朝の起床から出発までの時間はとにかく忙しいですよね。電車の時間が近づくほどに、分刻み、もしくは秒刻みで時計を確認する方もいらっしゃるのではないでしょうか。もしも明日から時間の基本単位である「1秒」そのものが短くなったら、1分や1時間も短くなって社会的にも大混乱が起きそうです。
しかし、実際には「1秒」の定義にも紆余曲折があり、「1秒」の長さも歴史の中でほんの少しずつ変化してきたのです。
1799年
1799年にフランスでメートル法が制定されたとき、「1メートル」だけではなく「1秒」の定義も作られ、「秒は1平均太陽日の86400分の1」とされました。
平均太陽日は、地球の公転周期(1年間)に対して長さが同じになるように計算された1日の長さ(ほぼ地球の自転周期)。つまりこの定義は、1日の長さを86400で割ったのが1秒ということです。説明が長くはなりましたが、おそらくこれが一番シンプルで生活になじみ深い「1秒」ではないでしょうか。
1956年
メートル法の定義は一見とてもシンプルでいいのですが、天文観測の精度が上がってくると地球の自転周期が一定ではないことが分かってきました。もちろん生活にはすぐに影響が出ないレベルの変化ですが、地球の自転周期が一定ではないとなると、単位の定義としては弱くなってしまいます。
そこで1956年の国際度量衝総会で定められた定義は、「秒は暦表時1900年1月0日12時の回帰年の31556925.9747分の1」。なんだか専門用語が多くてさっぱりですね。
暦表時は地球の公転周期をもとにして算出されるカレンダーのようなもので、回帰年は地球の公転周期です。しかし暦表時1900年1月0日12時の太陽の位置を算出する精度はそれほど高くないので、これもまた定義の元が崩れてしまい、1秒の精度も落ちてしまいます。
1967年
1967年の国際度量衝総会では「秒はセシウム133原子の基底状態にある2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の9192631770周期の継続時間」と定義しました。この定義の1秒は「国際原子秒」と呼ばれています。
これはなかなか画期的な定義です。これまでの1秒は、どうにかして地球の正確な自転周期や公転周期を測定することで1秒を決める天文学的な観点からのアプローチでしたが、この「国際原子秒」では量子力学からアプローチすることで精度よく1秒を定めることができることになったのです。
分かりにくい国際原子秒、つまりどういうこと?
とはいえ、この「秒はセシウム133原子の基底状態にある2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の9192631770周期の継続時間」という定義、ちょっと分かりにくすぎますよね。
原子は原子核とその周りをまわる電子で構成されます。電子の持つエネルギーは連続的に変化するのではなく、とびとびの決まった値のみをとりながら変化します。坂道で上り下りするのではなく、階段で行ったり来たりするようなイメージです。
階段の高さに値する決まった値のエネルギーを「エネルギー準位」、行ったり来たりして変化することを「遷移する」といいます。さらに、遷移するときには変化したエネルギー分を電磁波として放射・吸収しますが、この電磁波の波長と周波数はエネルギー量で決まります。
つまり国際原子秒の定義では、一番低いエネルギーから、2段階分変化するときに放射する電磁波の振動を9192631770回(約92億回)繰り返したときの時間の長さを1秒としているのです。変化分のエネルギーが同じなら、放出される電磁波の周波数も確定するので、これなら秒の定義としては安心できそうですね。
余談ですが、1997年の国際度量衝局の会議では国際原子秒の定義に関して「秒の定義は0K(ケルビン)の下で静止した状態にあるセシウム原子を基準にしている」(つまり絶対零度という環境下のセシウムを基準とする)という追加条件が定められました。
現在の1秒の精度は?
現在の国際原子秒の実現精度は、1000兆分の1秒にまで及んでいます。これは3000万年で1秒ずれる程度の誤差です。
十分過ぎるほどの精度に思えるかもしれませんが、現在の国際原子秒の条件では絶対零度という環境を作れないため、実際の測定値を補正しなければならないという問題もあります。そのためレーザーをつかった測定方法や、パルサーという天体を使った定義など、新しい秒の標準候補も現れてきています。
さらなる科学技術の発展に伴って、新しい秒の定義が採用される日も、実はそう遠くはないのかもしれません。
主要参考文献
「シリーズ現代の天文学 人類の住む宇宙」(日本評論社/岡村定矩他編)
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