「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」レビュー 生成AIの時代にこそ響く「絵を描く」ことの尊さ(1/3 ページ)

クライマックスの絶望は『シン・ゴジラ』級

» 2025年03月16日 11時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」が絶賛されている。現在、映画.comで4.3点、Filmarksで4.2点と、多数のレビューサイトでハイスコアを記録し、「声優交代後のドラえもん映画でベスト」「ドラえもん映画史上最高傑作」との声も寄せられている。

「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」レビュー 生成AIの時代にこそ響く「絵を描く」ことの尊さ 「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」ポスタービジュアル

 筆者自身の意見を述べておく。近年のリメイクではない、オリジナルのドラえもん映画は試行錯誤を続けており、正直「惜しい」作品も多い印象だったが、今作はスタッフの尽力と誠実なアプローチが報われる、名作と呼ばれるにふさわしい完成度と面白さだった。ドラえもん映画のファンはもちろん、初めて映画館で映画を見るお子さんにも大推薦できる。その理由を記していこう。

「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」特報

実は大半が「現実の世界」での冒険

 本作で重要なモチーフになっているのは、タイトルから分かるように「絵画」である。映画オリジナルの秘密道具「はいりこみライト」を使っての絵の世界での冒険が描かれており、序盤のギリシア神話の怪物「ミノタウロス」から逃げまどうハラハラや、オープニングのムンクの「叫び」やフェルメールの「牛乳を注ぐ女」のパロディーが面白い。

 しかし、意外というべきか、劇中の大部分は「現実」の世界での出来事だ。のび太たちはなぜか頭上から落ちてきた絵の中で不思議な少女「クレア」と出会い、彼女の頼みを受けて「アートリア公国」を目指す。そのアートリア公国は現代の歴史資料には残っていないが、中世のヨーロッパに存在していたこと、そしてのび太たちが期せずして現実のその時代のその場所へとタイムスリップしたことも分かるのだ。

「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」予告

 そこには「のび太たちの冒険を絵の中だけで完結させたくなかった」という確かな意図がある。劇場パンフレットでは、脚本を手掛けた伊藤公志が「絵の中っていうのはそれこそ空想世界なので、なんでも好きなことができてしまう。文字通り『絵空事』なわけですよ。でもそうした100%ファンタジーのお話は僕の中ではおもしろいと思えないし、藤子先生の描く世界観とも違う」などときっぱりと言い切っている。こうした姿勢からは「ファンタジーを都合の良い道具にしない」ための重要な考えや、クリエイターとしての誠実さが見て取れる。

「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」本編映像一部公開!<期間限定>

 余談だが、序盤でジャイアンが『絵の勉強なんてどうでもいい!』と言う。このセリフから、作り手の「子どもに退屈な勉強をさせず、エンターテインメントに徹する」という意志を(勝手に)受け取った。有名な絵画をほぼオープニングのみにとどめ、せいぜい「モーゼの十戒」を重要なシーンで示す程度に用いたのは、その意味でも正解だったと思う。

のび太の「へたっぴ」な絵も肯定する

 劇中の多くが「絵世界」の物語ではないことに否定的な声も上がるかもしれないが、実際には「絵を描くこと」の楽しさと意義をストレートに示し、鼓舞していることが重要だ。例えばのび太は絵を描こうとしているものの「へたっぴ」なことに自信をなくしてしまうが、のび太のパパやゲストキャラクターの「マイロ」は「上手いのがいい絵じゃないんだよ」という助言をするのだ。

 では、具体的にどのような絵が「いい絵」なのかは、映画本編を見て確認してほしいので秘密にしておくが、それは、現代の『生成AIが簡単に精巧な絵を作れる時代』だからこそ、より心に響くものだった。そして、のび太の「へたっぴ」な絵も全力で肯定してみせる様にこそに大きな感動があることは告げておこう。終盤はとある表現がコミカルで笑ってしまう一方で、その優しさと尊さに涙も込み上げてくるという、「泣き笑い」の感動があったのだ。

 他にも、中世ヨーロッパ時代のマイロが、現代の絵の具のチューブは知らず、「顔料と卵の黄身を混ぜる」といった描写もしっかりしている。ここにも、全てを絵空事にはしない、現実もしっかり描くという作り手の意志を感じた。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2504/27/news062.jpg 49歳病没の大宮エリーさん、生前開催の個展で「体調も万全でなかったので不安」 3カ月前には苦しげな姿も「声が出にくい」
  2. /nl/articles/2504/28/news013.jpg 夏に向けてトリミングしたワンコ、飼い主が迎えに行ったら…… 注文ミスが生んだ“予想外の姿”が180万表示 「もっと見たい」「じわじわくる」
  3. /nl/articles/2504/24/news136.jpg 青い毛糸で輪っかをひたすら編み、つなぎ合わせると…… 予想もつかなかった完成品が195万再生「これはヤバい」「なんてアイデアなの」【海外】
  4. /nl/articles/2504/28/news147.jpg Vtuberの死去を所属事務所が発表 「詳細については控えさせていただきます」
  5. /nl/articles/2504/25/news063.jpg 紙コップに“ひも”をクルクル巻くだけで…… 1000万再生された“驚きのアイデア”に「これは思い付かなかった」【海外】
  6. /nl/articles/2504/27/news008.jpg 万博会場に3DSを持って行ったら…… 300万表示の“目を疑う現象”に動揺広がる 「信じられない!」「今令和やぞ」
  7. /nl/articles/2504/26/news004.jpg ケガして動けないエビのため半年間、口元にエサを運んで介護したら…… 「びっくり」「不思議」まったく予想外の変貌に大反響
  8. /nl/articles/2504/28/news076.jpg 「復活キター!」 マクドナルド、“仲良しな二人”の復活を予告 意外な組み合わせに「仲悪いと思ってた」「また帰ってきたか、、、」
  9. /nl/articles/2504/27/news021.jpg 釣り人が捨てたフグを保護 → ありえない量のエビを与えたら…… 「大笑いしてしまいました」と反響を呼んだ姿から1年後……保護主に話を聞いた
  10. /nl/articles/2504/25/news022.jpg 足の悪い母のため、庭に作った小道→100均アイテムで雰囲気ガラリ 天才アイデアに「すごい!」「真似します」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「成長したらそのうち襲ってくる」と言われたワニ、16年後……→ 280万回再生を突破した驚きの姿に「初めて見た」の声
  2. 【大阪万博】皇后さま、帽子から靴までブルーとピンク 天皇陛下のネクタイと“連日おそろいコーデ”
  3. 飲み終えた“コーヒーかす”→捨てずに石と混ぜると、1カ月後…… 「感動」目からウロコの裏ワザに「やってみよう」
  4. 人里離れた山にカメラを設置→1週間後…… 「なんで?」映っていた“意外すぎる住人”に「笑った」「実在していたのか!」
  5. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  6. 「ウソだ…」「言葉が出ない」 幼少期から絵を描き続けた少年→15年後…… 大人になって描いた絵が100万再生【海外】
  7. 湘南の砂浜に打ちあがった“超危険生物”を飼育したら…… 貴重な姿に「初めて見ました」「かっこいい」と大反響→2年後の現在について話を聞いた
  8. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」話題になった飼い主に聞いた
  9. 万博「ミャクミャク」記念500円硬貨、金融機関での「品切れ」&高額転売相次ぐ…… 5倍以上の金額で出品される事態に
  10. マクドナルド、次回ハッピーセットコラボに「争奪戦すごそう」 品切れや転売の懸念も「1個でいいから欲しい」「たくさん作って」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】