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演技力の源は蓄積された「データ」 “現代の百面相”ロバート秋山が語るなりきりの極意(1/2 ページ)

「クリエイターズ・ファイル」で話題の秋山竜次さん。その収録現場でお話を聞きました。

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 最近、ネットで注目を集めている「ロバート」秋山竜次さんの連載企画「クリエイターズ・ファイル」。さまざまな業界のトップクリエイターになりきってインタビューに答えるという内容で、2015年4月からフリーマガジン「honto+」で15回にわたって掲載されています。

honto+「クリエイターズ・ファイル」
秋山さんが過去になりきった人物たち(紙版は丸善・ジュンク堂書店・文教堂で毎月第1木曜日に配布。電子版はhonto.jpの電子書籍ストアで配信されています)         (C)コルク/honto+

 「ジェネラルCGクリエイター」「スローフード・アドバイザー」「インディアンジュエリーデザイナー」など、一癖も二癖もある架空の人物たちになりきる秋山さん。どの回も濃いキャラクターばかりですが、見た人からは「こういう人いるいる」「クオリティー高すぎる」といった声が続出。YouTubeにアップされている動画も順調に再生数を伸ばしています。

 今回ねとらぼは、第16回の収録現場に潜入。撮影の様子をカメラに収めるとともに、普段のコントとはどこが違うのか、どういうところにこだわってるのか、そしてなにより、なぜここまで説得力のある演技ができるのかなど、気になる話を秋山さん本人に聞きました。

これまでに見てきた人たちを凝縮して1人にしています

インタビューに答える秋山さん
インタビューに答える秋山さん。収録後に行われたため衣装はそのまま

―― 連載開始から約1年。ここにきて一気に注目を浴び始めた「クリエイターズ・ファイル」ですが、どのようにして始まったのでしょう。

秋山 最初に「honto+」の中で4ページくらい好きなことをやりませんかという話がきまして、面白そうだなと。「これやってください」じゃなくて、全部自由にやってくださいっていう方が僕は好きなので、ぜひやらせていただきますと答えました。

 普段からコントをやっているので、なにかに扮(ふん)する企画がいいかなと思い、それなら、徹底してインタビューに答えようと。

―― これまでに紙で連載を持ったことは。

秋山 何回かありますよ。デビューしたてのころとか。自分で新聞を作るんですよ、なんとか新聞って。それもフリーで……なんか僕フリーが多いですね(笑)。でも、がっつり4ページというのは初めてです。

―― どの回も個性的なキャラクターたちですが、その発想はどこからくるのでしょう。

秋山 なんとなく、こういうのやりたいなあっていうのを携帯にメモっているんです。カツラを被ったりとか、衣装を変えたりとか、変わり映えするやつが大前提ですね。“表紙命”なところがあるんですよ。冊子を開いたときに、「なんだこれは!」と思ってもらいたい。

 あと、そうですね。自分の中で引っ掛かっている、これどんな職業なんだろうって思ってるやつですかね。知ってるのだとあまり面白くならないので、どういう職業か分からないものを勝手に広げて演じています。

―― 事前に専門用語など下調べはしますか?

秋山 いえ、全部想像ですね。本職の方々には申し訳ないですけど、多分こう言うんじゃないかって思いながらしゃべっているだけなので、事実と違うところはたくさんあるんじゃないかな。

―― 演じる中で人物の背景が広がっていくと。

秋山 そうですそうです。最初になんとなくポイントを決めているだけ。あとはしゃべりながら組み立てていきます。その中で、奇跡的に名言がでてくることもあれば、最初に出身地とか年齢を勢いだけで言っちゃって、本当に行きたい方向とは別の方向に話が行っちゃったりすることもありますね(笑)。

―― 本職の人たちから「こんなこと言わない」とか、指摘されたりしないですか?

秋山 それはないですね。意外と本人たちは気付かないもので、「ああいうやついるよなー」みたいに言ってたりします(笑)。

―― 演じる上で、なにかコツみたいなものはあるのでしょうか。本職の人たちでも納得するって、相当クオリティーが高いと思います。

 「クリエイターズ・ファイル」では、これまでに見てきたいろんな人たちを足して、ものすごい足して、凝縮して1人にしているんです。だから、データみたいなものですかね。ぶわーっと自分の中でまとめる感じです。

 この人はこういうこと言いそうとか、この職業の人はなんとなくこういうジャンルの行動をしそうみたいなのってあるじゃないですか。例えばダンサーだったら、1回は渡米してるとか、勝手に決めつけるんですよ。CGクリエイターだったら、社員と距離を近づけるためにランチタイムに屋上で一緒に食ってるとか、名旅館だったら、海外の有名人が来日した時に泊まった部屋があるとか。それが読者の持つイメージと一致すると、面白く感じるのかもしれないですね。連載ではそういうことをずっとやっています。

インタビューに答える秋山さん
自分の演じたキャラクターたちは、もはや他人として見ているといいます

多分こういうこと言うぞって決めつけてる、決めつけちゃう病なんです

―― 連載は動画でも展開していますね。人気の回は70万再生を突破していました。

 動画ではちょっと話題になっていますけど、メインはあくまでも紙です。制作にあたって、衣装もメイクも撮影場所も全て徹底していただいて、そのときに撮影した動画はもちろん面白く見えてますけど、でもやっぱり誌面を意識しているので。写り方とか、「この角度でいま写真撮られているな」と思いながらしゃべってますよ。あと、それぞれの回で写真家の方も最適な人に頼んでいるので、食べ物の回のときは普段から食べ物を撮影してる方に、桐乃祐の時は普段から俳優を撮影してる方に撮ってもらってます。

