東京・上野の森美術館と兵庫県立美術館にて、中野京子特別監修の展覧会「怖い絵」展が行われます。会期は兵庫が7月22日〜9月18日、東京が10月7日〜12月17日です。
ドイツ文学者の中野京子による「怖い絵」シリーズは、さまざまな絵画を時代背景や作品に込められたストーリーで読み解く美術書としてベストセラーになりました。美しい絵画の裏側に広がる「恐怖」の世界を、今回の展示では生の名作で味わうことができます。「神話と聖書」「悪魔、地獄、怪物」「異界と幻視」「現実」「崇高の風景」「歴史」という濃密な6章立てに、鑑賞前から鳥肌が立ちそう!
中でも目玉となるのは、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵するポール・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」です。目隠しされたまま手探りで断頭台を探す若い女性の姿が印象的な1枚で、大きさはなんと縦2.5メートル×横3メートルという大作。日本で公開されるのは今回が初めてです。政争に巻き込まれて戴冠し、たった9日間の在位期間を経て反逆罪で処刑された女王ジェーン・グレイの、16年間の悲劇的な人生を上品に描いています。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「オデュッセウスに杯を差し出すキルケー」は、男を動物に変えてしまう魔女キルケーのエピソードを題材にした象徴主義の名作です。キルケーの美貌に魅せられて彼女が勧める酒を飲んだ男たちは、皆豚の姿になってしまいます。消えた部下を探しにやってきた英雄オデュッセウスは、目の前の女の足元にいる豚が部下だとはつゆ知らず、ほほ笑むキルケーに杯を渡される……そんな運命のワンシーンが切り取られた、ドラマチックで緊張感のある画面が印象的です。男性を惑わして船を沈める人魚を描いたハーバード・ジェイムズ・ドレイパー「オデュッセウスとセイレーン」も同時に展示されるので、ファム・ファタールの魅力にどっぷりつかることができます。
その他にも、19世紀に実際に起きた凄惨なフランス船漂流事件を描くジャック=エデゥアール・ジャビオ「メデュース号の筏」や、安酒に溺れて堕落の限りを尽くすイギリスの貧民街をモチーフにしたウィリアム・ホガース「ジン横丁」、火山の噴火に逃げ惑う人々の姿を生々しく描写したフレデリック=アンリ・ショパン「ポンペイ最後の日」など、「恐怖」を切り口に選ばれた名画が並ぶ予定です。想像力を働かせずにはいられないミステリアスで魅力的な絵画の世界に、あなたも一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
(正しい倫理子)
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