ロリータファッションはヨーロッパの様式や文化などが昇華されたストリートファッション。18世紀のロココ時代などそれを体現する文化背景を持つフランスで、ロリータファッションは今、どう受け止められているのでしょうか。現地のロリータたちを取材しました。
東京に本店を構えるAngelic Prettyパリ店は、現在欧州で唯一のロリータファッションブランド直営店です。フランスのロリータたちにとっては交流の場でもあるブティック。他ブランドがどんどん撤退していくのを悲しむ声も聞こえてくる中、パリで毎年ロリータたちのためのお茶会を催しています。
支店長のTAKAさんによれば、顧客の年代は15歳から30歳くらい。現在12歳の常連客も何人かいるのだとか。ロリータファッションブランドは10代の女の子にとって少し価格帯が高めの印象ですが、「お母さんが買ってあげることが多く、さらに親子で好きになってしまう」こともあるといいます。
今回お話を聞いた現地のロリータはユミさんとディアナさん、前出のAngelic Prettyショップ店員のミラさん。それぞれフランス国内のロリータたちのためのアソシエーションを運営しており、ユミさんとミラさんは青木美沙子さんが会長を務める「日本ロリータ協会」によって任命される「カワイイ大使」でもあります。
―― ロリータとの出会いは?
ディアナ 私はお母さんが花柄やビロードのエレガントな格好をさせてくれていたおかげだと思う。そういう女性らしさが引き立つ服がずっと好きで探してきたの。
ロリータとの出会いは思春期。日本のヴィジュアル系ロックバンド「MALICE MIZER」が好きで、Manaさんが着ていたから。それで雑誌『Gothic&Lolita Bible』(※現在は休刊)を手に入れて勉強しようとした。日本滞在中に初めてロリータのブティックをみて、2007年に初アイテムを買ったの。それと同時にインターネット上でフランスの女の子たちによるロリータのコミュニティーに近づいていった。
ミラ 私と同じ年代のロリータたちは多くがそうだと思うんだけど、小さいころに見ていたアニメで引きつけられていったの。小学生のころは、特に日本のものと意識せずに、「美少女戦士セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」「カードキャプターさくら」をテレビで見ていて、思春期になるにつれ、漫画、それから日本のポップカルチャーを好きになっていった。インターネットでロリータを見つけたとき、その着こなしがまるで私の子ども時代におけるヒロインたちみたいだったの。それで「私も魔法少女になれるかも」って!
ユミ 2000年代に矢沢あいさんの『ご近所物語』と『Paradise Kiss』で知ったの。だから(ロリータファッションは)漫画由来だと思っていて、すごくすてきでオリジナリティーを感じた。それで『KERA!』『FRUiTS』など日本の雑誌を紹介していたフランスのブログを見つけて、すぐにとりこになっちゃった! 今でもこのファッションに興味津々だし、ヴィジュアル系バンド、特にMALICE MIZERから得るものは多かった。
最初のころはロリータに夢中なフランスの女の子はほとんどいなかったから、インターネットがあって本当に助かった。
―― ディアナさんとユミさんはMALICE MIZERの影響が大きいんですね。ロリータが知られはじめたのはいつごろ?
ディアナ はっきりとは分からないけど上陸したのは15年前くらいかなあ。広まりはじめたのは10年前くらいかも。フランスで「カミカゼ・ガールズ」(※「下妻物語」のこと)が上映され、Baby, the stars shine Brightパリ店(※現在は閉店)ができたのが10年前くらいだった。やっぱり漫画に出てくるヒロインのファッションは影響が大きくて、多くの女の子がロリータを着るきっかけになったと思う。
今ではイベントにたくさんのロリータが集まるけど、本当はもっといるはず。人前で見せるのを好まない子もいるし、未成年だと親がロリータを着て外に出るのを望まないこともあるから。
―― フランスのロリータたちにはどこで会える? どうやって交流しているの?
ユミ フランスには日本の原宿みたいな街はないから、日本関連のイベントとか、パリのブティック。インターネット上だとFacebookとか。だいたい大きな街ごとに出会いの場を設けています。私たちはよくサロン・ド・テで待ち合わせて、お菓子を食べながら写真を撮ったりするの。
―― ロココなど、ロリータファッションはヨーロッパの文化からインスパイアされている。フランスの女の子にとってロリータファッションは、日本でいえば和服愛のようにむしろ伝統的なファッションなのでは?
ユミ 確かに私たちにとってロリータは古い時代を思い起こさせるし、ヴェルサイユとか優雅でクラシックな時代を好きな子は多いかも! 吸血鬼っぽい要素やゴシックもヨーロピアン文化からきているよね。
一方で、フランスには「カワイイ」文化というのがなくて、そういう意味では全く新しいファッション。日本にはインスピレーションを与えてくれる、自由で創造的なファッションがあると思う。私たちはいろいろなファッションや時代を混ぜるのが好きだし、そうやってロリータからおとぎ話やヴィクトリア朝、パンクやポップなどのスタイルが生まれてくるの。
ディアナ ロリータファッションが私たちにとって異国風じゃないのは本当ね。ただ、よくあることなんだけど、路上で私たちに「漫画のコスプレ?」とか「お人形の扮装をしてるの?」って聞いてくる人がいるの。ほとんどの人が、ロリータファッションからロココは連想しないみたい。ロリータ自身はフランス史が好きで、中世やロココからインスパイアされてるっていう子にもよく会うけど。
ミラ もし懐古趣味というだけなら、既にフランスでたくさん作られていたような昔のコスチュームを着ればいいよね。ロリータはもう少し、昔の美しい洋服の情熱と、現代カルチャーの熱狂、その間にあるものかな。懐古趣味みたいでもあるけど、制約や型から飛び出して意図的に新しくセンスやビジョンを作り直すものなの。
―― フランスではシンプルかセクシーな服装が好きな女の子が多い印象だけど、ロリータの文化を知らない周囲の人にも受け入れられる?
