ムーミンの着ぐるみを着たプロのバレエダンサーが踊る「ムーミンバレエ」の公演がいよいよ始まりました。あのずんぐりむっくりとしたムーミンが、踊っていたのです! 舞っていたのです! くるくると回転し、懸命に片足を上げ、ちょこちょこと爪先立ちで動いていたのです……! ゲネプロを観てきた私は今、感動に打ち震えながらこのレポートを書いています。
4月22日より公演開始したバレエ「たのしいムーミン一家 〜ムーミンと魔法使いの帽子〜」は、バレエ界の名門・フィンランド国立バレエ団による演目。2015年にヘルシンキで「ムーミン谷の彗星」を上演したところ大きな話題を呼び、新作公演が日本で実現しました。併せて、「北欧バレエ・ガラ」も上演します。
何しろ、“ムーミン風”の衣装やメイクではなく、着ぐるみを着てしまうのです。バレエといえば、すらりとした体つきを活かした美しいポーズを見せて踊る舞台芸術。ムーミンの着ぐるみを着ていたら、バレエ特有の開脚も満足にできないでしょうに……。どうするつもりなのでしょう。
幕が上がり、雪が降り積もる中に赤い服を着た小さな少女が登場しました。ちびのミイです! 踊りながらの細かい仕草が、恐いもの知らずで怒りっぽく、好奇心旺盛なミイそのもの。跳ね回るミイの後ろには、白く盛り上がったベッドのようなものが……もしかして、ムーミンが寝ているのでしょうか? その瞬間、ベッドから起きてくるムーミン! ムーミンにムーミンパパ、ムーミンママ、スノークのおじょうさんが勢ぞろいし、のそのそと動き回り始めます。
周りでぴょこぴょこ舞っているミイとは対照的に、ムーミンたちの動きは非常にのんびり。ですが、彼らが小走りするときの足元に注目していると、つま先で小刻みに動いていることに気づきます。バレエだ……ムーミンたちが懸命にバレエを踊っていました……!
そして中盤、ムーミンとスノークのおじょうさんの見せ場が来ます。ゆるやかな音楽に合わせて、ムーミンたちがつま先立ちでくるくると回り、腕をすらりと伸ばしてポーズをとり、ひらひらと舞っていました。着ぐるみでありながら、こんなにちゃんとバレエになるとは……。
後半では、着ぐるみではないいわゆるバレエ的な衣装を着たキャラクターが多数登場。大きく跳び、素早く回り、体をぐにゃぐにゃと曲げている様子が、いい具合にムーミンたちとの対比になり、メリハリがきいています。
普通の衣装を着たキャラクターが真上に足を上げる横で、バレリーナのように(実際バレリーナなんだけど)足を上げるムーミン。決してバレエの動きとしては派手ではないものの、できる範囲で丁寧に踊るムーミンたちの様子に胸がいっぱいになりました。たとえるなら、バレエを始めたばかりのおばあちゃんの、初めての発表会を観ているような気分でした。「ちゃんと転ばないで踊れたね! くるくる回れたね!」と舞台上の着ぐるみムーミンが舞うたびに、心の中で語りかける自分がいました。一見できなそうなことを懸命にやってのける、その姿に人は心を打たれるのです。
朝井麻由美(@moyomoyomoyo)。フリーライター・編集者・コラムニスト。ジャンルは、女子カルチャー/サブカルチャーなど。雑誌やWebでコラム連載多数。近著に『「ぼっち」の歩き方』(PHP研究所)、『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA中経出版)。ゲーム音楽と人狼と麻雀が好き。
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ピタリと着地。