「万引き家族」がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、「カメラを止めるな!」が低予算ながら大ヒットを記録するなど、大きな盛り上がりを見せている邦画界。しかし、光あるところに影あり。鳴り物入りで公開されたものの、興収的にも批評的にも鳴かず飛ばずでいつの間にか公開終了し、映画ファンの間でも一切語られることのない作品はいつの時代も山のように存在しています。
そんな「ビミョー」な邦画にあえて目を向け、その秘められた面白さを軽妙に切り取った漫画『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(「スピネル」にて連載)の1巻が8月24日に発売されました。テーマのマニアックさにもかかわらず早くも重版が決定するなど、映画クラスタの内外から注目を集めています。
漫画の舞台となるのはとある進学校。大の映画好きである小谷洋一は「映画について語る若人の部」なるクラブを作るもなかなか賛同者が集まらず、悶々とする日々を過ごしていました。そんなある日突然やってきた新入部員が、この漫画の主人公となる邦吉映子でした。
ようやく同好の士に出会えたと喜ぶ洋一でしたが、そこに意外な落とし穴が。一見普通の女子高生な映子は、映画の趣味が極めて特殊だったのです。「好きな映画」を尋ねられ、彼女が答えたタイトルは実写版「魔女の宅急便」。
なぜか「呪怨」の清水崇監督が手がけた同作は、知名度が非常に高いアニメ版ファンからの反発を招き、大ヒットとはいかなかった不遇の作品です。「どんな映画が好き?」というのはその人の性格や趣向が反映される重要な質問ではありますが、そこで数多くある映画の中からあえて同作をチョイスするという人間はまずいないといってよいでしょう。
意外すぎる回答に困惑する洋一を差し置き、映子は実写版「魔女の宅急便」のプレゼンを一方的にはじめます。なんでも同作は
- 「キキにイラついたトンボが『魔法魔法言うな!』と叫びながらキキを張り倒すシーン」
- 「嵐の中大岩に衝突しそうになったキキを助けるため、トンボが横スクロールアクションゲームよろしく飛び降り、岩に飛び乗りゴムボートを担いで激走し、ふたたびボートに飛び乗って窮地を脱するシーン」
- 「クライマックスに豪雨の中で小さいマツコ・デラックスみたいな人がR&Bを熱唱するシーン」
など、魅力的(?)な場面が盛りだくさんで、見どころたっぷりなのだそうです。
こうして、邦キチ映子さんによる邦画プレゼンの毎日がはじまりました。取り上げる映画はそのほとんどが一言でいうとビミョーなものばかりです。あるときは「DOG×POLICE 純白の絆」や「神様のパズル」に共通するなんともいえない空気漂う展開を「理想の市原隼人映画」として激賞。
かと思えば、井口昇監督によるリメイク版「電人ザボーガー」が原作の低予算演出までくまなく再現しているのを高評価し「この世の全てのリメイク映画はザボーガーを参考にすべきです!」と言い切ってしまったり、妖怪フリークですら存在を覚えているか定かではない「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」の鬼太郎の頭部※を褒め称えたりとその“邦画〇〇〇〇”ぶりはとどまるところ知りません。こりゃついていけんわ!
※妖怪感をより演出するため、前作に比べ頭部が「もっこり」している。
作中で扱うのは邦画がメインですが、海外のコアな人気作が取り上げられることも。海外映画担当は、唐突に登場する新キャラクター・東洋洋(トンヤンヤン)。父親が中国人とインド人のハーフで、母親がフィリピン人と韓国人のハーフというややこしい設定のキャラです。
そんな彼女からはヒゲのマッチョ王子がパワーとスマイルで活躍するインドアクション映画「バーフバリ」や、國村隼がふんどし一丁で鹿をむさぼる韓国ホラー「コクソン」など、コアな人気を誇る快作かつ怪作の魅力をこれでもかと紹介。
さらに、単行本のみの描き下ろし特別エピソードもついてきます。第1巻で描き下ろされたのは、あの悪名高い実写版「デビルマン」。
「はっぴーばーすでー、でびるまん」「ぉあああーん!(一説には「ほわーん」「ああああ」)」など、耳に入ってくるだけで人を悪魔に変えてしまう珍せりふがいまだに語り継がれる伝説の「原作ブレイカー」です。
映子はよりによってそんな「デビルマン」の魅力をこれでもかと熱弁。周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図ですが、満面の笑みで語る彼女を見ているとどんな珍作にも見どころはあるのかもしれないと思わされます。
劇場に一瞬現れては消えていく「これ誰が見てるんだ!?」系映画にスポットを当てた本作。個人的には「LOVE まさお君が行く!」「わさお」「カムイ外伝」あたりを紹介してほしいところ。今後のプレゼンも楽しみであります。
(エンジン)
特別掲載『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』第1話
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自由帳にめっちゃ描いてたやつ。