柚子の魅力にとりつかれて“妖怪”に 柚子沼に落ちた作者が描く同人誌マンガ『妖怪ゆずちらし』

スーパーで買ってこよう。

» 2024年07月21日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 夏がやってきましたね。梅雨が明けるか明けないかのうちからの猛烈な暑さに、否応なく夏が到来したことを肌で感じています。今回はこんな蒸し暑い時期の良いお供になってくれそうな同人誌です。

今回紹介する同人誌

『妖怪ゆずちらし』A5 20ページ 表紙カラー、本文モノクロ

著者:シャコ


同人誌『妖怪ゆずちらし』 妖怪出現…?

和食洋食、甘味にも。万能食材に目覚める

 作者さんはあるとき、スーパーで投げ売りされていた柚子(ゆず)を手に取ったことから、柚子のおいしさに目覚めます。皮を刻んでかけてみたら、和食、洋食、甘いものにも合う! と、その何にでも寄り添ってしまうおいしさに衝撃を受けます。

 ここから作者さんは、料理に柚子をいれまくる「妖怪ゆずちらし」になってしまうのです。妖怪とはいえ、登場するのは愛嬌(あいきょう)のある猫の姿ですが、柚子の魅力にとりつかれ、すわったまなざしでぱらぱらと皮をふりかける姿は、自ら「妖怪」と称されたのも思わず納得してしまいそうな熱意たっぷりです。

同人誌『妖怪ゆずちらし』 入れただけで別格に!? 驚きとおいしさが伝わります

驚きもしみじみも。うまい! の豊かなバリエーション

 内容は柚子の皮の剥き方に始まり、さまざまなメニューに柚子がマッチしていくのがマンガで紹介されます。お吸い物にぱらりとひとつまみ入れただけで普段とは別格になることにおののき、次いでマシュマロココアにトッピングし、おしゃれカフェ気分を満喫……と、次々におすすめのアレンジ方法、およそ9品が出てきます。

 本文はおよそ1ページに1品がマンガ形式で紹介されるのですが、紹介される品々が率直においしそうなんです。完成した料理の様子はまんなかにどーんと大きく、きらきらと輝くような筆致で描かれ、材料と簡単な作り方が添えられます。

 さらにそれを堪能する“妖怪”猫さんはデフォルメされてコミカルに調理をしたり味わったりしています。この妖怪ゆずちらしさんが料理を食べるリアクションの豊かさにも注目。ほんのひとつまみで劇的に味が変化した驚き、おいしさが口いっぱいに広がるのをかみ締める様子など、キーポイントになる食材は柚子だけなのに、そこからいろいろな味わいの変化があるのを描き分けられています。「うまい」の一言を多彩なバリエーションで表現され、おいしそうだな、という感想だけでなく「食べてみたい」「柚子をかけてみたい」という気持ちに引っ張ってくれます。

同人誌『妖怪ゆずちらし』 おいしそうに輝いて見えます

自分で試し、のめりこんだ面白さ

 メニューには、少し手が込んだ、マヨソースに柚子皮を混ぜ込んで揚げ焼きにした鶏にまぶしてみるもの、白だしと柚子皮に漬け込んだ柚子味玉子などもあれば、買ってきたお寿司に皮をきざんでかけるだけの限りなくハードルが低そうなものもあります。料理の経験がなくてもチャレンジできそうな品々に、やってみたいかも! な気分が高まります。

 マンガではおいしそうな品々が次々に紹介されるので、ただただそれを享受してしまいそうになるのですが、実はこれらの根底には妖怪ゆずちらしさんが、体を張って試された英知があるんですね。ご本の後半には、単独メニューとして取り上げないけれど、どんなものにかけておいしかったかをまとめたページがありました。そこにはスパゲティやトースト、麻婆茄子など、柚子をちらしにちらして選抜していった痕跡(こんせき)がうかがえます。妖怪と言ってしまうほどにのめり込んだからこそ、シンプルな“ちらし”が際立つのかもしれません。

 柚子は冬のものと思いがちですが、実は夏にも旬があるそうです。おいしいものに出会えたうれしさも、それにのめり込むたのしさもぎゅっと詰め込んだご本と一緒に爽やかに夏の味を楽しむのもよさそうですよ。

『妖怪ゆずちらし』 「ひたすらうまいうまい」ととりこになるだけでなく、皆にそれを教えようと伝授する姿勢、すごい妖怪さんだ……!

サークル情報

サークル名:だいず製造所

現在入手できる場所:メロンブックス

次回イベント参加予定:コミックマーケット104(8月12日)、おもしろ同人誌バザール(11月3日、神保町)

X:@shako_jako


今週の余談

 夏になったなぁ、と端々に思うことも増えました。折々の季節、楽しんでいきたいですね。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた