンタス将軍は、ジョーより若いためか信奉者に囲まれるというよりはギャングの親玉といった印象。集団としてもシタデルの人々と比べればまとまりに欠け、荒削りな面が目立つ分、何をしでかすか分からない怖さがあります。

 イモータン・ジョーとディメンタス将軍。タイプの異なる悪役に共通するのは“カリスマ性”だとダグは話し、カルトや独裁者ヒトラーといった実例を挙げて説明しています。

「マッドマックス:フュリオサ」 「フュリオサ」ではラッキー・ヒュームが演じるイモータン・ジョー

ダグ 「ヒトラーを例に挙げれば、彼は非常にカリスマ性があり話し上手で、聴衆の心へ訴えかけ、最終的にはナチスの指導者となった他に類を見ない残忍な男です。重要なことは、ナルシシストでありながらも、リーダー、あるいは独裁者にはカリスマ性が必要だということです。ディメンタスには時にコメディアンのような言動もありますが、強いカリスマ性があり非常に残忍な一面があります」

ダグ 「カルトであれば――宗教的な一面はさておき、リーダーがいう“大いなる目的”のために喜んで従うでしょう。つまりイモータン・ジョーがヴァルハラへ導くとウォーボーイズをコントロールし、彼らはジョーの願いが何であれ奉仕しようと銀のスプレーを吹きかけ嬉々として死地へ飛び込んでいくのです」

「マッドマックス:フュリオサ」 いざヴァルハラ! ジョーのためならためらいなく身を投げ出すウォーボーイズ

 例えはカミカゼにもおよび、「私たちの誰もが、何らかの邪悪な力の呪縛に陥る可能性を持っている」とダグは警鐘を鳴らします。「ヒトラーはそれをやった。ディメンタスならそれができる。イモータン・ジョーはやってのけた」とスクリーン上の悪役たちも“私たちの歴史の一部”であり、普遍的なテーマだと強調。ジョージ・ミラー監督が伝えたかったテーマの1つだと話しました。

ダグ 「(ディメンタス将軍を演じた)クリス・ヘムズワースはオーストラリア人。オーストラリアで、オーストラリア出身の俳優と物語を作ることは、私たちがこの映画を誇りに思う要素の1つです」

ダグ 「そして対するフュリオサこと、アニャ・テイラー=ジョイ。彼らは真っ向から対立する、全くベクトルが違うキャラクターなんです」

「ストリーミングの波はもうとまらない」 名プロデューサーが語る映画のこれから

 前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」公開から9年、コロナ禍を挟んでストリーミングが普及し映画の味方が大きく変化した現代で、「フュリオサ」はそれでも劇場で見るべき作品になったとダグは話します。

「マッドマックス:フュリオサ」

ダグ 「過去5年間で世界は急速に変化しました。新型コロナウイルスが世界を襲い映画を見に行く人々が一掃されましたが、だんだんと再び戻ってきている。それでもストリーミングの波はもうとまらないでしょう。世界が今後どのように変化していくかはわかりませんし、コントロールする人は誰もいません」

 Netflixは巨額の利益を上げ、世界各地でサブスクライバーを獲得。こうした動きに対応するようにオーストラリアでは、国内で制作されている映画へ資金を提供できるよう配信会社への課税を検討しているという中、ダグにとって重要なのは「1億ドル、2億ドル、3億ドルを投資する価値のある映画はほとんどないということ」といいます。映画を作る側の立場として、最低でも支払った製作費だけでも回収できなければならない。“リスク”の存在を挙げました。

ダグ 「最初の『マッドマックス』はホンダ車1台分よりも安い価格で作られました。それでいて、すべての人に向けて物語を伝える映画製作者への魅力も持っています。そしてそれ自体、ワーナー(・ブラザース)が利益を生むと信じて、無造作にではなく、賢明なビジネスとして投資した結果なのです」

「マッドマックス:フュリオサ」 大きなスクリーンで見たいマシンとアクションがてんこ盛り

ダグ 「映画、特に非常に大規模な予算を組む作品の場合は、大きな映画館で上映しても誰も来なかったら、すぐに多額のお金を失うことになる。この業界は億万長者をさらに儲からせることで有名ですが、投資家には勇気が必要です。今後ほとんどの作品はストリーミングへ移行するでしょう。そして誰もがそれを快適に感じるでしょうね」

「マッドマックス:フュリオサ」

世界崩壊から45年。バイカー軍団に連れ去られ、故郷や家族、人生のすべてを奪われた若きフュリオサ。改造バイクで絶叫するディメンタス将軍と、鉄壁の要塞を牛耳るイモータン・ジョーが覇権を争う“MADな世界(マッドワールド)”と対峙する! 怒りの戦士フュリオサよ、復讐のエンジンを鳴らせ!

監督:ジョージ・ミラー

出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース

配給:ワーナー・ブラザース映画

公式サイト:MADMAX-FURIOSA.jp #マッドマックス #フュリオサ

2024年5月31日(金)全国ロードショー!

IMAX(R)/4D/Dolby Cinema(R)(ドルビーシネマ)/ScreenX


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