Valveから2007年に発売されたパズルFPS「Portal」。プレイヤーは「ポータルガン」を壁や床に撃つことで2つの地点をワープできる「ポータル」を作り出し、ステージをクリアしていく。戦闘を排除したゲームシステム、ポータルを作るというシンプルなルールながら奥深いゲームデザインが世界中で高評価を得た。ゲームをクリアするために不可欠なのは、視点移動だ。仕掛けを突破するために周りを見渡し、状況を把握していくことが求められる。
そんな「Portal」を、マウスを動かさずにクリアするプレイヤーが現れた。オーストラリア出身のプレイヤーImanex氏は視点移動を使わずに「Portal」を37分で完走するという前人未到の領域に足を踏み入れている。
プレイ動画を見てもらえれば分かるが、Imanex氏は視点移動を全くしていない。視線を固定させたままポータルガンを撃ち込み、通常の移動とポータル移動を駆使して全てのパズルをクリアしているのだ。ポータルガンの発射はキーボードに割り当てているので、「マウスなし」とも表現できる。AUTOMATON編集部はImanex氏に話を聞き、この挑戦のきっかけや、動画における見どころについて直接解説してもらった。
何が何だか分からない
Imanex氏は、全てのチャレンジが困難であったとしながら、特に苦労したのは22分33秒からの場面だったと伝えてくれた。炎に包まれた床の上をリフトで移動する場面だ。ここは通常のプレイならば、視点を変更してポータル移動し事なきを得るわけだが、マウスを移動させることができないので、そうした回避もできない。炎にあたる瞬間に壁にポータルを撃ち込み素早く入るというテクニックが必要で、何度もやり直しを強いられたという。直後23分8秒の対岸にわたる場面では、Accelerated Back Hoppingというグリッチを使い高速バックステップをかましながらパズルを突破。全て正攻法というわけではなく、場面によっては25分15秒のように扉の裏をめくるかのようなグリッチを駆使してステージをクリアしている。このテクニックは一部のステージでしか使えない。
10分46秒からのシーンでは無重力のように空間を操り、12分57秒ではタレットを巧みに避けるテクニックを披露するなど、もはや何が起こっているのか分からないというシーンが大半だろう。いずれにせよ、どのシーンもグリッチやアイデアをフルに使っていると氏は語っている。
Imanex氏はもともとスピードラン(RTA)プレイヤーで、2010年から「Portal」のスピードランに励んでいたという。しかし、時に速さを追求するあまりゲームそのもの自体を楽しめなくなったことも増えていった。そんなImanex氏はある日『ポケットモンスター(以下、ポケモン)』のスーパープレイからヒントをもらったという。この『ポケモン』のスーパープレイは、ジムバッジを1つも取得せずにポケモンを151匹集めるというもの。ゲーム本来の目的を完全に無視した、でたらめなプレイを見たことで、氏の「Portal」における情熱をぶつける手段は、スピードランに限らないと感じたようだ。
そこからImanex氏はスピードランナーというより、スーパープレイヤーにシフト。氏はさまざまな“でたらめ”な挑戦を始めた。例えば、ゲーム内に存在する「キューブ」を全て最後のステージへ持っていく「キューブビデオ」、考えられる最小の歩数でクリアする「最小ラン」など、奇妙なチャレンジを続けてきた。そして行き着いたのが現在挑戦している、マウスを動かずクリアする「No Mouse Movement」だ。実は今回の動画が初めてのクリアというわけではなく、幾度も成功するなかで、時間をうまく短縮できたゆえに投稿したようだ。
これほどの情熱がどこからくるか想像もつかないが、ひとえにImanex氏が「Portal狂」であることが深く関係しているだろう。Imanex氏が「Portal」に費やした総時間は4000時間以上。シングルプレイ専用、かつ短時間でクリアできる同作を4000時間以上プレイしているというだけでもその偏愛ぶりが分かる。「Portal 2」にも約2000時間を費やしており、「この時間を使えば偉大なことができたかもしれない」と自嘲気味に話す。どれだけやりこんでも「Portal」への愛は薄れることなく、むしろ「グリッチやテクニック、ゲームへの理解がある自分だからこそできるプレイがある」とさらなるチャレンジを誓っている。Imanex氏のその果てしなき「Portal」を巡る挑戦はこれからも続くだろう。
近日中には37分の映像を5分に凝縮したハイライト版を投稿する予定であるということなので、おいしいところをもっと楽しみたい方は、彼のチャンネルをチェックしてほしい。
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