ネット就活が広がった時期と一致
「祈られる」という言葉が生まれた2000年代前半に何が起きていたのでしょうか? アンケートから推測するに、インターネットを利用した就活が広がった時期と重なっているようです。
アンケートの回答者にいろいろ聞いてみると、「祈られる」という言葉があったと答えた人は、就職情報サイトの利用だったり、企業とのメールでのやりとりだったり、ネット上での情報交換など、就職活動のさまざまな場面でインターネットを使っていました。
就職年 | 各年代の回答例 |
---|---|
2001年以前 | そもそもメールではなかった |
2002年〜03年 | インターネット就活の走りだった |
2004年〜08年 | 「祈られた」のような表現があった |
2009年〜2010年 | 「専用サイトで祈られました」など、言葉を使いこなした回答が来る |
2011年〜 | 「使ってました!」と即答される |
複数の書籍などを調べると、ネット就活が普及したのはやはり2000年代前半。
ある就職情報サイトの担当者の記憶では、紙の時代では、郵送代もかかるということで、今ほどには不採用通知は出していなかったそうです。これがメールに置き換わるようになるにつれて、不採用通知を出すことが主流となります。
「ネットで情報交換がされるようになったこと」「学生側が平等性を求める傾向にあること」などの背景から、非礼とならないよう企業が努力した結果が「お祈りメール」の形になったのではないか、と話していました。
「お祈り手紙」は存在したのか?
では、ネット就活が始まる以前、2001年よりも前には「お祈り手紙」はなかったのでしょうか? 当時就職した人たちに聞いてみましたが、不採用通知をもらったという人たちも文面までは覚えていませんでした。
筆者は2001年就職ですが、不採用通知はあっても電話か封書。封書の不採用通知を受け取ったこともありましたが、封筒を開ける前に透かしてみて「不採用」の文字が見えてしまって、開封したものの、ろくに読まずに捨てた思い出があります。「祈られ」ていたかどうか、中の文面は一切記憶に残っていません。
調べた書籍の中にも、不採用通知が紙だった時代から「お祈り文」は使われていたという情報はあるのですが、それが「お祈り手紙」と呼ばれることはなかったようです。
言葉が誕生してから数年後にメディアが取り上げた理由
お祈りメールが誕生してから十数年、今これだけメディアに取り上げられるようになったのには何か理由があるのでしょうか。各就職年の求人倍率を見ていたところ、ある仮説にたどり着きました。
2000年代前半、インターネット就活の普及と時期を同じくして「お祈りメール」という言葉が広がりました。この時期の就職環境は回復傾向にあります。
そして、2008年9月のリーマンショックを期に、一気に就職難となります。2009年卒が2.14倍なのに対し、2010年卒は1.62倍と急降下。これをメディアが取り上げる際、従来の「就職氷河期」とは違う新たな就職難の象徴として、不採用を表す「お祈りメール」という言葉に目を付けたのではないでしょうか。
どちらも就活生にとって大きな変化が訪れた年代。その激変期が言葉を生み育てた、そんなドラマを感じます。
それにしても、どうしてこんなにも多くの企業の不採用通知が「お祈り申し上げます」と同じような文章で終わっているのでしょうか。
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