【木村祥朗×堀井直樹×なる×ZUN】「BLACK BIRD」爆誕祭 なぜゲーム開発者はシューティングを作りたがるのか、「原点にして究極」と語るその魅力(5/5 ページ)
「moon」「Million Onion Hotel」などを手掛けてきた木村祥朗さん(Onion Games)の最新作がなぜシューティングなのか。「BLACK BIRD」開発のきっかけや、シューティングというジャンルの魅力について語ってもらいました。
シューティングは「開発者が自分で遊べる」ジャンル
―― ZUNさんの「長く生きていれば先が見られる」という発言であらためて感じたんですが、シューティングってこれ以上ないくらい要素をそぎ落としたシンプルなジャンルですよね。それがこんなにもファンや開発者の心をざわつかせるのは何なんでしょうか。
木村:僕は子供のころからシューティングに憧れていたから、「BLACK BIRD」を作ってテレビの大きな画面に出した瞬間は、やっぱりこみ上げるものがありましたよ。ただ一つ言わせてほしい。シューティングは簡単に作れるってみんな言うけど……簡単じゃなかった!
ZUN:いえ簡単ですよ、リソースは少なくて済むから(笑)。ただリソースを増やせば面白くなるというゲームではないから、そこは苦労します。
堀井:リソース少なくて済むのと、地形ありのシューティングでなければ、背景との当たり判定がいらないことが楽ですね。だから形になりそうなものがすぐできる。これが2Dアクションになると地形との兼ね合いでいきなり難しくなるから。ただシューティングはそこからが大変で、まとめようとするとあーでもないこーでもないと繰り返すことになる。
ZUN:格ゲーを作ろうとしたら立ち絵がないと始まらないし、RPGはストーリーもキャラも作らないといけない。シューティングは記号でも作れるから。そう考えると入り口は簡単ですよね。シューティングはゲーム作りの導入で、同時に究極でもあるんです。
堀井:その点、同人界隈を見渡しても、なるさんの作るクオリティーはおかしい!
なる:僕がシューティングを作り始めたのも、初めに敵の画像を出して、動かして、弾を撃つ、敵に当たって倒せる、これでゲームが成立するからでした。プログラムからゲームを作り始めると、シューティングに行きやすいんです。それで1本作り上げると、今度は他のシューティングを見る目が変わってくる。敵の編隊にもいろんな配置や出現パターンがあるんだなとか、この敵は攻撃前にこういう予兆があるんだなとか、細かいところが見えるようになる。
数日前に「超連射68k」をプレイしたんですけど、めっちゃ面白くて、でもすごいシンプルなんですよ。背景もずっと一緒だし、敵の種類が多いわけでもなく、プレイヤーの攻撃もショットとボムだけ。でも敵の堅さとかが絶妙で、大型機を倒したときの気持ちよさが半端なくて。こんなにシンプルな要素しかないのに、面白いものと面白くないものが生まれる。そこがシューティングは奥が深いんです。
ZUN:あとシューティングが他のゲームとちょっと違うのは、開発者が自分で遊べることなんです。テストプレイで自分が遊んで楽しいと思えるまで調整したり、クリアできなかったらクリアできるまでやったりして、結果、それがユーザーが遊んで面白いものになる。「作ってる人が楽しむ」イコール、それが「ユーザーが楽しめるものになっている」はずなんです。
なる:それはありますね。
―― M2は「移植」なのでまたちょっと事情が違うと思うんですが、シューティングにこだわる理由ってどのあたりなんでしょう。
堀井:俺たちが面白いから「バトルガレッガ」出そうぜ! ってなるわけじゃないですか。そこは同人やインディーの皆さんとなんら変わらないですよ。シューティングが好きだし面白いからやろうぜ、というだけ。
いまだにシューティングが作られている理由は多分すごいシンプルで、「みんな好きだから」。あとはやっぱり、ZUNさんがおっしゃったように「一人で納得いくところまで突き詰められるゲームジャンル」ってなかなかないんですよ。そこはシューティングのいいところです。
シューティングの気持ちよさはリビドーと結び付いている?
ZUN:あと僕が縦スクロールシューティングばかり作るのは、縦のほうが自分が撃っているように感じるんですよ。横シューティングは画面にあるものを自分で操作しているイメージなんですが、縦は自分が乗っているイメージ。
木村:縦スクロールシューティングって上に向かってスクロールしていくから、上に撃つじゃないですか。それは人間のリビドーと合体してると思うんですよ。感覚的にはもう、男のゲームですよね。
ZUN:僕もそう思います。撃って気持ちいい。
木村:敵が流れてきて、タタタタタ、とやっつけて、アイテムが出たりする。その感じ方が違うんじゃないかって、男子と女子では。
堀井:この話、どう絡んでいいか難しいけど絡みたいネタではある!!
