9回裏まで一球入魂! 児童向けから成人向けまで、野球小説オンリーのレビュー本が熱い:司書メイドの同人誌レビューノート
野球らしく9回裏まで全18冊をレビューしています。
そろそろ南の方では梅雨入りしたという声が聞こえてきました。冬の上着を収めたばかりだと言うのに、2018年は季節の移り変わりの早さにびっくりです。さてさて、雨が降る前に、曇天を突き抜けるような、まぶしい白球を追いかけるレビュー本を読んでみましょうか。
今回紹介する同人誌
『野球小説の話をしよう 3』
A5 24ページ 表紙カラー・本文モノクロ
作者:環俊次
児童向けから成人向けまで! 野球小説だけのレビュー18本
こちらの同人誌は、作者ご自身が読まれた小説のレビュー本です。ずらり並んだ18冊の本。これらに共通するのは「野球」。そう、どれも野球をテーマにした小説なんです。
バットを持ったイラストがほほえましい表紙の、なんだか懐かしさ漂う児童小説、試合に誘拐事件が絡むミステリー、ラノベ、かつて一世を風靡(ふうび)したケータイ小説などなど、ひとくちに野球小説といっても、こんなに種類があるんですね。中には成人向けの小説も!
1ページに1冊のペースで紹介される野球小説はタイトル、著者、出版社、発行年といった基礎情報と、作者さんのレビューが載っています。この1ページに1冊というシンプルな構成が、野球に詳しくない私にも、するりと入って読みやすいのです。しかも、文頭を“野球嫌いの野球小説”や、“残念?男子高校生だ”といった、興味をそそるキャッチフレーズが飾っていて、ご本に興味が出てきます。
レビュー順には試合展開が詰まってる? 意味深な並び順の謎
野球がお好きな方なら、18冊という数にピンとこられたでしょうか? 野球に疎い私は、レビューの中で「9回裏という形でヒッソリ取り上げます」と書かれて、やっと、はた! と手を打ったのですが、なるほど、野球の試合が9回まであるのに掛けてあるのですねー。
そう気付いてからあらためてページをめくり直すと、1冊目は児童向けの『ぼくは野球部一年生』からスタートしています。ふむふむ、誰にでもやさしく読めそうなご本から、順当な試合開始と言ったところでしょうか。ミステリーや青春小説を挟みつつ、3回裏には、北杜夫さんのエッセイ本の中に収録されている小説をチョイス。ちょっと本流から外れたようなご本を選択されたのは、3回裏がなにか試合のキーポイントになった……? と深読みしてしまいます。
レビューされている本そのものだけでなく、紹介するご本の順序にも、実はドラマチックな展開が隠されているのかもしれない、なんて考えを巡らせているだけで楽しい! なお、前述の「9回裏という形でヒッソリ取り上げ」られたのは、今回のレビュー本の中で唯一の成人向け小説。しかも実は競技はソフトボールだったそうで……。でも、ちゃんと野球とソフトボールの違いに戸惑うシーンが丁寧に解説されているところに注目されています。18冊のレビュー本を通して試合が行われている比喩だとしたら……うーん、この試合、かなり波乱に富んで、最後に大逆転があったのかも?
あなたの野球観は? 同じ本を読んで語り合いたくなるかも!
レビューを拝見していて、顔をあげて「あれ?」と首を傾げることがありました。ふと思ったのです。「あんまりテンションが高くない……」と。いやいや、レビューされるお気持ちが低いわけでは、決してありません。ではなぜ落ち着いているなぁ、と感じたのかと考えてみると、それは作者さんの野球への接し方が垣間見えているように思ったからでした。
レビューの中で作者さんは、ケータイ小説の横書きに馴染めなかったこと、文中の野球道具の呼び方に違和感を持ったことなど、率直に語っていらっしゃいます。さらに、過去に活躍した野球選手が登場するシーンから時代背景を推察したり、自身は小さなころは野球が嫌いだったこと……そういったことを少しずつ文章に織り込んでいらっしゃいます。好きなジャンルのことだからあれこれ言いたくなるけれど、決して悪口ではなくって、「好き」ゆえのツッコミ。個人の経験と思い出。それらが少しずつミックスされたレビューは、とても“日常”の空気をまとっています。
私が野球に触れるのは、「○○チームが優勝したんですって」とか「国外で大活躍の選手がいらっしゃるんですって」といった、とっても特別なニュースを耳にしたときですけど、きっと作者さんにとって、野球はいつも身近にあるものなのでしょうね。その特別じゃない、日常の愛おしさから選ばれた18冊。ご本を読んで、レビューを読んだら、試合を観戦しながら語り合いたくなってしまうかも。
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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