先日、「広辞苑」の第7版が発売されました。10年ぶりの改訂により、約1万項目が追加されたとのこと。10年もあれば、新しい言葉もたくさん増えますからね。
しかし、注目すべきはそこだけではありません。以前から載っていた言葉に関しても変更が加えられているからです。その中でも今回注目したいのが「爆笑」。今回の改訂により説明文が大きく変わっています。
『広辞苑』第6版
ばく-しょう【爆笑】 - 大勢が大声でどっと笑うこと。
『広辞苑』第7版
ばく-しょう【爆笑】 - はじけるように大声で笑うこと。
着目してほしいポイントは、人数。旧版では「大勢で」と人数の指定がありましたが、新版ではそれがなくなっているのです。
これまでは「爆笑は大勢で笑うときに使う言葉。1人の場合は大笑い」と説明されることも。「1人で爆笑」などという表現を見つけようものなら、まるで“言葉の警察”にでもなったかのように「誤用だ! 誤用だ!」と指摘する厳しい人も少なからずいました。
ですが、そんな堅苦しい時代は終わりです。天下の広辞苑様が1人で爆笑してもよいとお認めになったのだから。めでたし、めでたし。
……という簡単な話ではないようです。「爆笑」がたどった数奇な運命を振り返ってみましょう。
「1人で爆笑」は誤用じゃない
言葉の意味は、時代の流れで変化することがあります。例えば「姑息(こそく)」という言葉は本来、「一時しのぎ」という意味でしたが、最近では「ひきょうな」という意味でひろく使われるようになり、本来の意味よりも浸透しています。
ですが、「爆笑」の意味の変化は、これとは違うパターンだとされています。誤用により「1人で爆笑」が可能になったわけではなく、そもそも「爆笑」には「大勢で」という意味が含まれていなかったのです。
「爆笑」は比較的新しい言葉で、昭和に入った頃から使われ始めました。実は、この当時から主語が1人でも使える言葉でした。
そして彼は陰欝に爆笑した。(徳田秋声による小説「町の踊り場」/初出1933年)
※主語は「彼」。明らかに1人で爆笑しています。
では、どうして人数制限が生まれてしまったのでしょうか。それは「どういうわけか、『大勢で』と加えて載せてしまった辞書が複数あったため」だといわれています。
言ってみれば、言葉の意味が分からないとき、真っ先に頼る辞書が間違っていたせいで、本来の意味が誤用として扱われるようになったのです。
辞書を作っているのは、人間です。われわれが言葉を間違えることがあるように、辞書だって完璧なわけではありません。だからこそ、情報をうのみにするのではなく、自分で精査することも必要なのです。
参考
分け入っても分け入っても日本語(18) 「居眠り・うたた寝」「爆笑」 - Webでも考える人
「1人で爆笑」問題、学術的には「できる」で事実上確定済み - ヤシロぶ
「爆笑」から「爆買い」までの90年史 - 日経ビジネスONLINE
『広辞苑』岩波書店
徳田秋声『現代文学大系 11 徳田秋聲集』筑摩書房(1965) - 青空文庫より
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