泣く子も黙るような眼力など、こわもての風貌を生かした役どころで外れのない存在感を放つ俳優の遠藤憲一さん。近年では、渋い役からコミカルな役まで幅広くこなすバイプレイヤーとして知られるだけでなく、どんなオファーでも全力でこなす姿やバラエティー番組で見せるギャップも人気を集めています。
そんな遠藤さん主演で11月16日から公開の映画が「アウト&アウト」。人気漫画『BE-BOP HIGHSCHOOL』作者のきうちかずひろさんが“木内一裕”名義で書いた小説を自ら監督して映像化した同作は、元ヤクザの私立探偵・矢能がワケありで預かることになった小学2年生の少女・栞(白鳥玉季)とともにある殺人事件に立ち向かっていくストーリーです。
公開に先駆けて10月に行われた完成披露試写では「代表作の一本に数える作品になった」と語っていた遠藤さん。“エンケン”の愛称でも親しまれる遠藤さんにお話を聞いてみました。
矢能と栞の「孤独を抱えた者同士のやりとりに引かれた」
―― 「アウト&アウト」で遠藤さんが演じた矢能は元ヤクザの私立探偵という男ですが、その過去などは劇中でもあまり多くは語られていませんよね。矢能という男をどう理解されましたか?
遠藤 少なくとも“元ヤクザ”というのはあまり意識しなかったかな。孤独な探偵で過去にいろいろあったいわくつきの男だけれど、その多くは説明されていないのがいいなと思いました。自分がこの作品に引かれたのは“孤独を抱えた者同士のやりとり”。事情があって孤独を抱える矢能も、矢能と一緒にいる栞も孤独を抱えていて、年の差がある二人の距離感を意識しながらそれを表現するのが一番のテーマでした。
―― 最初に台本を読んだときには、どう思われましたか?
遠藤 原作でも台本でも、グイグイ動くのは矢能の周りの人間で、矢能自身はどちらかといえば受身だから、「この主人公で作品を引っ張っていけるのかな」と感じましたね。そういう受身のスタイルで見せることができるのは高倉健さんぐらいだと思いますし、自分はどちらかといえばいろいろ“やらかす”役が多かったので、それが自分にできるのか不安な要素でした。ただ、この辺りはきうち監督も「任せてください」と言っていただけあって、撮り方の工夫などで乗り切ってくれました。
―― 完成披露の舞台あいさつで、撮影当初は現場でいろいろとアイデアを出していたけれど、監督から「作りたいものがあるから、その通りにやらせてほしい」と言われて、以降は一から十まで監督の言う通りにやった、というお話がありました。アドリブの芝居などはなかったんですか?
遠藤 ないですね。アドリブなんか許される世界じゃなかったので(笑)。自分のアイデアも少し使われていますけど、9割方台本通りです。
台本通りに演じるのが得意な人と苦手な人がいると思いますが、俺は「(台本を)覚えた」って感じのお芝居は好きじゃないんです。「この通りにやってください」と言われると「間違っちゃいけない」という意識がどうしても強くなりますし。言うべきことはちゃんと言うけれど、その場の空気でしゃべって、動きも毎回違うなど、どちらかというと壊すスタイルだったので、せりふを一言一句変えずにお芝居するのは少し窮屈な部分ではありました。
ただ、ドンと重みのある監督の言う通りにしていく中で、演出にはやっぱり力があるなと分かってきたので、自分にとっての新たなハードルだと思って取り組みましたね。
相棒の栞(白鳥玉季)には「だいぶ救われた」
―― 劇中でバディとなる矢能と栞の関係は、ときおり栞が大人の女性のような感じを見せるなど、単なる大人と子どもではない関係性を感じました。白鳥さんとの共演はいかがでしたか?
遠藤 彼女を起用したきうち監督のキャスティングが光りましたね。玉季ちゃんは頭のいい子で大人でした。
劇中でも栞が矢能にお母さんのように注意したりするところがあるんですが、当人が元からそういう感じの子で、完成披露試写のときも「女らしさをすごく出してくる子とは、全然気が合わない」と言っていたのが驚きでした。「玉季ちゃんくらいの年で女らしさを振りまく子ってどういう子なんだろう」と思ったけれど(笑)。
ともあれ、すごい子役さんとの共演は想像もつかないことが起きるので、俳優としてとても刺激になります。
―― 撮影中、白鳥さんに結構救われた部分も?
