「君の名は。」外伝小説は“もう1人の主人公”を描いた名作 三葉のブラジャーの好みが知りたいやつも読め!:ねとらぼレビュー
映画本編では詳しく描かれなかったシーンがここに。
新海誠監督の長編アニメ映画「君の名は。」が、累計動員数500万人・興行収入65億円突破の大ヒットとなっています。都会の少年・立花瀧と田舎の少女・宮水三葉が、“入れ替わる”という奇跡的なきっかけで出会い、惹かれ合う――というピュアで爽やかなラブストーリーに、これまで新海作品を見たことがない人々も惹きつけられました。
圧倒的な「めっちゃいい話だったな……」という感覚にひとしきり浸ったあとに、「もっと2人のイチャイチャが見たい」「宮水家って結局なんなの?」などなど、要望や疑問が沸いてきた人も多いのでは。もちろん「それは薄い本で見ればいい」「こまけえこたぁいいんだよ!」としてもいいのですが、ここでオススメしたいのが外伝小説として発売された「君の名は。 Another Side:Earthbound」(角川スニーカー文庫)です。
同書は全4話の短編集。「君の名は。」の世界がより広がるエピソードぞろいです。
デュフフ三葉ちゃんブラジャー何色?
1話のタイトルは「ブラジャーに関する一考察」。三葉ちゃんの下着の色の好みが分かる短編です。……というと語弊が出てくるので、ネタバレなしにご紹介していきましょう。
多くの男性が装着したことのないブラジャー。瀧くんも、ブラをつけたこともなければ外したこともありませんでした。そんな瀧くんがやらかしてしまったトラブルとは……!?
〈ちょっとおおおお! ブラくらいちゃんとつけてよ! だけど女の子の下着をまじまじ見たりしたらそれは変態行為だから報復するから!〉
――なんて叫んじゃったりする、正統派なラブコメ展開。その中にも、三葉という女の子のマジメさや、一生懸命さ、入れ替わった2人の生活の一端が描かれています。
「君の名は。」の魅力の1つは、瀧と三葉のキャラクター。真っすぐで、キラキラしていて、一生懸命で、「みつはー、がんばえー! たきくーん、がんばえー!!」と(プリキュアを応援する女児のように)応援したくなる。
特に三葉ちゃんは、作中で(入れ替わった瀧に)胸を何度も揉まれ、パンチラし、(入れ替わった瀧の体において)男子の朝の生理現象を体験させられ、“口噛み酒”という非常にフェチなアイテムを作らされ……と、これまでの新海作品にはないくらいエッチな目に遭っているヒロインです。でも「エロ」というより「スケベ」って感じにとどまっている素晴らしいバランス感覚が、「ブラジャーに関する一考察」でも発揮されています。
もう1人の主人公、宮水俊樹
2話「スクラップ・アンド・ビルド」は、三葉の友人勅使河原(テッシー)が主人公。
〈しかし。時おり。この町をまとめて爆破したくなる。ぶっこわして、更地にしてしまいたいと、思うときがある〉
土建屋の息子という自身の環境に複雑な感情を抱く彼の姿から、糸守で生活している人々のイメージが広がっていきます。
3話「アースバウンド」のメインは妹の四葉。
〈「なるほど、宮水の神楽を舞うならば、いずくより来たりしものにせよ、そなたも宮水であるな」〉
四葉が垣間見るのは、宮水家の秘密。「結局、宮水家ってどういう役割なの?」という疑問を晴らすような短編です。
そして最後の4話は「あなたが結んだもの」。これは、三葉の母・二葉と、父・俊樹の物語です。
「君の名は。」で大きなポイントになっているのは“父と三葉の関係”。母の死をきっかけに確執が生まれた――ということは本編中でも読み取れるのですが、心が離れてしまった経緯や、父の感情、そしてクライマックスでかたくなだった父が“動いた”理由というものは、はっきりとは語られませんでした。そんなファンの疑問に応えるのがこの4話です。
映画本編では糸守の町長として、瀧と三葉の前に立ちふさがる存在である俊樹。しかし実は彼はもともとは、糸守の伝承を調査するべくやってきた研究者でした。彼はそこで、二葉と運命的な出会いを果たします。
〈宮水二葉はにこやかなまま、ほんのかすかに、困った顔をし、すさまじいことを言った。「どうしてだかわからないのですが、初めてお会いしたとき、私はあなたと結婚するような気がしたのです。どうしてでしょう。ふしぎですね」〉
こんなことを言われて、オチない男がいるのか!?(反語)彼女の予言の通り、俊樹は二葉に惹かれ、恋に落ちます。
〈自分は、他人というものにほとんど心動かされないのだと、溝口俊樹は思っていた。状況に応じて、いくらでも愛想良くなることはできるのだが、すべて演技だ。他人と関係を結ぶということが、基本的にどうでもよかった。特にそれで不都合を感じたこともなかった。そういう生き方が、楽だった〉
「秒速5センチメートル」の遠野貴樹のように、1人の女性によって世界の何もかもを変えられてしまった俊樹(そういえば名前も似てますね)。「君の名は。」の物語の中で、“宮水家に最も人生を動かされた人”は、瀧くんではなくて俊樹でしょう。
映画本編では詳しくは描かれませんが、作中の悲劇は、俊樹の行動によって回避されます。なぜ彼が、“町長としての常識的な判断”を捨てて行動することができたのか。それを描いた「あなたが結んだもの」を読むと、俊樹お父さんは、ある意味ではもう1人の主人公なのだ――と思うかもしれません。
「Another Side:Earthbound」を描いたのは、加納新太さん。加納さんはこれまでも「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」のノベライズを担当しており、おなじみのタッグです。
これまでの新海作品の小説版は、映画が発表された後に作成されていました。そのため、映画とは微妙にラストが変わっていたり、“その後”が描かれたり……といった“ファンサービス”的な要素もあったのです。
しかし、今回の「君の名は。」はほぼ同時に発売。「小説 君の名は。」(KADOKAWA)は、細かいやりとりやエピソードが変わってはいるものの基本的には映画と同じ。その分の“お楽しみ”が「Another Side:Earthbound」には詰まっています。
(青柳美帆子)
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