今月9月中旬から下旬にかけて、日本でTwitterを中心にブームを引き起こした「クッパ姫(Bowsette)」の流行が海外に波及し、第二波というべきバイラル現象を生み出している。「NewスーパーマリオブラザーズU デラックス」のキノピコがスーパークラウンをとることにより、キノピーチに変化するという設定をきっかけに始まったこのブーム。マレーシア人ユーザーhaniwa氏が9月19日に、クッパがこれをとればピーチ化(もしくは姫化)するのではないかというイラストを投稿したことが導火線となり、“絵師”たちによる数々のクッパ姫の魅力的な絵が投下され、国内のユーザーを巻き込んだ大きなムーブメントが発生した(経緯の紹介記事)。
第二波発生
haniwa氏がクッパ姫のイラストを投稿した際に、すでに海外のコミュニティーではBowsetteブームが発生していたが、その勢いを加速させる第2波がやってきた。そのきっかけは、もちろん日本の盛り上がりだ。大手海外ゲームメディアはこぞって、日本のクッパ姫における盛り上がりと同時に、それをきっかけにキングテレサ姫(Boosette)など派生キャラクターが生まれていることを報道(IGN)。国内でオンリーイベントなども開催予定であることまでもが、事細かく伝えられている(Kotaku)。その他、お手製のamiiboが作られたり、海外の大型フードチェーン・アービーズがBowsetteを模したフードに添えて“彼女が流行っていると聞きました”と投稿し、1万1000のシェアを獲得。さらにポルノサイトPornhubは「Bowsette」の検索数が、26日現在で50万件に至ったことを報告し、同時にBowser(クッパ)の検索数も5万件を上回っていることを発表(VentureBeat)。週を明けてから日本では少し落ち着きを見せているが、海外ではむしろ週明けから、混沌としたBowsetteのニュースが流れ続けている。
この海外人気はパブリックな場でも確認できるが、本格的に盛り上がっているのはむしろ“水面下”であるだろう。イラストを投稿するSNSサイトにて人気が爆発中なのだ。トップページからクッパ姫がお出迎えするDeviantArtでは、すでに6000に近いイラストが投稿されており、誇張ではなく“毎分”絵が公開されている状態だ。Tumblrでは、浸透しつつある“金髪巨乳“のBowsetteではなく、異なる解釈から生まれた赤髪のたくましいBowsetteのイラストが投稿されており、コミュニティーごとの個性を感じさせる。もちろん、その熱量はDeviantArtに勝るとも劣らない。さらには、9月23日深夜に誕生したredditのBowsette板でもクッパ姫のイラストや思いが、数多くぶつけられているのだ。
しかし、単なる盛り上がりだけでは収まらないかもしれない。というのも、Bowsetteへの思いが抑えられない一部のユーザーが、Change.orgにて正式キャラクター化を望む署名運動を始めたのだ。「クッパ姫を実現してほしい」「クッパ姫を『スマブラ SPECIAL』に出してほしい」といった署名活動が始められ、28日17時時点ですでに総計して1万を超えるユーザーの声を獲得している。二次創作であるクッパ姫を、正式なキャラクターとして認めることを求める運動が開始されたのだ。その理由は単純で、ユーザーたちは「クッパ姫は魅力的で、人気なのだから彼女に目をむけてほしい」と主張している。
本当に公式化すべきなのか
クッパ姫は、重ねて述べるが、二次創作から生まれたものである。クッパ自体の人気や設定の自由さ、それでいてしっかりとした共通点があるなど、その多くの魅力から人気を博している。しかしそれはあくまで、ファンが生んだものである。マリオシリーズには伝統があり設定が存在する。スタッフより受け継がれてきたものに、ファンの要望から生まれたクッパ姫を入れてしまえば、 その伝統やバランスは崩れかねない。任天堂は、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズにおいて「アンケート集計拳!!」や「スマブラ拳!!X ―大乱闘スマッシュブラザーズX公式サイト―」などを通じて、ユーザーのフィードバックを求めることもある。任天堂自身もユーザーの声を重要視する姿勢を見せているが、一方的に要望をつきつけられ、それをうのみにするのが“同社スタイル”ではないだろう。あくまでファンの声を聞きつつも、任天堂自身の哲学を貫いてきたからこそ、世界で絶大な支持を得ているのではないだろうか。
