いつも誰かとつながれるあたたかなインターネット。しかし昨今では便利すぎるあまり、窮屈な思いをすることも増えてきました。『花のズボラ飯』(原作:久住昌之)で話題となった水沢悦子先生の最新作『もしもし、てるみです。』は、そんなつらく苦しいネットからの離脱を宣言する渾身の一作です。
ネットにつながらない携帯電話「もしメカ」シリーズを販売する「もしもし堂」の“てるみ”さんは、いつも窓口に座ってクロスワードパズルに没頭します。てるみさんは今どきの便利な携帯を使わず、SNSに没頭することも、ネットの口コミをうのみにすることもないお姉さん。まったりとして、それでいてシニカルです。
てるみさんの元には、恋する男子中学生“鈴太郎(りんたろう)”がたびたび訪ねてきます。鈴太郎は同じ学校のカノジョにフラれ、交際中のあれこれをSNSにばらまかれて傷心中というヘビーなトラウマを抱えつつ、気持ちはとっくにてるみさんに乗り換え済み。
「ネットから遠ざかって生きる!」と力強く宣言したその口で早速飲食店のネット口コミを話し、てるみさんにずばっと斬り捨てられるなど、残念さには事欠かない鈴太郎。絶妙に同情の余地がありませんが、ピュアで真っすぐで、エッチな気持ちを隠し切れない正直さはなんとも憎めません。
鈴太郎の周りはまだまだネットに毒された世界であり、年頃の欲望をあらわにしたクラスメートがネットを介した内外で大騒ぎ。作中には中学生ぐらいの年頃によくある、うまくいかないエピソードがあふれています。おませな女子や、買えないエロ本に思わずキュン……。
あるあるすぎるネット事情も、水沢先生のほんわかタッチがすがすがしく痛快に描き切ります。ネットから一歩引いてみれば、こんな風景が広がっている……のかもしれません。
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