ミラ ロリータファッションが受け入れられているのかどうかは分からないけど、ほとんどの場所や状況に着ていってもそれは許容されている。2005年から2010年くらいまでは、例えば道端でうんざりするようなこともあった。今はフランス人も以前よりこのファッションを認知するようになって、好奇心を持って見てくれたり褒めてくれたりするの。
ただ、職場だともっと複雑。ロリータの要素を取り入れた服装だったり、色をそろえたりレースを控えたりと、可能な限りシンプルなドレスを身に着ける子も多いよ。
ユミ フランスでは独創的なスタイルが理解されないときもあって、すごく残念。ロリータはいつも評価されるわけじゃなく、仮装と比べられることもある。
5年くらい前からロリータも増えてきて、路上で「それ日本の?」とか「かわいい」「エレガント」っていわれることがある。おばあちゃんたちには好かれることが多くて、それは(ロリータファッションが)ヴィンテージのシルエットに少し近いからなんだろうなと。
ロリータはシンプルでもセクシーでもないオリジナルなもの。洗練されて凝ったファッションとしてとらえていて、「自分では着ないけど、美しい」ってよくいわれる。私は思うんだけど、もしロリータを身に着けることで幸せを感じられるんだとしたら着るべき。人の意見は重要じゃない。
―― フランスのロリータと日本のロリータの違いを感じる?
ディアナ 私の目にはとても違って見える。日本のロリータたちは「フルセット」「フルブランド」、つまり同じコレクションとブランドでそろえることが多い。ヨーロッパのロリータたちはそれらを混ぜるのが好きで、多分、正攻法から思い切って抜け出そうとしているのかもしれない。
日本はお茶会にも着ていくブランドが指定されたりドレスコードがあるんだけど、ヨーロッパだとそういうのはなくていろんなブランドを混ぜていいの。でも日本のイベントも少しずつオープンになってきているよね。
―― フランスでロリータを広めるためどんな活動を?
ユミ カワイイ大使としては、ブログでロリータファッションを広めたり、日常的に興味を示した人にファッションのアドバイスをしたり。
それと「Rouge Dentelle&Rose Ruban」という2009年に設立されたアソシエーションでは東フランスの責任者も務めています。出会いのイベントやファッションショーや、講義をしたり。それに月に1回以上、仲間同士でお茶会を開いて日本のブランドや世界中の個人ブランドを広めています。
私たちのコミュニティーはネット上で設立されているから、定期的にフランス国内の、またドイツやスイスなど近隣諸国のロリータたちとも会えるようにもしているの。
ディアナ 私は2004年に、ミラたちの友人グループと一緒に「French cafe」というアソシエーションを設立した。ロリータや原宿のファッションを広めるのが目的で、ヨーロッパの他のアソシエーションや、「Triple fortune」「Angelic Pretty」など日本のブランドともパートナーシップを結んでいるよ。
―― 最後に、ロリータの魅力を一言。
ユミ ロリータは私にとって“こうありたい”という自分を表現する方法。身に着けると私らしくいられるし、強くなるのを感じる。特にエレガントで、どこか影があり神秘的なゴスロリにはインスパイアされていて、また新しいスタイルを考え出したいなと思います。
ミラ ロリータといっても、いろいろなブランドや雰囲気があるから、魅力もそれぞれ。ロリータにはみんな、各々の格好やアイデア、独創性がある。かわいくもなれるし、影のある感じやエレガントにもなれるし、ロリータはたくさんのものが同時に存在するファッション。だから全ての領域、全ての国の若い女の子が本来の自分に戻ることができるんじゃないかな。
ディアナ いろいろな国の女性が美しい装いで、洗練された楽しいひと時を過ごせること。ゴスロリでも甘ロリでもスタイルは何でもいいの。私はすべての美しいドレス、きれいに髪を整えお化粧をするその努力が好き。
時とともに少しずつスタイルが変わって、今は昔とは違うブランドを着ている。30歳が近づくにつれ、より成熟したブランドを探しているんだけど、多分ロリータはずっとやめないと思う。このファッションと恋に落ちているから。
フランスのロリータたちは、とても折り目正しくどちらかといえば控え目な女の子たちが多いという印象。ディアナさんのいう通り、ロリータファッションに憧れているが外出する勇気はない女の子も存在しており、1着だけ購入し家でこっそり楽しんでいるという20代女性もいるそうです。
きっかけは漫画であったりと、もともと日本の文化に興味がある女の子が大半でで、ファッションだけを切り取って情熱を注いでいるロリータには出会いませんでした。日本よりも入手が難しいことは事実ですが、インターネットのおかげで好きなブランドのアイテムも手に入るよう。各国のロリータたちが日本とは違う独自の発展をしていくのか、これからの動向も興味深いところです。
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