そもそも、クッパ姫自体がグレーなものという点は留意すべきことだ。弁護士ドットコムの齋藤 理央氏は「クッパ姫については、金髪に碧眼、髪形、ドレスの特徴的なデザインやアクセサリーがピーチ姫と同じというところから、ピーチ姫をモデルにしていると知り得るとも言うことができます。(中略)そうすると、著作権(翻案権)侵害と評価し得ることになります」と述べている。任天堂がこうしたコンテンツを取り締まるかは別として、非常に危うい存在でもある。
そして気になるのは、クッパ姫がセクシャルなキャラクターとして人気を博していること。前出のreddit板を閲覧する際には、18歳以上であるかの年齢確認を求められたように、大きな乳房をあらわにし勝ち気な姿勢を見せるクッパ姫は、間違いなくセクシャルな位置付けになりつつあるといえる。DeviantArtやPixivでもしばし「R18」のイラストが投稿されており、“そうした需要”があるキャラクターとして捉える人が多いだろう。任天堂は、大きな会社ということもあり手広く作品を発売しており、時に「零」シリーズや「ゼノブレイド」シリーズ、「ファイアーエムブレム」シリーズなどで、比較的露出度の高いキャラクターを登場させることもあるが、全年齢向けの「マリオ」となると話は違ってくる。
「マリオ」シリーズでは、一部プレイヤーのフェティシズムをくすぐる魅力的なキャラクターは登場したとしても、露出が高く扇情的と万人に捉えられるキャラクターは基本的には現れない。「スーパーマリオ オデッセイ」のとあるシーンでは、ピーチ姫が水着で登場しファンをまごつかせたが、健康的に見えるように配慮され描写されていることがうかがえる。クッパ姫のようなセクシャルなキャラクターを、「マリオ」シリーズに登場させることには見逃せないリスクも存在する。
また今回の署名活動が生まれたのちに、その署名に反対する署名運動も起こっている。反対活動の概要には「公式化されることにより、二次創作が禁止される」という危惧の声が記載されている。いずれにせよ、何かを改善するためではなく、個人の嗜好の要望から発展した署名活動が大規模になっていくことに、歪さと恐怖心を抱くファンはいるのではないだろうか。
任天堂キャラクターの“意外な一面”を楽しむ文化は最近さらに人気が加熱しており、「スーパーマリオ オデッセイ」のキノピオの頭部の仕組みを論じたり、マリオの上半身に描かれる桃色の乳首が注目を集めるなど、ファンベースもより拡大し盛り上がりつつある。前述した2つの要素はプロデューサーの小泉歓晃氏が言及するなど、ファンを喜ばせるサービスもあったが、それは作中の設定に関連した事柄であり、ほどよい距離感があったからこそできたことであるとも考えられる。
クッパ姫は「キノピーチ」という公式設定のきっかけがあって生まれたものの、そのキャラクターは任天堂にとって関知しない二次創作である。設定および著作権的に怪しいそのキャラクターを見守りたい意向があったとしても、ヒートアップしすぎれば看過できない状況に至ることもありえる。現在の署名はキャラクター定着というよりも、一時的な消費というむしろ真逆の方向をむいて進んでいるのではないだろうか。キャラクターの扱いに正解はない。ただ、もしクッパ姫を大事にしていきたいならば、その“熱”に支配されず、節度を持った行動が求められる。“地下”で活動しているユーザーは、そうしたことを理解しているから、見えないところで創作を楽しんでいるだろう。公に出るには、リスクのあるキャラクターではあるからだ。
国内だけでなく、海外でもヒートアップする、クッパ姫ことBowsette人気。ファンベースから生まれた魅力的なキャラクターであるだけに、たとえそれが非公式であったとしても、大切に扱われていくことを願うばかりだ。
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