遠藤 結構どころかだいぶです。彼女でよかったなと。最初にあいさつしたとき「敬語はやめて」って言ったんですが、すんなりと受け入れてくれたんです。中にはそういうふうに言っても、「怖い」ってなかなかできない子もいるんです。ただでさえ大人が怖いのに、俺はこの顔だから余計怖がられるし(笑)。なかなか心を開ききってこない子もいるんですが、彼女はそこは頭がよくて心を開ける子でしたね。
―― 現場で白鳥さんと「こう相対しよう」みたいなものはあったんですか?
遠藤 芝居というのは相手役があってこそで、相手役が起こすことに溶け込んでいくのが一番だと思うので、あまり役作りは考えずにやりました。監督に要求されたお芝居をしたときに、べったりになりすぎず、いとおしく思いながらも不器用なので距離をとっている……というのが自然とできた気がします。
―― 矢能という男は孤独な一匹狼で、劇中、険しい表情が多かったのが印象的でしたが、一方で栞や高畑淳子さん演じるお婆さんの前では表情を和らげたり、笑顔を見せるときもありました。
遠藤 “やりすぎない”という監督の演出意向もあったので、淡々とした鋭い男をずっと意識していました。自分が普段よくやる“おどけ”の世界に入るのではなく、とはいえ、栞や高畑さんとのやりとりでは優しさをさりげなく出すことも意識しましたね。
―― 実際、この作品はところどころくすっと笑ってしまうシーンがありましたが、ああいう場面も全て監督の言う通りに?
遠藤 監督の言う通りです。自分たちは「面白くしよう」とは考えてないですし、お芝居しているときは面白いシーンなのかどうかも分かっていなかったので。例えば、矢能と一緒に行動する運転手の男とのやりとりも、運転手の男を演じた彼自身が面白くしようとはしていなくて、自然とああなった。共演した(プロレスラーの)中西学さんも、本人がただただ緊張している人だったので、その緊張したままを映していったんです。そこは監督の笑いのテイストが優秀であり、役者の魅力を上手に引き出したなと思います。
―― 矢能は厳しい男ですけど、中西さんが演じる刑事も含めた“愉快な仲間たち”からは好かれていますよね。
遠藤 彼らは裏稼業のときの仲間なんですよね。みんなポンコツだらけ(笑)。だけど、最終的なところでは絶対に裏切らない信頼関係がある人たちが“愉快な仲間”なんじゃないかなと。どれだけ頭がよくても大本の根っこで裏切る相手だったら信用できないじゃないですか。一番大事な「仲間を裏切らない」ことだけは信頼して付き合っている人たちなんじゃないですかね。矢能はそういう人の心の根っこみたいなものを見抜くのが唯一長けている男なのかなと思います。
「ポンコツを許してくれる時代」
―― 遠藤さんは、こわもての役からコミカルな役まで自在に演じる印象がありますが、得意な役、苦手な役などはあるんでしょうか?
遠藤 得意な役はないです。いつも試行錯誤もいいとこ。迷って落ち込んで……を繰り返しています。いつも落ち込んでいますね。
―― とはいえ、今はバラエティー番組の出演も多く、若い女性にも人気です。ご自身の魅力は何だと思いますか?
遠藤 最近自分でも「この顔でよく(テレビに)出てるな」ってよく言っています(笑)。やっぱりテレビは基本さわやかじゃないといけないと思うので、よく使ってくれてるなと。自分の魅力が何なのかは自分じゃ分からないですけど、現代は“ポンコツを許してくれる時代”になっているのかもしれないなとは感じます。手厳しい時代なのに、本当のばかには優しい時代というか(笑)。
自分はポンコツで、一昔前なら、ばかにされるくらいしかなかったんですよね。バラエティー番組では素を出さないといけないけど、素になるとほとんど何もできないし、とんちんかんなことを言っちゃうんですが、そういうのをバカにしない時代になっているのかなと思います。
―― そろそろ年の瀬も見えてきました。遠藤さんにとって2018年はどんな年でしたか?
遠藤 波乱万丈の年でした。いいこともありがたいこともあったけれど、大変だったこともあって、いろいろと鍛えられて乗り越えた年でした。
―― 2019年はどんな年にしたいですか?
遠藤 だんだんと目の前にある作品を燃焼させるしかなくなってきているので、もう目の前の一作を乗り越えることですね。2019年も年明け早々にこれまでやったことのないようなことをやるので、いっぱいっぱいで乗り切っていくしかないかなと思います。
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