春ですね。さまざまな新しいスタートを切った人、またその頃を懐かしく思う人……春は初々しい雰囲気にあふれています。当連載も「司書みさきの同人誌レビュー」としてリニューアルスタートです。
そんな今回は理学部生さんの学生生活の開始にぴったりな同人誌『理学部生を手伝うイモリ』をレビューします。
- これまでの連載「司書メイドの同人誌レビューノート」
今回紹介する同人誌
『理学部生を手伝うイモリ』A5 32ページ 表紙・本文カラー
作者:おすとらこーだ
学生時代に知っておけばよかった! 先人の知恵が詰め込まれた丁寧な理学部生ガイド本
こちらの同人誌は、理学部出身の作者さんが「もっと早く知っていたら、効率よく進められた」というご自身の反省を踏まえ、「もし過去にもどって自分に出会うことができたらこれを教えたい!」という気持ちで書かれた、理学部とは何を学ぶところかを解説した同人誌です。
学部の説明、講義を選択するといった大学生になってはじめて出会うことの説明から、論文を読んだり探したり、研究発表の心得まで。入学から卒業までが1冊にまとまっています。
実験レポートの書き方も液体窒素を運搬する方法も。垣間見える理学部生活にわくわく
何かを学ぶとき、それぞれの分野には独特の方法があるものですが、それにしてもエレベーターを使って液体窒素を運搬する方法なんて、いままで考えたことなかったです! そんなことがさらっと載っていて、知らなかった理学部生さんの学生生活を垣間見ているような楽しさがあります。
一方、実験レポート講義の選択の仕方などはどの学科の学生さんにも共通する出来事ですし、危険予測をしようとか、体調管理に気を付けるというのは、もう社会人をやっている人、誰にでも役立ちそうな項目も多いです。
この専門性と普遍的お役立ち感のバランスの良さに加えて、登場してくる両生類のイラストが絶妙にのんびりした空気を醸し出しているんです。
例えば、「研究室を選ぶ」という項目の先生紹介は、
- 講義が面白いので学生に人気。面倒見はいいが金はないメキシコサラマンダー准教授
- ハイレベルな教育 学科内の発言力が強い オオサンショウウオ教授
- 完全放任主義 新しい機器がすき アメフクラガエル准教授
などなど、文章説明で「どの先生の研究室を選ぶかで、確かにいろいろ変わってきそう……」というリアルな悩ましさを感じつつ、メキシコサラマンダー准教授の個性的ないで立ち、オオサンショウウオ教授のどっしり安定ムードのイラストがあることで、なんだかほのぼのと「先生もいろいろな方がいらっしゃるよね!」と、ふふっと笑う、ちょっとした余裕が生まれた気がします。
ゆるくも優しい先輩目線。ありがとうイモリ先輩
カラフルな色使いと、目の大きなイモリさんたちのイラストがたくさん添えられていて和むわーと、ぱらぱらとページをめくっていたのですが、通して読むと、はっと気付きました。このゆるさ……あらためて考えるとすごい! ガイド本ともなると、ついついあれもこれもと詰め込みたくなりますが、このご本は1項目につき長くても見開きで説明が終わっています。しかもイラストも多くて要所要所のコメントが短い。ゆるく見えるのに、なんでも知ってて的確なアドバイスをぽろりとこぼしてくれるイモリさんのすごさにあらためて気付きます。イモリ先輩! と呼びたくなるさりげない頼もしさが光ってますよ。
大学のガイダンスで教えてくれるようなストレートな紹介と、経験者ならではのコツがそこかしこにちりばめられているのが、このご本のお役立ち度を押し上げています。右も左も分からない学生に寄り添ってくれるイモリさん。なんと心強いのでしょうか。
新人のうちはとにかく目の前の道を走ることでいっぱいいっぱいですが、そこに投げかけられる経験者ならではのコツ。それが真正面からだけでなく、違う視点からのヒントを与えてくれる優しさ……新生活の始まりをイモリ先輩とともに踏み出したくなります。
今週の余談
連載リニューアルにあたり、しきしまさま(@shikishima)にバナーイラストを描き下ろしていただきました! 人工衛星を女の子にしてみることでものすごく人工衛星に興味と愛着がわく、しきしまさまの名著『萌衛星図鑑』から感じるままに、細やかでかわいらしい雰囲気のバナーになりました。ぜひ細部までよーく見てみてください。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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