「取り扱い説明書」のイラストにはルールがある? 読み物としても楽しい同人誌『テクニカルイラストを描く』:司書メイドの同人誌レビューノート
「テクニカルイラスト」という呼称も初耳でした。
誰かに何かを伝えるときに「絵が描けたらいいなぁ」と思うことがあります。特にものごとを説明するとき! すっきりとした図が添えられたら、分かりやすさ倍増では……と思っていた私の目の前に、こちらの同人誌が飛び込んできました。『テクニカルイラストを描く』。表紙には、ノートPCの絵が。これです、これこれ。これって描けるようになるものなんですか?
今回紹介する同人誌
『テクニカルイラストを描く』A5 32ページ 表紙カラー・本文モノクロ
作者:ぬっきぃ
取り扱い説明書の図は「テクニカルイラスト」というジャンルなのですか!
そもそも、こういう「取り扱い説明書に載っているような絵」に専用の名称があることを、考えたこともなかったんです。こういうジャンルがあって、それは「テクニカルイラスト」と呼ぶんですね。ああ、もうこれだけでかなりすっきりした気分です。
なんとなくいいなーっとて思っていたものの名前が分かると、それが大きな手掛かりになって、そこから一気に求める情報に近づきやすくなります。知っている人には当然すぎる情報でも、知らない人、特に私のように「なんとなくいいなと思っていたけれど、切羽詰まって深く調べるほど必要性に迫られてもいない」という状況だと、いつまでも薄ぼんやりと悩ましいだけですが、こんなふうに偶然に回答に出会うと、霧の中に朝日が差し込んだみたいです。そう、なにはともあれ「こんなジャンルが存在している」と知ること、そのものが日常のちょっとした便利につながっていくのだと思います。
ルールを知れば、分かりやすくなる! 最初の一歩の足かがりがうれしい
ご本では、テクニカルイラストのごく初歩として、線の強弱で立体感を意識させる方法、やじるしの使い方一つで、読者に直感的に理解してもらうコツなど、基本的なテクニックが紹介されています。これらは、実際にテクニカルイラスト制作をされる作者さんの実体験に基づいています。
この、ほんとの初歩の初歩に的をしぼって描かれているのがうれしいです。実際にテクニカルイラストを描くときには、もっと専門的な技術が必要になるであろうことは予測がつくのですが、何しろ読者の私も薄らぼんやりとした困り度数だっただけに、いきなり分厚い専門書にはどうにも手が出しづらいのです。そういう「なんとなく困ってた」の段差に、登りやすい緩いスロープを付けてもらった感じです。これでちょっとやってみようかな、もしかしたらできるかも! の気持ちが刺激されて、わくわくしてきます。
分かりやすさは観察と理解からはじまる……。くすっと笑えるこぼれ話も
ご本にはテクニカルイラストを作成するうえでもっとも大切なことは「取材」だと書かれています。実物を見て、触ることで、よりよい使い方を考えるとともに、「自分が分かっていないものを描くのは怖くないですか? 取扱説明書は命にかかわります」と投げかけて、説明書の向こうにいる読者のことを気付かせます。なるほど、このイラストを使うときに、自分の声で説明をしてあげられるのか、それとも紙一枚を渡してそれっきりなのか……状況に応じて、多様な使い方をされる取り扱い説明書のテクニカルイラストを手掛けてこられた経験者だからこその、責任ある視点が伝わります。
一方で、作者さんはテクニカルイラストの他にも多様な表現をされていて、ライターさんやマンガ家さんとしてのお仕事もされているとか。作者さんがびっくりしたこと、困ったことなどを、コメントやマンガの形で、ところどころにくすっと笑えるテンションで挟み込まれているのが、読み物としても楽しい!
「こんなジャンルがあったんだ!」のおどろきから、「やってみようかな」のわくわくの気持ち、業界のちょっとした裏話も。最初の一歩を楽しく一緒に踏み出してくれるようなご本です。
サークル情報
サークル名:カドヤキソバ
Twitter:@nukkey2013
Webサイト:http://nukkey2013.com/
購入先:BOOTH
参加予定のイベント:「技術書典5」10月8日、池袋サンシャインシティで開催。サークル名はテク・テク団
今週のシャッツキステ
シャッツキステでお出しする冷たいお紅茶には、グラスの下にレース編みのコースターを敷いています。この度、新しいレース糸を使いはじめました。今度の糸は、少し細めで張りがあります。少し涼しくなりましたが、まだまだ冷たい飲み物もおいしい季節。どんどん編んでいきますよー
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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