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「テロップは全て人力でした」 史上初の「パワプロ風野球中継」 実現の陰にあった3つの壁とパワプロ愛(3/3 ページ)

プロ野球の試合中継をゲーム「実況パワフルプロ野球」風に配信し、大きな反響を呼んだAbemaTV。実現までにはさまざまな苦労が――プロデューサーの押目隆之介さんに話を聞いた。

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パワプロ愛なくしてはやれなかった

――あらためて、野球中継でパワプロコラボが史上初って意外ですよね。

押目: KONAMIさんから聞いたときは驚きました。過去にも企画の相談は何度かあったらしいですが、いろいろネックがあって実現が難しかったみたいです。NPBや各球団、各所との調整が大変なので。

 うちの場合は権利をいただいているDeNAさんがもともと先進的だったのが大きかったと思います。選手データを犬やカピバラと比較するのもOKしてくれるぐらい新しいことに前向きに取り組んでくれるので。

パワプロ AbemaTV 中継 インタビュー 話題になった、選手とカピバラの比較データ(関連記事

――あの動物との比較もSNSで「いい意味で狂っている」と話題になりました。

押目: それでもこのパワプロ企画、一度頓挫しかけたんですよ。4月から始めたものの全然動かないし、技術面で課題も多いし、企画もまだまだ薄いし……。

――KONAMI側と球団側、どちらに通すのも難しそうですしね。

押目: あと社内でも戦わなきゃいけないんです(笑)。これだけコストをかけるんだったらこれぐらいの数字が必要だけど、取れないでしょ? みたいな。ただ個人的にめちゃくちゃパワプロに思い入れがあったので、実施させようと心を燃やして企画に取り組みました。

――話を聞いていて思ったんですが、押目さんパワプロめっちゃ好きですよね……?

押目: ぼく、パワプロは第1作目の94年版から大学生になるくらいまでずっと買っているんですよ。94年版の頃はまだ小学1年生だったんですが、野茂とか伊良部とかいて、能力も走・守の2項目だけでしたね。

――ガチファンの気配……シリーズで一番好きなのは。

押目: (考え込んで)……99年版ですね。サクセスは「社会人野球編」と「冥球島」の2パターンあるんですが、これにしこたまハマりました(笑) もちろん開幕版と決定版両方購入しています。

――そりゃ企画にも熱が入りますよね。

押目: 宣伝部にもパワプロ好きがいて、2人の熱量でいろんなとこに通して動き回りました。技術陣はあまりパワプロに詳しくない者もいたので、「これだけ世の中で人気あるんだよ」とかデータを見せたり、リリースを出して話題になったら「これだけ今話題になっているからがんばろう」と鼓舞したり(笑)。ぼくからムリな注文もたくさんさせてもらったので、少しでもモチベーションが上がるようにと。

 あとは技術の代表をKONAMIさんとの打ち合わせに連れて行ったり……そうやって互いに顔を合わせて行きながらみんなで企画への熱を高めていきました。最終的にKONAMIさんの社長が「リリース文言までチェックする」とおっしゃってくれたり。

――社長まで……。

押目: KONAMIさんはパワプロ風中継のオンエア時も、みんなで集まって見ていただいたようで「本当によかったです、またやりましょう!」とかなり前向きな言葉をいただけました。本当にパワプロが好きじゃないと実現できなかったと思います。


コメントとの相互性、マニアックなデータ AbemaTVならではの中継づくり

――大相撲といい、AbemaTVのスポーツ中継には地上波にはないおもしろさを盛り込もうという気概が感じられます。制作陣には何か狙いやテーマはありますか?

押目: AbemaTVならではの価値を追求したいとは思っています。まずはAbemaTVが持つタイムリーなコメント機能。視聴者から指摘があったらすぐに番組に反映させる、という相互的な価値は盛り込みたいです。

 あとはAbemaTVだから出せるマニアックなデータですね。過去にも六大学野球の中継時に、各大学の食堂の人気メニューランキングとか、部内で人気の野球漫画ランキングとかを各部にアンケートをとって表示しました。東大では1位が『ダイヤのA』(寺嶋裕二)、2位が『メジャー』(満田拓也)と新し目の作品が上位にくるんですが、他の大学で0票だった『巨人の星』(原作:梶原一騎/作画:川崎のぼる)が6位に食い込んできたんですよね。

――意外……!

押目: あとはネットの拡散も意識して、思わずコメントしたりリツイートしたりしたくなるスクショ(スクリーンショット)が撮れやすいよう、マニアックなデータはちゃんとテロップで出していくことは意識しています。カピバラの比較データもそうですし。

パワプロ AbemaTV 中継 インタビュー 神里選手の走力を犬と比べるというデータもSNSでバズった

――ネットメディアであるAbemaTVならではの狙いですね。今後野球中継でやってみたいことはありますか。

押目: 例えば漫画とかアニメとかのコラボ企画とか。座組によっては今までリーチしていなかった層に届くことがわかったので、野球漫画の作家さんに解説で来ていただいたり……。

――それは熱いですね……ちなみに野球漫画で一番好きなのは。

押目: 個人的には『ストッパー毒島』(ハロルド作石)ですね。全12巻、マニアックな知識と小ネタ満載でめちゃくちゃおもしろいです、名作です。

パワプロ AbemaTV 中継 インタビュー
『ストッパー毒島』1巻

――最高です。

押目: 投げるときの「おっほえ」、曲がるストレート……。主人公の毒島が「ブスジマチェンジ」っていうチェンジアップを投げるんですが、それをマネして松坂大輔選手はチェンジアップ握っていると聞いたことがあります!

――中日で松坂選手が登板する試合で、ハロルド作石先生が解説席に着くとかあったらたまらないですね……。

押目: やりたいですね……! 一方で漫画家さんにただ出演していただくだけではなく、そこから企画により厚みを持たせなきゃいけませんが。

 あとは既成概念で進んできた今の実況・解説の型を壊していくのもありだと思っています。実況・解説の2人がいる、というのが正しい形なのか、そもそも必要なのか……お笑いと野球中継の融合として、実況解説を千鳥さんにしてしまったらどうなるのかとか。まだ本当にアイデア段階ですが。

 そういったことを意識しつつ、今まで野球中継に触れてこなかった層にもちゃんと知ってもらえるよう、番組を進化させていきたいですね。<了>

パワプロ AbemaTV 中継 インタビュー 野球愛を披露してくれた押見さん――来季企画が楽しみすぎる

黒木貴啓


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