秋山さん演じる俳優・桐乃祐
役者魂が振り切れてしまっている俳優・桐乃祐 (C)コルク/honto+

―― テレビとはまた違ったこだわりがあるわけですね。

 どこをとっても、手を抜いた部分はないです。コントだと大体パネルの前とか、セットの前とか、場所のぜいたくをそんなにしたことはないんですけど、これはもう、この人がいそうなところに行って撮影するので、本当にいい写真や動画になるんです。

 あと、字体や文字の色合いといったデザインにもこだわっています。手に取って、(秋山さんの連載とは知らず)あ、いまこんな特集やってるんだーってだまされた人もいるくらいなので。ご高齢の方が、何回か読んだ後に「あれ、お笑い芸人だったのかよ」って気付いたり(笑)。うれしい苦情もありましたよ。

―― 顔はほぼそのままなのに気付かれないって、変装するよりも高度な気がします。

 やりすぎないというのがいいのかもしれないですね。特殊メイクだと誰でもできちゃうし。カツラは変えますけど、顔はそんなに変えてないです。付けひげぐらいかな。それがまたリアルなんですかね。なにもかもがちょうどいいから本物っぽく感じるんだろうなあ。

鈴木亮平さんとの思い出を振り返る秋山さん
“変態仮面”鈴木亮平さんに、連載を見ていると告白されたそう。「うれしかったなあ、俳優の回は見せたくなかったなかったけど(笑)」と秋山さん

―― 人物のものまねは以前からやられていますが、その原点はどこですか。

秋山 どこだろなあ。でも、子どものときから「こういうやつはこういうこと言ってくる」みたいな考えは持っていましたね。

 さっきも言いましたけど、やっぱりデータに近いんだと思います。こういう人はこういうことを言うみたいなのは結構当たるんですよ。例えば嫁が、今日スポーツジムに行ったらこういう人がいて、愚痴ばっかりいっててというのを聞いたら、かなり短髪で軽く髪を染めていただろと言うと当たってたりする。なんとなくこういうルックスなのかなと決めつけちゃう。もう決めつけちゃう病ですね。外れることもありますけど(笑)。

 「クリエイターズ・ファイル」はその究極。決めつけるって失礼極まりない話ですけど、でも、テクニカル・サウンド・アレンジャーの人だったら、「俺は表にでる人間じゃない」って言うでしょうし、インディアンジュエリーデザイナーの人だったら、「昔修行してさ」って言ってんじゃないかって思うし、俳優だったら、「どこがクランクインでどこかクランクアップか自分でも分からない」って言ってるだろうなって。だけど、ほとんど事実がないんだよなあ(笑)。

―― でも、気付くとうなずいちゃってるんですよ。なるほどなあって。

秋山 それが面白いですよね。たまに本当に、「うわっ(自分が)すげえいいこと言った」って思うことがあるんですよ。「これ本人の言葉でもいいぐらいだよ、本人にあげてえ」って(笑)。まあ、全部インチキなのもあれなので、ところどころちゃんとうなずける話も入れています。特集されているわけですから、しっかりした人たちだと思いますし。……1回そういう人に会ってみたいなあ。

お笑い芸人のまねをされるのは恥ずかしい

―― お気に入りの回はありますか?

秋山 メディカルチームドクターの横田涼一かな。チームに専属するドクターってどんな人なんだろうって思ってて、そういう人とは会ったこともしゃべったこともないですけど、ただなんとなくイメージだけで話していたらそれっぽくなったんです。

 ジェネラルなんとかみたいな、横文字の聞いたこともない役職を演じてみたくて、メディカルチームドクターというのは、そういった勝手なイメージの中から出てきました。

秋山さん演じるメディカルチームドクター・横田涼一
負傷した選手をコート上で治療する横田涼一 (C)コルク/honto+

 あと、ヨウコフチガミさんもいいですね。名前もいいですし、なんか分かんないですけど、ファッション界にずっといる熟している方って、髪がおかっぱで黒で固めてるイメージがありません? それで、「他人の服を剥ぎ取るくらいじゃなきゃオシャレじゃない」みたいなことを言ったり。その道を極めた人って、一般常識とは真逆の言葉を口走ると思うんですよ。

秋山さん演じるトータル・ファッション・アドバイザーのヨウコフチガミ
重鎮の風格が漂うトータル・ファッション・アドバイザーのヨウコフチガミ (C)コルク/honto+

―― 最近、女性芸人の丸山礼さんが秋山さんのものまねをしていますけど、自分がまねられる側になるってどうですか?

秋山 あー(笑)。でもあれはものまねというか、見た目が似てるみたいなことですからね(笑)。いやでも、どうですかね、あんな感じにものまねされるのはいいんですけど、なんていうか、お笑い芸人として、こういう取材で話した内容が記事で太字になって、それを誰かに「秋山のお笑い論」みたいにして語られる方が恥ずかしいかも。

 太字になることこそ恥ずかしいものはないですからね。よくあるんですよ、別にかっこつけていってることじゃないのに、「いまでは別人として見てますよ」みたいな言葉が太字になって、名言キメたみたいな感じになるんですよね。これだけいろんな人をイメージだけで演じてるのに、誰かお笑いじゃない業種の人に、お笑い芸人はこういう感じだってデフォルメされたら恥ずかしいだろうなあ。仕返しされたくないなあ……(笑)。

インタビューに答える秋山さん
「太字って一番恥ずかしいですからね」

―― では最後に、自分に役職を付けるとしたらなにがいいですか?

秋山 んー……、やっぱりアルファベットで「W・A・R・A・K・A・S・H・I」。WARAKASHI兼ロバートエグゼクティブトータルプロデューサーですね。

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