柚子の魅力にとりつかれて“妖怪”に 柚子沼に落ちた作者が描く同人誌マンガ『妖怪ゆずちらし』
スーパーで買ってこよう。
夏がやってきましたね。梅雨が明けるか明けないかのうちからの猛烈な暑さに、否応なく夏が到来したことを肌で感じています。今回はこんな蒸し暑い時期の良いお供になってくれそうな同人誌です。
今回紹介する同人誌
『妖怪ゆずちらし』A5 20ページ 表紙カラー、本文モノクロ
著者:シャコ
和食洋食、甘味にも。万能食材に目覚める
作者さんはあるとき、スーパーで投げ売りされていた柚子(ゆず)を手に取ったことから、柚子のおいしさに目覚めます。皮を刻んでかけてみたら、和食、洋食、甘いものにも合う! と、その何にでも寄り添ってしまうおいしさに衝撃を受けます。
ここから作者さんは、料理に柚子をいれまくる「妖怪ゆずちらし」になってしまうのです。妖怪とはいえ、登場するのは愛嬌(あいきょう)のある猫の姿ですが、柚子の魅力にとりつかれ、すわったまなざしでぱらぱらと皮をふりかける姿は、自ら「妖怪」と称されたのも思わず納得してしまいそうな熱意たっぷりです。
驚きもしみじみも。うまい! の豊かなバリエーション
内容は柚子の皮の剥き方に始まり、さまざまなメニューに柚子がマッチしていくのがマンガで紹介されます。お吸い物にぱらりとひとつまみ入れただけで普段とは別格になることにおののき、次いでマシュマロココアにトッピングし、おしゃれカフェ気分を満喫……と、次々におすすめのアレンジ方法、およそ9品が出てきます。
本文はおよそ1ページに1品がマンガ形式で紹介されるのですが、紹介される品々が率直においしそうなんです。完成した料理の様子はまんなかにどーんと大きく、きらきらと輝くような筆致で描かれ、材料と簡単な作り方が添えられます。
さらにそれを堪能する“妖怪”猫さんはデフォルメされてコミカルに調理をしたり味わったりしています。この妖怪ゆずちらしさんが料理を食べるリアクションの豊かさにも注目。ほんのひとつまみで劇的に味が変化した驚き、おいしさが口いっぱいに広がるのをかみ締める様子など、キーポイントになる食材は柚子だけなのに、そこからいろいろな味わいの変化があるのを描き分けられています。「うまい」の一言を多彩なバリエーションで表現され、おいしそうだな、という感想だけでなく「食べてみたい」「柚子をかけてみたい」という気持ちに引っ張ってくれます。
自分で試し、のめりこんだ面白さ
メニューには、少し手が込んだ、マヨソースに柚子皮を混ぜ込んで揚げ焼きにした鶏にまぶしてみるもの、白だしと柚子皮に漬け込んだ柚子味玉子などもあれば、買ってきたお寿司に皮をきざんでかけるだけの限りなくハードルが低そうなものもあります。料理の経験がなくてもチャレンジできそうな品々に、やってみたいかも! な気分が高まります。
マンガではおいしそうな品々が次々に紹介されるので、ただただそれを享受してしまいそうになるのですが、実はこれらの根底には妖怪ゆずちらしさんが、体を張って試された英知があるんですね。ご本の後半には、単独メニューとして取り上げないけれど、どんなものにかけておいしかったかをまとめたページがありました。そこにはスパゲティやトースト、麻婆茄子など、柚子をちらしにちらして選抜していった痕跡(こんせき)がうかがえます。妖怪と言ってしまうほどにのめり込んだからこそ、シンプルな“ちらし”が際立つのかもしれません。
柚子は冬のものと思いがちですが、実は夏にも旬があるそうです。おいしいものに出会えたうれしさも、それにのめり込むたのしさもぎゅっと詰め込んだご本と一緒に爽やかに夏の味を楽しむのもよさそうですよ。
今週の余談
夏になったなぁ、と端々に思うことも増えました。折々の季節、楽しんでいきたいですね。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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イラストはかわいいけど中身はマジ。
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