無限折り、領域付加、円分子法……って俺の知ってる折り紙じゃない 「超複雑系折り紙」の作り方を開成学園「折り紙研究部」に聞いてみた(3/4 ページ)
レベルが高過ぎて、もはや折り紙に見えない件。
―― 「創作のときには展開図が使われる」という話がありましたが、こういった複雑な作品だと手描きするの大変じゃないですか?
大澤:いえ、「ORIHIME」「ORIPA」という展開図制作用のフリーソフトがあるんですよ。本当に折れるかどうかのチェック、完成後の形状予測なんかもできて。
ただ、創作の仕方は人それぞれで、展開図を使わない人もいますね。バンバン作りながら考えていく、という。
中村:自分はそうですね。適当に折って「これトラっぽいな」と思ったら、頑張ってそれっぽくしてみるんです。で、何となく体ができたら、今度は顔を考える、みたいな。
それで形が決まったら、金色の紙で試作します。ちゃんと仕上げるときは折った後、紙が開かないようにボンドなどで固めるんですが、金色の紙だとアルミホイル的な感じで形を保ってくれるので。これは、よくあるやり方ですね。
―― 僕が小学生のころは「金、銀色の折り紙=貴重なもの」という認識でしたけど、逆なんですね。
金子:1枚くらいしか入ってないですもんね。
中村:ちなみに、試作のときは金色の面が裏になります。表に来るのは白色ですね。
――ところで、ずっと「スゴい折り紙」「複雑な折り紙」みたいな表現を使っていましたが、こういう折り紙作品は何と呼べばいいんですか?
中村:分類としては「スーパーコンプレックス折り紙」。
大澤:スーパーコンプレックスは、漢字で書くと「超複雑系」です。
―― カ、カッコいい……!
2018年には「日本中高生折り紙連盟」が発足
―― 折り紙の部活は珍しいと思うのですが、他校との交流はありますか?
金子:2018年5月、僕が会長をしている「日本中高生折り紙連盟(JTOU)」が発足して、合同で研究会を行っています。多いと月に数回くらい集まって、さっき話に出た円分子、領域付加などの解説をしたり。今のところ、所属校は関西から北関東まで15校くらいですね。
―― 開成、麻布、東大寺、洛南、早稲田……って偏差値めっちゃ高くないですか? 難しい折り紙は、数学的能力が高くないとできないとか?
金子:数学や宇宙物理学から「折り紙の技術を応用して何かできないか」と考える人はいますね。開成にも自分たちで飛行物体を作っている人たちがいて、僕も手伝ったことがあります。
でも、それは「あちらから折り紙に来る」という感じで、「折り紙から理系分野に行く」ではないですね。よく「部員は理系が多いんですか?」って聞かれるんですが、あまり関係ないです。一応、創作の段階で計算することもあるんですが、手計算はいりませんし。
大澤:勉強できるかどうかというか、自分たちで活動を始めやすい環境が必要なのかなあ、と。
金子:普通の学校だと、折り紙の部活は排斥されてしまうんだと思います。何というか、“陰キャの遊び”っぽく見られやすいというか……。うちの学校は偏見がないから、やりやすいんですけどね。
―― 中高だと“文化系の部活を格下に見る空気”が強かったりしますからねえ……。
金子:あと、僕が集計したところ、日本中高生折り紙連盟に所属している部活全体で80人くらいいるんですが、不思議なことに男ばかりなんですよね。学校も男子校がほとんどで。
―― あれ、折り紙自体は女子もやりそうなものですけど。圧倒的に男子が多い世界なんですね。
金子:どうしてなんでしょうね。女子の場合は、スーパーコンプレックス折り紙で「複雑でかっこいい作品を作りたい!」という方向に行きにくいのかもしれません。
―― 研究会のほかに、連盟の活動はありますか?
金子:今は、日本折紙学会と関連の深い「おりがみはうす」というギャラリーで、合同展示をしてもらっています。あそこで団体展示っていうのは、まずありえないことですね。普通は「おりがみはうす」のスタッフをしている作家さんの作品だったり、学会の集まりで賞をとった作品だったりで。
「国際大学折紙連盟(ICOA)」という組織があるのですが、たぶん、そこにつながる学生組織として目をかけてもらっているのかな、と。
それから、3月26日〜28日まで、デザインフェスタギャラリー(東京都・原宿)でも合同展示を行うことになっています。開成折り紙研究部の展覧会自体は以前からあったのですが、今回から連盟として行うことになり、会場がグレードアップできました。
展覧会情報
おりがみはうす 日本中高生折り紙連盟作品展
- 場所:おりがみはうす(東京都文京区)
- 期間:3月中旬まで
- 料金:無料
日本中高生折り紙連盟 『はいおり 春の展覧会』
- 場所:デザインフェスタギャラリー(東京都渋谷区)
- 期間:3月26日〜3月28日
- 料金:無料
余談ですが、部活が終わる時刻になると、折り紙研究部の面々は円になって「部屋の鍵返しジャンケン」。最終的には先輩と後輩の一騎討ちになり、負けたのは先輩。「マジかよー」と悔しそうにしていたのですが、もう社会に出てしまった筆者には何だかうらやましく思えました。
そのフラットな上下関係は、高校の部活というより、同じ趣味の仲間同士で集まったサークルに近い印象。ガツガツした雰囲気もなく、個々の自由に任せて楽しみながら活動しているようでした。「好きこそものの上手なれ」とは昔から言いますが、その作品のクオリティーは思わず目を疑ってしまうほど。あんなの、紙を切り貼りしたって作れる気がしないぞ……。
開成学園らによる「おりがみはうす」展示作品は、次のページにまとめて掲載しています
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