世間の学生さんはそろそろ新学期。夏休みのように、朝寝坊できないなあ……って、あれ? 子どものころの夏休みって、朝寝坊してました? よく思い出してみれば、早起きしてラジオ体操にお出かけしていたという人もいるのでは。ラジオを中心に、公園にみんなが集まるあの光景。あらためて思い返すと、そのときラジオはどこに置かれていたでしょうか。ちょっとした塀の上や、ベンチでしょうか? 実は昭和の初めのころ……公園ではラジオを置く専用の塔、「ラジオ塔」が使われていたのです。
今回紹介する同人誌
「ラヂオ塔大百科2017」 B5 76ページ 表紙・本文カラー
著者:一幡(いちまん)公平
街頭テレビならぬ「街頭ラジオ」。昭和初期から残る、明日行けるラジオ塔40基を現地レポート
こちらの同人誌は日本全国は元より海外にまで赴いて、現存する「ラジオ塔」およそ40基を丹念に追い、レポートした本です。
ラジオ塔とは、誰でもラジオを聞けるように、街中に設置されたラジオ台のことです。昭和を振り返る映像で「プロレス中継を一目見ようと、人々が街頭テレビの周囲に集まって……」などというシーンがありますが、あのような街頭テレビならぬ、街頭ラジオにみんなが集まり、耳を傾けていた時代があったのだとか。昭和初期からはじまり、1943年(昭和18年)には一気に日本全国でラジオ塔が普及し、戦中、戦後を経て、やがてテレビの登場・普及とともにラジオ塔は過去のものになってゆく……という流れがあるようです。
そんなラジオ塔の成り立ち、設置数、現存する場所などが丁寧に解説されていて、これを読めばラジオ塔通になれると言って過言でないのでは!? という内容の充実ぶりなんです。
えっ、この中にラジオが!? それぞれのラジオ塔の姿を追う
しかし、何よりこの本のすごいところは、現存するラジオ塔の姿が一つ一つ写真付きでレポートされていることでしょう。ページを開いてまずびっくり! え、この中にラジオが入っていたの? と食い入るようにページを見つめてしまいました。
ラジオ塔という存在をこれまで知らなかった私から見ると、どう見ても灯篭か公園のオブジェなのですが、著者さんの観察眼にかかれば、ラジオを置く台座などの特徴を見逃しません。その姿は「二つとして同じものはない」といわれるだけあって、どれも個性的。池の中に立つ朱色も鮮やかな美しいラジオ塔はなんと現役でラジオが流れているのだそうです。一方で、神社の傍らで崩れ落ちそうな、廃墟好きの心をくすぐりそうなものも。
現役、引退、そして復活、隠れたエピソードまで網羅。高い完成度。ラジオ塔の魅力が余すところなく伝わる
今まで存在すら知らなかったラジオ塔。でもそこには、人々がラジオを求めた時代から、戦中に金属の提供をしなければならなかったような歴史、そしていまラジオ塔を大切に使い、復活させようとしていることなど、それをとりまく人々たちの物語が隠れていました。本では、それぞれのラジオ塔にまつわる状況を、時に大学の先生のコメントを交え、時にラジオ塔を復活させた人々に取材し……と、実にさまざまな事柄が子細に書かれています。
その細やかな配慮は、本の作りにも表れています。見やすいレイアウト、すっきりまとめられた情報、イラストを添えて理解も進みます。奥付を見ると、イラストやデザインは著者さんとは別に、ご担当された方がいらっしゃる様子。しかも著者さんの本職はカメラマンさん。写真も納得のクオリティーです。もう、このまま一般書店さんに並んでも何の遜色もない完成度です。
こんなにも全力で「ラジオ塔が好き!」という本を見てしまうと、もうラジオ塔を見過ごしてなんかいられないですよー。
今週のシャッツキステ
実はこちらは夏に入る前のころの様子です。この夏、シャッツキステのメイドたちは畑に出て、土を耕したり、種まきをしたりしておりました。畑に行くために、ごしごし洗っても大丈夫な、しっかりしたリネンでエプロンを作成中の写真です。野菜、いっぱい採れたんですよー!
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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