なる:(困った顔で沈黙を守っている)
ZUN:「東方」を出した最初のころは、「弾幕は18禁だから」とずっと言ってました。冗談っぽく言ってたけど、エロと結びついているんですよ、感覚としては。
木村:作りたくなるのも遊びたくなるのも、もしかしてゲームの歴史とか関係なく、人間の本能とかに根ざしてるのかもしれない。ちょっと先の世界を見たいとか、撃ち込んで気持ちいいとか。
堀井:本能チックな。
木村:「R-TYPE」とかがタメ撃ちシステムとかを導入した根源にはそれがあるのかも。
ZUN:性的というかもっとシンプルに、生物として楽しい、本能として楽しいみたいなものがきっとあるんです。だからゲームとしては原始的で、押してなんか気持ちいいものが出たよ、爆発した! バーン! みたいのがシューティングの良さなんです。
木村:直結してるよね、感覚と。到達して気持ちよくなるとか、やっつけて気持ちよくなるというのが短い時間の中にいっぱい起こる。そう考えると「BLACK BIRD」は男性的な印象が薄いかもしれない。なぜなら一直線にスクロールしないから。
―― 周囲の反応を見ていると、「BLACK BIRD」は女性プレイヤーがけっこういますね。
ZUN:シューティングのどこを楽しむかが男女で違っている気もします。女性はキャラクターや世界観、この先どうなっていくのかみたいなところを楽しむ人が多くて、男性はシステムを理解して敵の攻撃を避けたり、スコアを稼いだりするのを楽しむイメージがある。クリアを目指ならどっちも楽しめる。
堀井:シューティングの自機にメカが多かったのって、インベーダーの砲台から始まってるんだよね。でもだんだん売上が下がっていくとメーカーもいろいろ考えるようになって、人がそのまま空飛んだりするようになる。ケイブの「デススマイルズ」とかめちゃめちゃ売れてるんだけど、そのへんも示唆的かもしれない。
木村:自分にとっては「ファンタジーゾーン」も「セクションZ」も、異世界で人間とか変な生き物が飛んでるからファンタジーなんだよね。「ゼビウス」や「グラディウス」も自機は飛行機だけど、ピラミッドとか地上絵とか出てきたり、太陽からドラゴンが飛び出してきたりするから、ああいうのは僕にとってはRPGで異世界を歩いてるのと似た感覚がある。
堀井:「グラディウス」はモアイとか出てくるしね。
なる:そういう意味では、「アスタブリード」をアメリカのショーに出展したとき、女性で遊んでくれる人がすごく多かった。日本だとやっぱり男性が多いんだけど、向こうでは男女関係なく遊んでくれて。
ZUN:アスタブリードはまさに人が飛んでるからね(笑)。
ただ私たちが好きだから作ってるんです
―― さて、そろそろ座談会も終わりに近づいてきました。最初の疑問に戻って、みなさんがなぜシューティングを作るのか、あらためてお聞かせください。
木村:昔はそれこそ、頭の中に革命を起こしてくれるようなすごいシューティングがたくさん出ていた時代があって、あのころの記憶がある人たちは何かしら、自分のシューティングを作りたい衝動を持ってるんじゃないかな。それをどんな形にして出すかは、その時の自分の作家性やプロデュース力によるんだけど。
堀井:僕は常々、みんながシューティングに熱狂するようになってほしいと思っていて、「BLACK BIRD」がシューティングを啓蒙(けいもう)してくれたらと期待しているんです。今までシューティングをやらなかった人も遊ぶ作品が出たという影響は間違いなくある。どうやったらシューティングを遊んでもらえるだろうかと考えていた自分がばかばかしくなるほどのインパクトですよ。
なる:自分はシューティングが覇権だった時代を知らなくて、そこまでシューティングにこだわっているわけではないんです。「アスタブリード」もシューターに遊んで欲しいというよりは、普段他のゲームをやっている人にもシューティングに触れてみて欲しい、という感じで作ってました。ガチシューター向けに作り込まれたシューティングは既にあるわけで、そこはうちじゃなくてもいいと思っていて。
「アスタブリード」は純粋なシューティングというよりはアクションシューティングなんですよ。PS4の新世代のシューティング、と評価いただくのはうれしいんですが、クロスイーグレットさんの「REVOLVER360 RE:ACTOR」とか、あっちの方が新世代シューティングではないかと感じていて。きちんとシステムができていて、グラフィックもキレイで、そのうえでちゃんとシューティングしてる。僕的にはあちらのほうが理想的だなと思っているんですけどね。
ZUN:私は同人でシューティングを作り続けています。インディーは面白いゲームを作ることが目的ですけど、同人は作ってる自分が楽しいのが目的なんです。最悪、シューティングがこれから増えなくても自分が作れてファンが喜んでくれればいい。シューティングはただ私たちが好きだから作ってるんです。シューティングを作ってる人はみんな売れるジャンルだから飛びついたわけじゃないんだよ、というのは言っておきたい。
堀井:売上の可能性よりも、もっと大事なものに飛びついているんです。楽しいことをやりましょう!
取材を終えて:巨大な「同人」としてのシューティング
なぜ開発者はシューティングを作るのか。その答えは、ZUNさんが最後に言った「ただ私たちが好きだから作ってるんです」という言葉に集約されるように感じた。
同人ゲームとインディーゲームは何が違うのか。しばしば議論される話題だが(多分作っている方は「どっちでもええわ!」と思っていそうだけど)、長年同人やインディーゲームを見てきた自分の結論としては、「本来の語源通り、『同好の士』にさえ届けばいいのが同人、もっと広い層に届けようとしているのがインディー」なのではないかと最近は考えている。
その意味では、シューティングというジャンル自体が実は巨大な「同人」なのかもしれない。開発者は自分が作りたいものを作り、遊びたい人がそれを遊ぶ。今回、『シューティングゲームサイド』元編集長の山本悠作さんにインタビューをお願いしたのは、『シューティングゲームサイド』もまた、商業誌でありながら利益を度外視した“同人誌的”な雑誌だったからだ。ゲーム業界の歴史を振り返ってみても、ジャンル単位でここまで愛されている例は他にあまり聞いたことがない。
確かに、かつての黄金期に比べればシューティングの市場は小さくなった。しかし、どれだけ市場が小さくなっても、「シューティングを作りたい」「シューティングで遊び続けたい」という開発者やユーザーの思いがあるかぎり、きっとこのジャンルは朽ちることなく生き残り続けるのではないか――座談会を終えて、そんなことをあらためて感じたのだった。(編集部)
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